10話.[このままでいい]

「狙ってたって言われてデレデレしてた」

「してないし、その後高志の好意に気づいて的なことも言っていただろ?」

「……ぼうっとばかりしていたから咲希は諦めるしかなかったんじゃないの」

「あ、まあ……確かにそれはあるかもしれないな」


 放課後になったら速攻で学校をあとにしていた。

 高志が高校でも部活をやることにしたから、そういうのもある。

 だってそうとなれば残っている意味なんてなかったからだ。


「しても意味のない話だ、俺は一乃と付き合っているんだからな」

「……それだって結局、私が求めたからでしょ?」

「は? 好きじゃなかったら受け入れないよ」

「す、好きなの?」

「当たり前だろ、お試しで付き合ってみたりなんかしないぞ」


 まさかそういう風に考えられているとは思っていなかったから驚いた。

 俺だって一応そういうことには興味があったし、だからこそのこだわりなんかもあったんだ。

 でも、自然と現れてくれる可能性は低いからまたいつか誰かとそういう関係になれたらいいと考えていたところでこれだった。

 あれだな、趣味に付き合ってくれたというのが大きいかもしれない。

 あとはあまり見られないが、笑ったときの顔がいいというのも大きい。

 付き合ってから一気に全開というわけでもないし、付き合う前のような緩い感じで過ごせているというのもいいところだった。


「じゃあ……してよ」

「寄りかかってこられたらできないだろ?」

「……本当に意地が悪いなー」


 寧ろこちらが離れて、倒れてしまう前に抱きしめた。

 こういうことをしていると本当に自分なのかどうか分からなくなってくる。


「い、いまふわっとして怖かったんだけどっ」

「一乃ってさ、なんかこういう関係になってから結構感情的になったよな」

「それは明人が悪い」


 元丸相手にもこんな感じだったことはないから抑えていたのかもしれない。

 親友にも抑えていたそれをここで開放するというのも少し面白い話だった。

 つまりこういうのがなくなったらもう終わりかけてしまっている、ということになるのか。

 よし、それならどんどん引き出していこうと決めた。


「……結構好きな匂いなんだよね」

「確かにこの時間は飯の匂いとかするよな」


 それで少しだけ羨ましくもなったりする。

 だけど飯が食べられるというだけでありがたいことだから文句を言ったりすることはない。


「……違うよ、明人の匂いが好きなの」

「俺のか? 男臭いだけだろ」

「違うから安心していいよ」


 そうか、とはならない。

 それでもすぐに変わるようなものじゃないから気をつけようと決めた。

 好きって言ってくれているならこのままでいいんじゃないかと考える自分もいた。

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87作品目 Rinora @rianora_

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