エピローグ
そもそもは8月の、お盆あたりは空けておいてと伝えていた。お気楽な大学3年生の夏休み、たぶん予定はどうにかなる。一番 都合がつけにくいのはなんたって葛西だ。とは言えお盆あたりなら、日本の社会人としてわりと周囲との摩擦少なめに仕方なく休めそうかな、って。
7月に一旦 帰国したあたしは、御親戚およびお取引先への挨拶回りやらお墓参りやらをパパと一緒に慌ただしくこなし、アメリカの秘書さんと連絡を取りながら旅行の手配をつけた。
そして、今日。皆々様をここ、国際空港へお呼びたてしたと言うワケ。で、何なのさ。葛西ったら開口一番。
「もう本当にさ、妹尾は一体 何者なの? なんで俺のメアドとかスケジュールとか知ってんの? アメリカで何 学んでんだよお前はさ」
「一高校教師のメアド入手するなんざ朝メシ前。顔ぶれ考えた時にスケ確 最優先なのは葛西でしょ」
「何でも略すなよこの若者どもが…すけかく? 助さん格さん?」
「スケジュール確保! 何なのそれ、天然? 萌えないんだけど」
「萌えさせるつもりはねーよ!」
目の前でブツブツ言い続けている葛西は一旦 置いといて。しかめっ面とは裏腹にTSAロックまでバッチリ対応のリモワスーツケースと完璧なバケーションスタイルに言い知れぬやる気が嗅ぎとれるっつの。何このレギンス男子。深緑色のショーパンはピーターパンか。永遠の少年か。
なんてことをニヤリ考えながら背後にベッタリくっついている大きな身体を引き剥がす。
「武瑠は相変わらず鬱陶しい!」
「万葉ちゃんは相変わらずつれないよ! 久しぶりだよ? いや久しぶりって範囲超えてるよ、何年ぶりだと」
「2年4ヶ月ぶりでしょーが、久しぶりで良いじゃん。てかちょいちょいスカイプ…」
「相手、主にミコちゃんじゃん! オレじゃないし!」
「まあでも繋がってるでしょ、そのへんモロモロ」
「雑! 雑だよ万葉ちゃん! オレ寂しかったのに!」
目の前でブツブツ言い続けている武瑠も一旦 置いといて。無視する前に飲みかけのペットボトルを取り上げる。国際線に持って乗れるか、っつの。
残る三人は、と振り返り見れば若干の賑々しさに引いている。物理的に。ちょっとこっち寄んなさいよ、礼。
「万葉なのねえ」
「あんたの感心ポイントが今まったく掴めなかったわ」
「いや、御子柴の感慨は解るぞ。しみじみ呟きたくもなるなこれは」
「弓削の共感ポイントもまったく頷けないわよ」
相変わらず表情からその心中を察しにくいサムライ、もとい弓削。物足りなさは確実にあるだろうね。どうしても実習の予定を変更することが出来なかった美琴姐さんの不参加は、弓削だけじゃなくてあたしも大いに残念。とはいえ輝かしい未来へ向かって、清く正しく歩む姿は美しい。邪魔するワケにはいかないわ。
姐さんには今日という日に重要なお願いごとをしてある。もうすぐここへ、連れ立って来てくれるはず。
「で、」
「……ギクリ」
「何なの山田、そのノリ昭和か!」
「いやほら…俺のことだって。朝メシ前なんだろうな、と思うと」
「そう、山田ちょっと」
山田へ一歩、距離を詰めながら気づいた。山田、という音——それはとりたてて何と言うこともない苗字の一つなのだろうけど——にピクリと小さく、身体を反応させる礼。
そう、そうよね。ここにいるのはもはや「御子柴 礼」ではない。「山田 礼」なんだ。駄目だな、あたしはまだまだ礼を嫁に出せてない。
「前髪 上げて」
「……妹尾さん?」
「天誅!」
「ぐ、がっ!」
「か、神威くんっ!」
アメリカの地ではなかなかお披露目する機会が無かったけど、あたしのデコピンはまだまだ衰え知らずらしいわ。その場に蹲り頭を抱え声にもならない謎の濁音を吐き、ひたすら痛みに耐えている山田。
搭乗手続きへ急ぐ人の邪魔になってるわね、あたし達。
