第17話! 新たなる同業者!

「ここから山の方って言えば大谷崎ダムしかねぇ!!!奴らダムぶっ壊す気かッッ!!!?」

 健斗の言葉に、全員騒然となったのであった。


 大谷崎ダムと言えば沼魚市を流れる川の上流にあるダムの1つである。

 我が東咏(とうえい)帝国の数あるダムの中でも風景が美しいと評判なダムであり、行きたい100スポットに必ず含まれる名所である。沼魚市の観光資源にもなっている。秋口である現在はまだ紅葉には少し早い。

 だがダムであるからして治水機能に多大な貢献をしているのは言うまでもない。


<大谷崎のダムを破壊されれば沼魚市のみならず被害は最悪下流の海岸部まで及ぶ可能性がある!>

 綾川博士がそう伝える。


<いかんな、シャルールとグラッセは周辺の避難誘導。ボルケーは低空で周辺への呼びかけ、クォーリーチームはダムへ急行するのだ!!>

「健斗いけるか?」

「最高速度塗り替えは無理だが、音速ぐらいは出せる!」

<いや、リュクシオンのまま行くと周辺被害が甚大だから分離して向かうんだ!>

「ったく、ジュライハーのクソがよ!!!」

 綾川博士の言葉に、健斗はそう悪態を付くとすぐさまリュクシオンを分離して3機のクォーリーマシンに別れて飛行をする。



 3機のクォーリーマシンが、沼魚の黄色の大地を背景に、夕日に照らされた空を駆けていく。


 周辺はボルケーのファイアイーグルから避難勧告が流され、シャルールとグラッセは人型となって避難誘導を行っている。


「今の時期のダムの水量的には、流石に海岸部までの被害は行かない筈ですっ」

「だがここ辺り一帯は市街地ごと確実に押し流される。いい筈がねぇ」

「それは同感ですっ」

 健斗とヴィオラはそう言いあう。



 ――――はい、独立軍の英雄のお兄ちゃんっ。ペンアポーをどうぞっ。

 結城ことレンヤ・アビントンは二人の会話を聞いて前世のある光景を思い出す。

 それはペンアポーと呼ばれるリンゴを渡してくれた、自分達を英雄と呼ぶ名も無き少女の光景。


 人類独立軍の抵抗に業を煮やしたテクシート帝国軍は、独立軍勢力下のみならず独立軍に有効的な態度をとる惑星を無理やり従わせるために食料やエネルギーなどのインフラ設備を破壊するという焦土作戦を開始。人類独立軍もこのような暴挙を阻止するために当然阻止作戦を展開した。


 レンヤ・アビントンの所属してる機動部隊および艦艇部隊も、その阻止作戦に参加し、各惑星を転戦し、補給のために立ち寄った惑星で知り合った少女がいた。

 だが、レンヤ達が去った後、独立軍に協力したという事でテクシート帝国軍は惑星の北極点の氷を溶かして陸地の8割を沈めようとする外道作戦を開始。

 それに気づいて引き返し、阻止のために激戦を展開。

 だが健闘虚しく、補給のために立ち寄った海岸部の都市は沈むというトラウマ級の大失敗を経験していた。


 ――――救えなかった。俺は救えなかった。


 血を吐くような、苦い過去。


 ……戦略的に見ると、テクシート帝国軍の北極点の氷の溶解は10%の段階で阻止しており、被害も海岸部分に急激な増水による津波被害と浸水だけで済んでいるので、であった。


