第2話

彼に会ったのは偶然だった、いっときの気まぐれだ。だが僕はこの出会いを一生忘れることはないだろう。



店の隅の席に移り、互いに席に座る。

児玉は最初警戒していたみたいだけど、僕が座る様促すと渋々イスに腰掛けたんだ。

「初めまして児玉、僕はグレイ一応は貴族なんだけど家名は言えない立場でね。すまないが理解してほしい。」

「人が気分良く酒を飲んでる時に邪魔しておいて、礼儀がなってないんじゃないですか?」


正直言ってこの時は驚いたよ!世間知らずとは知っていたんだけどね。まさか自分が住む国の王子の顔も名前も知らないなって思わないだろう?でもね?僕は逆に興味が湧いたんだ。彼が何を思ってこの国に住んでるのか、何より彼が何処から来たのかがね。



「それは悪いことをしたね。お詫びと言ってはなんだけど、この店で1番高い酒をご馳走するよ。僕が今見せられる誠意はこれが精一杯なんだ。」

僕が力無く笑うのを見て、彼も思う所があったんだろうね。それ以上は何も言わずに届いた酒をゆっくり煽ってたよ。少し酔いが回ったぐらいかな、僕は本題を切り出したんだ。


「もうすでに知っているかもしれないけど、君には今殺人の容疑がかかってる。僕が君に話しかけたのはそれが理由なんだ。」

「それは俺じゃない。関係のない話に巻き込まないでくれるか。俺も忙しいんだ。」

彼はそう短く答えるとすぐに席を立とうとしてね。僕の話に気を悪くしたんだろうけど。少し焦ったよ話す余地なし、と言わんばかりにさっさと帰ろうとするんだもん。


「僕は今すぐに君を捕まえてしまうことだって、できるんだけどな〜。」

だから少し意地悪した事は許してほしいかな。

「これを君に。」

封をされたスクロールを手渡しそれを彼が確認すると少し驚いた後、すぐにこちらに向き直した。

「これは僕から君への正式な依頼になる。1ヶ月の調査の協力と僕の護衛が仕事になる。またこの依頼は君の疑いを晴らす為でもある。引き受けてくれるかな?」

「引き受けないって選択肢がないだろ。」

彼はそう呟くとスッと立ち上がり右手を差し出してきた。

「児玉太一だ。よろしく頼む。」

「ああ、こちらこそよろしく。」

彼の手を握るといきなりとんでもない力で握りしめてきた。

「イった!く〜!子供っぽいことするなあ。」

「やられっぱなしでムカついてたんだ。許してくれ。」

まあでも彼を巻き込んだ事を考えると、これぐらいじゃあ済まないんだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

拳で戦ってたら死にたがりだと思われてた件 田中太郎 @faizu555

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る