「礼を泣かせた罰よ、ゴルゴに狙われなかっただけありがたく思って」
「……はい」
「神威くん…痛いのよねえ、万葉の本気デコピン。あとからジンジンくるのよね」
「うー、共感ありがと礼ちゃん。でも、」
一旦 言葉を切った山田は、天窓から射し込む光の加減でところどころ薄茶色に見える豊かな髪を振ってすっくと立ち上がる。サラサラと音をたてそうな。ほんと、美の女神とやらに愛されてる男だな、とつくづく思う。
あたしのグローバルビュー(いや、カッコつけてみたけどアレね、単に日本男児だけじゃなく米国在住多国籍メンズを目にしてきたよ、ってことでね)からすると、山田 神威なる人物の、その中身を完璧とは言い難い。得てしてそれを武器としていく輩が多い昨今において、生まれ持ったせっかくの麗しい見目にまるで頓着しない鷹揚さは、ある種の賞賛に値すると思うけれど。
「これくらい、当然で…いやむしろ、これくらいで済ませてもらえてることが、奇跡だから…だから、本当に、すみませんでした…と。ありがとう、ございます」
礼は、神威くん、なんて困り顔で呟いてるけど、あたしはしばし、言葉をのんだ。耳を塞ぎたくなるほどざわめく雑踏の中で、本来 飛び込んでくるはずの数多の音が一瞬にしてかき消えていく。不思議と、頭を下げる山田が際立って見えた。
「万事が謝って済むなら警察は要らないんだよ、山田」
「……ごもっともです」
「だから、アンタはどうするの? これから」
あたしはそこを確認したいの、と言い切るより早く、努力、と山田は返してきた。間をおかず、至極端的な、それでいて覚悟ある清廉なレスポンス。今この場での思いつきじゃないことは確か。悪くない。
「俺は、ほら…魔法使いでもないしチートもないし。記憶の上書きなんて、出来ないし。俺が、俺として、この先ずっと続けていけることって言ったら」
「そうね」
伏し目がちだった山田の視線が主張とともに上がってきて、最後にはあたしの眼力まで奪い取っていく。どことなく感じる違和。何だろうな、これ。
(……山田。少し、変わった?)
分かっているくせに。
その変化へ、素直に「成長」という称号を与えないあたしはどこまで意地悪なんだろう。どこまで上から目線なんだろう。
元々、山田はもっとぼんやりした人間だったように思う。
人は見た目が9割、なんて言う失礼な理論も世の中には存在するけれど、当該人にとっては良いことばかりじゃなかったんだろう、あたしは山田を若干コミュ障だと感じてる。社交性に欠けるし、閉鎖的人間関係の中で生きてきてるからね。まあ、そこがあまりに居心地好すぎて、他に求める必要がないってのも分かってる。
例えば、ありえないけど例えば。山田がチャラ男化したとして、それでも周りの(あたし達を除き)反応はタカが知れているだろう。「あー、ね」くらいなもんじゃない? そもそも許される容姿だ。敵わないとオスの本能が平伏すほどの美少年レベルだからさ。
ちなみに一時帰国して驚いたんだけど、最近の日本じゃチャラ男の就職内定率が恐るべき高さらしいよ。理解できないでもないよね。何社に対しても「御社が第一志望です!」と罪悪感オフ躊躇いゼロで言いきる舌の軽さは、合コンで「彼女? いるワケないじゃん!」なんて平気ではぐらかせるノリと下半身の軽さに通じている(のだろう)。
(無いんだよねー、そういうの)
山田は、もっと器用に振舞ったっていいのだ。振舞えるスキルが潜んでいるのかどうかは別として、ほら、葛西を真似てみるとかさ。
(あー、でも葛西のアレはなー、歳くってるプラス接してきた人間の数が圧倒的に違うからなあ。加えてあの、モテない田舎のヤンキー男子的思考をいつまでも忘れてない感じが良いんだよね)
腕を組み、一人にやり笑いをこぼすあたしを不思議そうに見返す山田と礼。
