7話 迷い

「ほしい、お前が」


 と、情熱的な勧誘を受けてるのだが、


「その前に、何処にいくんですか」


 どことは、学園のことだ。本来ならありえない世界線である。それは、彼は闇ギルドの犬になる未来だったから。その答えは―


「英雄ロード帝園」


 彼は、その言葉を口にした


 ◯


「ちょっとランク落としてみては」


「それは、俺も思ってる」


 英雄ロード帝園とは、この世界で最もランクの高い学び舎だ。主人公とその他メインキャラクター達が絆を深める場所でもある。誰もが『そこ』を目指し、誰もが『英雄』に成る。でも、


(足りない、経験が)


 力なら足りているかもしれない。けれど、『経験』が足りない

 

「でもよ、過去問やってみて採れたんだよ。それに、剣の腕も『上がったし』よ」


「落ちますよ」


「だな、けど、俺にも譲れないもんがあんだよ」


 視線の先には―


 (そっか)


 ユイルが雑草を籠にいれていた


「あいつを、花園に行かしてやりてぇ」


 ユイルという女の子は、花が大好きだ。庭園に、花を自分で植え行くほどに。だが、


(此処に、飛ばされた)


 もしかしたら、ススムは負い目に感じているかもしれない。なぜなら、彼らの間には、『まだ』何もないのだから


 気持ちは分かる。けれど、


「落ちます、絶対に」


 僕は、嘘をつく度胸もなければ、綺麗事を云うこともできない。だから、口が走ってしまう


 結局、僕は彼に同行することになった


 ◯


(強い、これほどだとは)


 試験に向けて、僕たちは手合わせを何度もしていた

 僕は、剣を振るうが


(当てられもしない)


 あまりにも疾すぎる。それは、『剣浪』というクラスの特性でもある


「ごめん、速くしすぎたわ」


 こうして、試験の日は近づく


 ◯


(やべぇ、人が多すぎる)


 僕らは、英雄ロード帝園の門の前に来ていた。ちらりと、ススムの顔を見る。そこには、覇気のない顔をした男が立っていた


「まさか、ここまでとはな」


「分かるんですか」


 ススムは、門に潜る者たちをみる。ここは英雄に成る者が通う所であるが、受験者の全員がその資質を秘めてるわけではない。だが、


「ああ、やべぇよ、舐めてた」


 僕には、分からない。その『レベル』にはまだ達していないから。だが、ススムほどの戦士になれば、手にとるように分かるようだ


「今ん所、俺より弱い奴はいねぇ」


 そんな弱音を吐いていた


 ◯


(全く、分からん)


 僕は、筆記試験を解いていた。だが、全然解けない。それは、当然である。僕は、試験の内容なんて書いていない。主人公が満点を取ったことを、少し記載しただけ。だから、分からない。それに、農奴でもあるし。

 

 (後、10分)


 僕は、最後の問題に手を伸ばす。正解が問われる問題が多い中で、この問題は少し毛色が違った


 ―どんな英雄になりますか、あなたは

 

 問われている。単純に、聞かれている。恐らく、正解がない問題である。けれど、


 (答えられない、僕には)


 これは、英雄に成る前提で問われている。覚悟を示せと云われている。結局、僕は白紙のままテストを終えてしまった



 ◯


 筆記を終えると、実技を行った。どいつもこいつも、化け物である。相手は、元Sランク冒険者だと言うのに、一歩をひきやしない。互角の戦いを魅せる奴もいれば、負かすものまでいる。そして、


「196番、前へ」


 ついに、僕の番が回ってきた


 ◯


 (やっぱり、レベルが高いね、ここは)


 レッドは、負かした受験者に手を差し伸べる。そして、アドバイスを求められる。そのことに、笑みを浮かべる。だが、アドバイスはすることはない。その分は―


(彼は、うちに入ることが決まっている。英雄は、自分で道を開拓しなければいけない)


 表向きは試験をする。だが、何よりも『実績』を重視する。その為に、常に入学者が決まっている。それが、英雄ロード帝園の実態である。実際、レッドは、それが正しいのか分からない。だが、レッドは試験を実行するだけ。なぜなら、彼は臨時教師なのだから。だが、


(つまらんね、全く)


 レッドは、冒険者であった。ゆえに、期待してしまう。磨かれていない石を。そんなことを秘めていると、1人の薄汚い服を纏う少年がレッドの前にあらわれる


 レッドは、剣を構えた。その構えは、あまりにも隙がありすぎた。だが、その驕りが、命取りとなることもある


 「ッ!」


 一気に、少年が距離を詰める。だが、レッドは、そのことに微笑む。なぜなら、見えているから、対処できるからである


(浅いね、けど、悪くない)


 音が、一切響かない。誰もが地を蹴る音を立てる中で、彼からは何も響かない。まぁ、白兵戦では何の意味はないのだが。レッドは、静かに剣を受け流す体勢に入る。否、入ろうとした


(足が動かない、まさか)


 レッドは、下を向く。そこには、土の塊がこびりついていた


(やられた、私の負けだ)


 振りほどけない土塊を見て、レッドは負けを認める。そして、笑った


 ◯


 試験監督が負かされる。そのことに、彼ら受験者は、驚きはしない。そもそも、今更、地に寝転ぶ姿など何度も目撃してしまったのだから。だが、


「あれ、ありのかしら、ねぇ」


 ここは、英雄志望が集う場所である。勝ち方は他人の自由だが、それでも、英雄の卵にとっては、その戦い方は、汚く見えてしまうこともある


「召さないですか、お気に」


「ええ、栄あるこの学園に相応しくないわ。それに、男としてどうなのかしら」


 特に、、そんなことを思う。そんな感情を抱いてしまう。だが、


「いいね、彼」


 違う見方をしている者もいた。その男は、服装から、下の身分の者であると理解した。本来なら、目は、向けない。そもそも、男の身分上、視線の先にいる『物』は、時間を省く存在ではない。だが、その視線は、確かに『人』を見ている眼であった


(まともな教育は、恐らく、受けていないだろう。けど、彼は勝った。まぁ、手段は置いといて)


 高貴なる勝ち方を強要され、他者の目を気にする彼には、それが美しく見えてしまう


(なりたいな、友達に)

 

 彼は、視線の先にいる男が受かることを願う。まぁ、受からないのだが。



 ◯


 結果は、言おう。僕たちは、落ちた。別に、僕は落ち込まなかった。その『分』を知っていたから。だが、


(どうすれば、いいのか)

 

 僕は、ススムの顔を見てそんなことを思った

 


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