もしも拷問官の相棒が心を読めるテレパスだったら?
斬新な発想で描かれたこの作品はファンタジーの新しい地平を切り開く無限の可能性を秘めています。リアリティあふれる世界観でありながら、読者に配慮して拷問の直接描写はほとんどないのも好印象。それも単に「どうだい、このアイディア面白いだろう?」と見せびらかすだけではなく、そこから登場人物を増やし、人間関係の変化とその結末まで描き切っているのですから入賞は当然の構成力と技量と言えるでしょう。
本当に男女関係の構築が丁寧で素敵なんですよ。単にモンスターから助けてもらったので一目ぼれしました…という単純なものとはわけが違います。
更にそれだけで留まらず「特殊能力は人を幸せにするのか?」という裏のテーマにまで取り組んでいるのですからまったく頭が下がる思いです。能力者だからといって身の丈以上を望むべきではない、という台詞は地下の拷問部屋という環境と相まって実にキマっていました!
友達以上、恋人未満。あるいは家族のように欠くことのできない相棒。
心が読めるようで、互いに判らないこともある。
正に今回の企画テーマである「絆の二人」とピッタリマッチします。
令和の時代に相応しいファンタジーをお探しの貴方へ、おススメです!
日常的に罪人を拷問にかけ、その秘密を暴くことを生業としているジャック。
ある日、彼のもとに一人の少女が連れてこられます。連れてきた衛兵曰く、彼女は人の心が読めるということで、ひょんなことから尋問の手助けをすることになり——。
ジャックの独白で語られるこの物語はとても静かで、それでも少女と出会ったことで少しずつ心を動かされていく彼の心情が丁寧に語られます。というか、そもそもの出会いから彼の優しさが滲み出ているように見えて、何だかとても胸を締め付けられました。
やがて、一人の男が罪人として連れてこられ、その男と対峙したことで二人の運命は大きく変わっていきます。
短いながらも、抑制され、かつとても美しい筆致で語られる、痛みを伴いながらもどこか温かい物語でした。