見た目平々凡々なあたしが羨ましさ通り越して、その隅々まで分析し、活かしやすい長所のみ全面的に押し出し、残念な内側はひた隠し、この先の人生 総合プロデュースしましょうか、とご提案差し上げたいくらい。山田の生き様は、どちらかといえば不器用だ。
(いや。過去形にするべきですか)
卒業式の、あの日。
どこかしら頼りなげにも見えたその長身は、今も変わらず礼の隣にあって、けれど輪郭が随分とくっきり目に映る。
当然といえば、当然、なのか。そうあって欲しいと、勝手に想いを馳せてきたんじゃないか。傍近くにいないからこそ、あたしはあたしなりにあの手この手で三年を共にしてきた。
山田の変化をすんなりと認められないのは、自分はどうなんだと問われそうだからだ。あたしはちゃんと変われてるのか。成長出来ているのか。時間だけを無駄に過ごしてきたんじゃないか。目を背けたくなる自分は、とても弱いんじゃないか。
山田の傍で凛と立っていられる余裕が、あたしにあるのか。互いに認める、受け容れる、って、自分の器に余裕があるからこそ出来る至難の業。余裕を生み出す源は、敬愛の情とか尊敬の念とか肉親の絆とか、様々だろうけど、あたしは一体、どうなんだ。
突きつけられる過去と現在と未来と。
くそう。あたしは逃げ出さないだけの強さを、身につけられたかな。高飛車な態度だけは、相変わらず一人前なんだけど。
「まあ。つまるところあたしは、山田のそういうとこ、嫌いじゃないワケ」
「? …妹尾さん、えー、っと」
「きっと勉強とか、一生してかなきゃなんないのよ。アンタが言ってた男子力だって、そうよ、終わりなんてないのよ、そんなの自分で決めた時点で何もかも終わっちゃうのよ」
どこから聴いていたんだか、終わりなき旅、なんて葛西が口を挟む。一番好きな曲だったっけか、葛西の。そんな思考につられて、目の前の山田から視線をずらし思わず空港内の広々とした空間を見遣る。
そろそろか。
フライト情報の真下、デジタル時計が約束の時間が近いと知らせてくれる。不思議なことにその姿を真っ先に認めたのは、誰よりも視力が悪いはずの武瑠だった。
「あ! れ…? 美琴、と——」
転けつまろびつ、という表現がぴったりだった。いや、美琴姐さんは見事に自分のペースなのだろう。主に、後ろ手に引かれる、あの青年に対して、だ。
「あー、良かった! 間に合わないかと思ったわよー」
「右京くん…」
「え、ど…これ、どうしたの? どういうこと? 姉ちゃん」
「どうもこうも、この子 今日が出てくる日だったから。見送りにさ、一緒に行こうって誘ってきたわけ」
さも気軽なお出かけ、みたいなノリで語る姐さんに微苦笑が浮かぶ。そんな簡単な話じゃなかっただろうことは容易に想像がつく。でも決してこの人は、本当に大変だったことを大変そうには口にしないんだ。そんなところ、好きなんだよね。
丸めた頭を隠すためなのか。それとも、連れて行かれた時の格好そのままなのか。薄地のニット帽をやや深めにかぶった真坂 右京は、けれどその戸惑いは隠せないらしい。すっかり青白くなったその頬から目もとにかけて、無理矢理に走らされたせいかほんのり薄紅に染まっている。額に汗、あがった息を整えようと口元に当てている掌とか、ここは何処なんだと懸命に認識しようと忙しく動く目とか、独りきりだったら挙動不審で職質ものかもしれない。
「姐さん、お疲れ様でした」
「うん…いや! なんか違わない? 私が出てきたっぽくない? あれ? 万葉ちゃん、髪 切った?」
「タモさんですか」
何年ぶりかな、とこの構図をどこか俯瞰しながら、あたしは右京と視線を絡めた。認識に理解が追いついていないのかもしれない、まず先立った驚きと、ついで襲った複雑な感情が、右京の眼球を激しく震わせる様をあたしはじっと見つめていた。
