最終話 錬金術師としての未来

「それで彼らが働ける場所を提供してほしいというわけか。金の亡者の君らしくない発想だな」

「失礼ですね。そこから私にお金が流れてくるじゃないですか」


 当然のようにアトリエに現れたアルベール王子は多忙だったらしい。

 デイドリッヒ王子から無茶な依頼をされた件を話すと、少しだけため息をついた。


「君も大変だったんだな。よくあいつの嫌がらせを凌いだよ」

「今回ばかりは本当にどうなるかと思いました」

「でも、それでこそ君だ。今回の件で、あいつもさすがに君の力を少しは認めただろう」

「だといいんですけどね」


 納品して給料を支払った後からの記憶がほとんどない。ベッドに向かったところまではギリギリ覚えている。

 グッスリ眠って起きたら日付が変わっていた。徹夜ごときでフラフラになるとはレイリィ、修業が足りない。


「アルベール王子、相談なんですけどあの貧民街の人達にお仕事をあげられないですか?」

「君のことだ。そんな相談しているが、すでに見当はついているんだろう?」

「はい。ポーション製造工場なんてどうですか。作業内容自体を複雑化せずに誰でも出来るような態勢がいいです」

「利益は見込めるのか?」

「そこまでは……」


 アルベール王子の厳しい目が光る。さすがに無理があったかな。と思ったら手帳を取り出して、何か確認している。


「現在、協力してくれそうなのは君が依頼を引き受けたレイライン家くらいだな」

「ポーションの卸売りの……?」

「そうだ。だいぶ前に自前の生産ラインを持ちたいと話していたのを覚えている」

「それは好都合です。さっそく相談したいです」


 生産にはいくつかの問題がある。まず働く人達は錬金術師じゃないから私みたいな錬金術は使えない。

 だから、私のアトリエでもやってる器具を使った錬金術がメインになる。これを一般の人達にも出来るように作業を簡略化しないといけない。


                * * *


「君がそこまでやってくれるのか! いやぁ助かった!」


 レイライン家の伯爵夫妻が一瞬で承諾してくれた。あの女神像の一件でだいぶ信頼してくれたみたいだ。

 息子のアイオンさんもやる気みたいで、すでに準備体操みたいなのをやってる。


「さっそく君のために仕事が出来るわけだ! まずは工場予定地だが、これは問題ない! 貧民街には廃墟が連なるエリアがあるから、そこを潰して再利用すればいい!」

「貧民街の人達が働くなら、場所的にも好都合ですね。何より廃墟を放置すれば衛生面にも関わります」

「いいな! さすがは俺の女神!」


「下らん事を話し合ってないで、下見にいくぞ」


 割と重要な話だと思うけど、アルベール王子が催促してきた。


                * * *


 貧民街に建設するとなれば、現地の人達の理解が必要になる。建設予定地の区画の主に話を持ち掛けると、二つ返事で承諾してくれた。


「あの廃墟を潰してくれんなら大助かりだ。虫も湧くし、倒壊して被害が出ちゃ敵わんからな。なー、皆。構わんよな?」

「願ったり叶ったりだよ。何より、働き口が出来るってんなら大歓迎だ」


 そうは言っても、全員の雇用は無理だ。そこはともかく、これで計画に移行できる。

 作るポーション、手順、器具、仕事内容の詳細化。やる事は多い。衛生面に関しては大浴場のおかげである程度クリアできるはず。

 街が少しずつ綺麗になれば、疫病が流行る心配もなくなる。そうなったら、貧民街なんていう蔑称とはさようならだ。


「やっと働き口ができるなぁ!」

「あっちの区画の奴ら、この前はなんとかっつう錬金術師のところで仕事してたみたいだぞ」

「あぁ、なんか大浴場を作ってくれたっていう……。ちっこい女の子だって話で」


 そこで私に視線が集中する。構わず私は出来るだけ多くの人達の働き口を作る方法を考えていた。

 ポーション製造に関わる人数は決まっている。時間帯も決まっているし、休日も考えた。現状だと生産数が少なくて利益が心配だ。

 せっかくレイライン家のおかげでポーションを市場に流しやすくなるんだ。歩留まりを増やしたい。


「休んでいる間は当然、何も作れないし……。休んでいても生産できれば……あ! それだ!」

「どうした、女神!」

「女神はやめて下さい。チームを作って交代で入ってもらえばいいんです。そうすれば年中、フル稼働できます」

「なるほど! 名案だ!」


 この日から廃墟の取りつぶしが始まった。廃材の撤去まで終えると、いい感じに更地が出来上がる。

 工場建設に必要な資材はレイライン家にお任せして、私は製造するポーション製造ライン計画を練った。

 錬金術を使わずに草色のハーブから成分を『抽出』する方法、器具を選んで実戦してみる。無理があると思えばやり直し。

 作業を細分化するほど人員が増えて、人件費もかかる。


「工場内のレイアウトはこんなものでいいか?」

「素材の保存庫のスペースがもう少しほしいです」


 この件で助かったのはアイオンさんが積極的に指揮をとってくれた事だ。この人、女神像のせいで変なイメージがあったけど実はやり手かもしれない。

 こうして皆が協力してくれる。王子にアイオンさん、一人じゃ出来ない仕事があると学ばせてくれたおかげで私もまた一つ成長できそう。

 無免許でもいい、誰かの役に立てるなら。私の錬金術師としての道はまだ無限に続いている。

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ブラックギルドを追放された錬金術師の私、免許を剥奪されて追放される~実は世界最高レベルの実力でした~ ラチム @ratiumu

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