第193話 コンマ0.01秒の軌道修正-G-

 今の暦は、癸巳みずのえみ年、戊辰つちのえたつ月、丙辰ひのえたつ 日、辛卯かのとう刻。


 M・M・O・Wメリーメントオンラインワールドには、チートアイテムの〝砂中金ちゃちゅうきんの砂時計〟も、〝松煙しょうえんの古代墨〟もない。


 でも、代わりに装備している武器の魔力ゲージを上昇させることで、魔法の威力を向上することができる。

 俺のあやつる〝ロンリー〟は、ブラック=ホウセンの猛攻を大楯でしのいで魔力ゲージを上昇させ、後ろに控える九条くじょうさんがあやつる〝ねぎっこ〟は、棍棒と戦靴シューズで華麗なコンボを決めて、魔法ゲージを上昇させる。


 そして、二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟は、クナイとレイピアの魔力ゲージを使いまくって、ブラック=ホウセンのHPをみるみると削っていった。

 〝フーター〟の猛攻を受けて、ブラック=ホウセンのHPはたちまち点滅をはじめる。


「よし! 大楯の魔力ゲージがマックスになった」

「こっちも、棍棒と戦靴シューズの魔力ゲージが、マックスのレベル3まで貯まったし!」

「そんじゃ、クーちゃん、ブラック=ホウセンをぬっ殺すのだ!」


「りょーかいのすけ!」

 

 九条くじょうさんがあやつる〝ねぎっこ〟が、棍棒を地面に突き刺すと、棍棒が黄色く輝いた。その瞬間、

 

 バシューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


 〝黄竜こうりゅうの宝玉〟を装備した〝ねぎっこ〟の棍棒は、レベル3の魔法の効果で、ぐんぐんぐぐんぐんと高く高くめちゃんこ高く上空へとのびていく。


『すげえ!』

『めちゃくちゃ高くね!』

『さっきよりも随分ジャンプしたな!』

『え? まだ伸びてくの?』

『おいおいおい! どこまで伸びていくんだよ!!』

『すげー。地平線が丸いよ!』

『地球は丸かった!』

『ん? この世界、地球なのか?』

『しらねw』

『そういやフーターはどこいった?』

『あ、ねぎっこと一緒に飛んでいる!』


「にゃははは! 高い高い!」


 〝フーター〟は、〝ねぎっこ〟にワイヤーをブッ刺して、一緒に天高く空中を舞っていた。


「じゃあ、行くし! 〝白秋はくしゅうの宝玉〟発動だし!」


 キラリン! ギュルルルルルウ!!


 〝ねぎっこ〟の戦靴シューズが白く輝き、高速なきりもみ回転をしながら落下していく。


「にゃははは! すっごい回転なのだ!」


 モニターで、キャラクターを背面視点で操作している九条くじょうさんはともかく、VRゴーグルをかぶって主観視点でプレイをしている二帆ふたほさんは、高速回転をダイレクトに味わうことになる。だけど、


「にゃははは! ぐるぐるぐるぐる! 面白い!!」


 二帆ふたほさんは、ご機嫌だ。一体どういう三半規管をしているのだろう。


『ん? これって?』

『陰陽導師の〝辛卯かのとう〟だな。武器にドリル属性を付加する』

『ドリルの効果ってなんだっけ?』

『防御無視の多段攻撃』

『マックスのレベル3で、しかも今は〝辛卯かのとう刻〟。暦の運がついてるから攻撃力は6倍ですね』

『なるほど! これでブラック=ホウセンの延髄を直撃してオーバーキルを狙う計画か!!』

『でも、ちょっと現実的な戦法ではないですね。ドリル化した武器は、先端がぶれて命中させるのが難しくなりますから。

 いくらロンリーが囮になっているとはいえ、高速移動が持ち味のブラック=ホウセンの凍った延髄の中心を、ピンポイントで捉え切れるかどうか……』


 大丈夫だ。問題ない。

 そのために、俺がいる。


 俺は勤めて冷静に、大楯を地面に押しつけて〝白秋はくしゅうの宝玉〟を発動する。すると、


 ジャキン! ジャキン! ジャジャキン!!

『ギャオオオォォォォォォオ!』


地中から大量の剣山が迫り上がって、ブラック=ホウセンの足を串刺しにして動きを封じた。


『おお、さすがロンリー』

『ナイスアシスト!』

『ひょっとしたら、これはいけるんじゃないか? オーバーキル!』

『行け! ねぎっこ!』

『ぶちかませ!』


 ギャラリーは、大賑わいだ。

 だけど、〝ねぎっこ〟をあやつる九条くじょうさんは、困り顔だ。


「ダメ! 失敗だし! 狙いが体ひとつ分ズレちゃったし!!」


 大丈夫だ。問題ない。

 そのために、二帆ふたほさんがいる。


「軌道修正。ポチッとな」


 バシュ!


 ブラック=ホウセンに攻撃があたる刹那、二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟は、地面にクナイを突き刺してワイヤーを巻き取る。

 ワイヤーにひっぱられて、ほんの少しだけ軌道が変化した〝ねぎっこ〟の超高速ドリルキックが、ブラック=ホウセンのカチンコチンに凍りついた延髄のど真ん中に命中した。


 Finish!

 OverKill!

 OverKill!!

 OverKill!!!


 ブラック=ホウセンは、氷漬けの首を粉微塵に破壊されて、ハラハラと崩れ去っていった。

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ゼロ距離な彼女。〜親ガチャ再抽選でSSR美人おねーさん姉妹との同居生活が確定しました。距離があまりに近すぎてHPが一桁です。〜 かなたろー @kanataro_

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