「……せ、妹尾——」
「……久しぶり」
「あ、ほらアレよ、辛気臭い挨拶とか抜きよ? 保護司さん待たせてるし、時間ないんだから。会ったらまずお礼言わなきゃ、って車の中で話してたじゃない」
やっぱり美琴姐さんがこの場にいてくれて良かったと思う。敢えて空気を読まない感じのこの、親戚の世話焼きおばさんみたいな調子が、確かに沈みそうだった瞬間の空気をひょいと持ち上げる。
「あ、…はい。え、と…」
「あら、あんた達は身構えなくていいのよ? あ、先生も。この子が今日まず真っ先にお礼を言うべきは、万葉ちゃん!」
「え? あたし?」
思わず聞き返してしまうほど意外だった。何故にあたしなんだ。まず、お礼、だなんて。
「……保護司さんから、聞いた。オレの就職先、妹尾が…紹介してくれた、って」
「ああ、そのこと。ありがたがることなんてないわよ、うちの…つか、うちの親がやってるホテルだからさ」
「……いや、ありがたすぎる。働く先なんて…そんな簡単に、見つからないんじゃないかと…不安、だったから」
気が抜けたように返したあたしだったけど、にも関わらず右京は律儀に謝意を述べる。ありがとう、と。
中学の時にもきっと、何かのタイミングであたしは同じ言葉を右京から貰ったことがあるはずだ。なのに、今のこれは、何。この、たった一言の重みって。お礼を言われたあたしが覚えるこの罪悪感って、何だ。
「……いや、本当にあたしの勝手だから。アンタ、あの家には戻らない方が良いと思ったし。見張っときたかったのよ、アンタのこと。うちの社員寮に入ってもらうんだからね? 常にどこかしらあたしの身内の目があるのよ? 国から補助金だって貰うし、」
「……うん」
「何かいろいろ、刑務作業で頑張ったんだろうけど、ほらそういうの、全部が全部活かせる訳じゃないんだし。社員一人ひとりのことまであたしも行き届かないから、アンタ虐められたりするかもしれないし、」
あたしの記憶の中にある右京はただ大人しく虐めに耐えるなんてイメージが全く無いから、あたしは、残酷なんだ。右京を目の届く範囲に置いて、さも手を差し伸べたふりをして試してるんだから。だから、ありがたがることなんか。
「……それでも。やっぱ、嬉しいし…オレは、妹尾達のこと、グチャグチャにしたのに…」
このタイミングで、とこちらが戸惑うほど右京は目を真っ直ぐに向けてきた。ああ、何か。見えない何かに気圧される。負けるようなあたしじゃないけどこんな清々しい対峙、右京としたことなかったな。例えば礼のことで拳を向けた時は、どす黒く果てない闇が右京の周りをそれは深く覆っていたもの。
そう。アンタ、置いてきたのね。知らず引き寄せてきた禍々しい力は全部、あの塀の中へ。そして身一つで、確かに今、ここにいるのね。
「……誰も、オレを、グチャグチャにしない。山田くんも、ミコちゃんも、友達連中も、ご家族も…優しすぎるよな、って。人が好すぎる、って、思ってた」
「それは、アンタが。分かり易い制裁を欲しがっただけでしょ」
「そう…流石だな、妹尾。妹尾のこと、オレは昔から怖かった。何でも見透かされてるような気がして」
そう言って気まずそうに視線を逸らした右京へ、あたしは自然と噴き出した。
そうね。昔のアンタの笑顔が偽物だったことくらい、すぐに分かった。だからこそ今だって分かっちゃうんじゃん。
「あ! ねえちょっと、そろそろ荷物預けたりしないと時間の余裕なくなっちゃうわよ!」
「そっすね。みんなパスポート持ってるわよね?」
勿論、と言う声にぐるりと視線を巡らし、あたしは右京をもう一度 見つめる。
あのさ、と、友達でもない、でもただの同級生でも知人でもないこの距離感が、少しずつ埋まるのはいつだろう。次にあたしが帰国した時は、一体どうなっているんだろう。
