第17話 最弱庶民、未来を語る

「残ると言っても、死を完全に受け入れたわけじゃない。

 アンタたちが流していた部分に目をつけて、試しにやっていくつもりさ」


「私たちが、流していた部分……?」


 ヴェルダンディは首をかしげた。

 オレは答える。


「オレはフェンリルを、少々下品な方法で倒した。

 しかしこの方法は、ゲームでは取れないやり方だった」


 そして言う。


「どうしてゲームに、金玉を実装しなかった?」


 あまりに真剣な顔で、最低なことを訪ねたせいだろう。

 ヴェルダンディは固まった。

 ケルロスも固まった。

 時が凍ったような気がする。


「それは、普通……。

 なんというか。

 常識……というか。

 実装していなかったことを咎められても、答えられん……というか……。

 そんなこと、真剣な顔で聞かれても……」


 ヴェルダンディは真っ赤になって、自身の顔を両手で覆った。


「あとはもうひとつ疑問だ。

 お前たちは『主人公』を、三つの基準で選んでいたな?」


 一般人にはない力。

 一般人にはないスキル。

 一般人とは違う力を得た時に、それを他者のために使おうとする正義感。


「力とスキル。

 これはわかる」


 常識的に考えて、もっとも当然な選択肢だ。


「けど三番目。

 『正義感』を入れたのはどうしてだ?」

「邪悪なる者に力を渡しては、悪用された時に困る」

「平時なら、オレもそいつに同意する」


 ケルロスに技術を教えてくれと言われた時も、同じこと考えたしね。


「けど今は、未来に絶望しかないんだろ?

 それなのに、『正しい人間』、『正しいやり方』にこだわってどうするんだよ」


 アレックスの死因も、これに尽きる。

 彼はすばらしい『主人公』だった。

 見ず知らずのケルロスの話を聞いて、オレを助けに来てくれた。

 フェンリルを相手にしても、正々堂々戦った。

 けれどもそれが、死因になった。


 強く。

 正しく。

 まっすぐで。


 それゆえに死んだ。


 彼は命の恩人だ。

 ならばこそ、その敗北は受け止めなければならない。

 彼を美化して敗北の原因から目をそむけることは、逆にしてはいけないことだ。


 拳をグッと握って言い切る。


「卑怯な手なら、地球人はかなり得意だ!!!」


「しかし……それは、倫理的に……。

 しかし私たちのやり方では、世界を救えなかったのも事実なわけで……」


 ヴェルダンディは悩み始めた。

 オレは言う。


「もちろんオレも、『卑怯を使えば簡単に世界が救える』とか、そんなことは思っちゃいない。

『未来を諦めてしまうには、試していないことが多すぎる』ってだけだ」


「確かに私は……私たちは、綺麗な方法にこだわりすぎてしまっていたのかもしれん」


 ヴェルダンディは、ため息をつく。


「そもそもの話、私もウルズもスクルドも、世界を救えなかった身だ。

 その身でキミにとやかく言うのも、違うことだと言えるだろう」


 ひとりうなずく。


「してほしいことを言ってくれ。

 できることは少ないが、できる範囲で何でもしよう」


「北のカジノ街――ギャンバーシティに飛ばしてくれ」


 そこのカジノの景品には、『ディオン・ツヴァイダー』と呼ばれるアイテムがあった。

 風神の双剣を意味するらしい言葉は、風属性の双剣だ。

 重量がなく、オレでも装備することができる。

 それでいて攻撃力は、中堅武器のミスリルソードぐらいある。

 まずはこれ。


 それ以外にも、様々なアイテムがある。

 順次とっていきたい。


 ヴェルダンディは言った。


「それだけでよいのか……?」

「とりあえずはな」

「わかった」


 ヴェルダンディはうなずいた。


 ゲートを開いてくれる。

 ゲートの先には、ギャンバーシティが見えた。


「この場所の『今』と、ギャンバーシティの『今』を繋げた。

 通ってくれ」


 オレは一歩踏み出して、ケルロスを見つめる。


「どうする?」

「私は……」

「一緒に来てくれるとうれしいが、待っていてくれるのでもうれしい。

 どちらでもオレは、ケルロスのためにがんばれる」


 ケルロスは立ち止まる。

 オレを見てから後ろを見つめ、しばし思い悩んでから――。


 飛びついてきた。


「ケルロスは、おししょう様と、いっしょにいたい…………です」

「ありがとう」


 オレはケルロスを抱き返す。


「キミの妹や身内には、私から伝えておこう」


 ヴェルダンディはそう言った。


 オレたちは、新しい舞台へと踏み出した。


―――第一部・完―――


―――――――――――――――――――――

というわけで、第一部は終わりました。

第二部がいつかは未定ですが、ここまで読んで面白かったら星をくださるとうれしいです。

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最弱庶民の最強無双 kt60 @kt60

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