 ――――軽微だから、最悪な事態じゃないからいい。そんな訳、ない。


一瞬、全体の被害を聞いて頭をよぎった言葉を、レンヤはそう否定した。



「ああ、そうだ。最悪な事態にはならないからって、起きていい筈がねぇ!」

 そう思考を振り払うために、結城はそう言って操作レバーを強く握る。

「やる気じゃねぇか結城」

「ええ、行きましょう!」


 かくしてクォーリーチームはダムへと急行する。


 そこには数十体のジュライハーがダムを破壊せんと殺到している光景があった。

 大きさはまちまちだが大体30m~40mの大きさである。


<結城クン。可能な限りハンマーは使わずに攻撃するんだ>

 通信で綾川博士がそう指示をする。

「何故ですか博士!? そんな悠長な事をしていたら!」

 反論する結城。


<バトルテックハンマーの威力は絶大だ。間違ってダムを破壊したら一大事だ。それに、ティランなら例のビームがあるだろう?>

「なるほど!目からクォーリービームですね!」

「いや、あれ正式名称にしたのか!?」

 綾川博士の指摘に納得するヴィオラと「あれは本当にそんな名前になったのか」と驚愕する健斗。


「でもあれもあれで強力なんじゃ!?」

「あれから色々分析しましたが、威力を調節できる事がわかりました。エネルギー学専攻にしてる私が言うのですから間違いないですよ!」

 結城の疑問にヴィオラは答える。

<口を慎み給え。学会の時に『素人質問』をするぞ>

「ヒエ……」

 冷酷な向風博士の脅迫めいたセリフに、恐怖するヴィオラ。


「とにかくやるしかねぇ!行くぜ!」

 そんな訳で攻撃方針は決定したので結城は合体の合図を行う。



「「「クォーリードラゴン!ティラン!!」」」


3機のクォーリーマシンが見事に合体を果たして地上近くに降下する。


「前回のようにエネルギーを角に集めて!」

「ああ!」

 そう言ってエネルギーを角に集中させる。


「そして手に移す!」

「ああ!」

 そして手を角に合わせ、エネルギーが手に移るのが分かる。


「最後に手と指を敵に向けて指をピース!!」

「ああ! ってえ?」

 結城は言われるがままにそうやってしまうが、そこでやっと違和感に気が付く。


 だが、結城の困惑をよそにクォーリードラゴンは指をピースにして、特殊な磁場を指の間に形成し、そこからペンドラニウムエネルギーを放出させる。


 このビームはこの前の目からクォーリービームとほぼ同じだったが、ビームの太さが細い。いかにも低威力そうである。


「これぞピースフルビーム!!」

「ちょっとまて。また変な名前の技を作るんじゃない」

 健斗のツッコミをよそに、クォーリードラゴンは指先からビームを放射させている。

 なんだか気が抜けている名前のビームだが、このビームを受けたジュライハーは数秒で焼け溶ける。こわい。

 だがジュライハーはその攻撃の隙を突いて飛びついてくる。


 30~40mの巨体による体当たりは、50mのクォーリードラゴンであっても中々応えるものである。


「!こいつっっ」

 そう言って素早く反応をして腕についてるクローで攻撃を行う。

 クォーリードラゴンの腕にはクローが出る籠手のような装置が付いている。

 初期案ではこれがクォーリードラゴンのになる予定だったが、やっぱり作業を考えると普通の指の方が良いと判断された経緯がある。


 クォーリークローとでも呼ぶ鋭い爪で無惨な姿になる。


「そういや、こいつらの死体ってどうなってるんだ?」

「生物専門の研究所に運ばれて色々調べられてますね」

 健斗の言葉に、ヴィオラはすぐに答える。

<ウチは工学や物理系だからねぇ。あっちもあっちで警備が厳重で情報が洩れてこないんだよね>

 等と綾川博士も呑気に答えていた。


 だが、すぐにそれが油断だと気づかされる。


 目の前のジュライハーの対応に追われ、肝心のダムから距離をとってしまい、数体のジュライハーがダムに取り付いてしまった。


「しまった!!!くそっ。僚機は何を……!」

 結城はその事実に気が付くとそう叫んでしまう。

「シャルールとグラッセは避難誘導っ。ボルケーもまだ支援できる距離ではありませんっ」

 ヴィオラはそう悲鳴のような声を上げる。


「僚機がいないっ!くそっ。俺としたことがっ! 守れないのか!俺は!!」

 蘇る前世のトラウマ。


 思わずそう叫ばずにはいられない結城。


 だが、その瞬間。ダムに取り付いていたジュライハーが数発の爆発とともに爆ぜる。


「なんだ!?」

 結城は突然の事に驚く。


<こちらは帝都防衛方面軍 第12機甲師団所属 第1独立歩行機甲隊だ>

 新たな通信回線が開かれる。


 声のみだが若い男性の声である。


「第12機甲師団……うちの研究所を守ってる所と同じか」

 健斗はそう分析する。第12機甲師団。帝都を直接防衛しているのはこの師団なので帝都機甲師団と親しみを込められて呼ばれている。


<お前達がGRGFグレガフか。大した事ないな>

「なにっ」


 そう言って通信相手は姿を見せる。


 それは7mの小型のロボットであった。


<新たなる同業者……か?>

 向風博士はその姿を見てそう呟く。


 つづく。

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竜無き世界の戦竜~合体!クォーリードラゴン!~ テト式 @tetosiki

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