「一度 罪を犯した人の社会復帰は難しい、って聞く。再犯率だって低くない。真坂 右京って名前はアンタが考えてる以上にあちこちで呟かれて回されたし、顔写真だって晒されてるわ。だからってあたしは、そこを手取り足取り護ってやろうとは思わない。だけど、チャンスは平等であるべきだと思ってる」
右京はとても穏やかにかぶりを振った。そんな緩やかな動きにも、みんなの視線は寄り添っている。不可思議な、言い表し難い感情の糸が、あたし達を綯うのだ。
「……チャンスなんてもんじゃないよ。本当に…その、みんなからいただいたものは、オレが生きていく、理由だし。ただ、許されるんじゃない優しさは、厳しさでもあるから…人らしくあるための、緊張感、だし」
「分かってんじゃない! じゃあ後は実行あるのみよ! ささ、戻ろうか、保護司の人に怒られちゃうわ、5分だけっつったのに!」
ハイ、じゃあみんな、いってらっしゃい! と美琴姐さんはあたし達に満面の笑みを愛らしく向けながら右手を振る。左手で、同じようにしろ、と右京へ促して。
いや、姐さん。戸惑いの右京へ笑顔の強制は無理でしょう。本来、端整な顔立ちがぎこちなく歪んでいる。
「……じゃあ。山田くん、ミコちゃんも、」
「うん、ごめんな? うちの姉ちゃん、超マイペースで。悪気はないはずなんだ、たぶん」
「感傷に浸んなくていいから! どうせ5日後には万葉ちゃん以外、戻ってくんのよー」
じゃあ心! お土産頼んだわよ、と言い残し、美琴姐さんは文字通り、右京を引きずり去って行く。後に残ったのは呆気にとられたあたし達の、一様に出た苦笑。それは次第にお腹を抱えるほどの笑いに変わる。緊迫、と言わないまでも、リラックスとはほど遠い空気感だった。一旦 緩んでしまえばなんだかグタグタになる。
「あー、美琴、相変わらず竜巻みたいだったねえ」
「ぐるんぐるん巻き込んでったね、凄いな神威の姉ちゃん」
「いやー、びっくりした。心にお土産 頼んでたね? 俺への横暴注文が無かったー」
「あ、そこびっくりポイント?」
「ちなみに、何を頼まれたの? 心くん。お差し支えなければ」
「……差し支えも何も。のみの市でセンスの良い骨董品を掘り出して来い、だった」
「ええー、繊細と大雑把の狭間ー」
「難しいなあ。愛の試練だねー、心」
そんな会話を交わしながら、視線の先は点になっていく美琴姐さんと右京へ。行き交う人は嫌になるほど多いのに、視界という舞台の上で綺麗にそこだけスポットライトが照らし続けているようだった。
意味、ないけど。あたしは小さく手を振った。
さて。
誰からともなく、あたし達はそれぞれにスーツケースを転がし歩き出す。弓削のそれは、新しいシリーズのサイレントキャスター付きらしい。一番大きなサイズを軽やかに滑らせていく姿に薄らと昂りを感じて胸の内が踊り出す。アメリカに着いてからは忙しいわよー、なんたって大統領並の超過密スケジュールだからね。
さあ、行こう。
ともに行こう。
どこまでも。
いつまでも。
それは時に険しくも、時になだらか。下っていったその先は、上るしかない先のはず。一筋の光すら射し込まない暗闇で蹲るしかないというなら、それでもいい。そうしていてもいいよ。
だけど、ほんの少し。身じろぎさえすれば、掴まえられる温もりがある。世界が変わらないのだと嘆くよりも、動かせるなら指先ひとつ。出せるのならば、叫び声でも。発してみて。
その微かな震えは、いつか世界を変えていく。
あなたの前にきっと、道はどこまでも続いていくのだから。
(終)
恋する男子力II Lyra @lyraberry
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