きょうを読むひと


黒のマントを身に着けてから、声をかけてもらえる頻度が高くなった。

ようやく占い師らしい見た目になれたのかもしれない。


真剣に話を聞いてくれる人が増え、誰も怖がらなくなった。

これはいい物を拾った。サシャは得意げにマントを揺らす。

嬉しそうに跳ねまわるのをギュンターとシェフィールドが見ていた。


「よかったな、人が来るようになって」


「ええ、これでしばらくは生活に困らないです」


本当に多くの人が彼女の下を来るようになった。

占い師として、さらに名は広がっていく。


「ところで、うちの大先輩見てませんかね?

あの人、昨日から連絡取れなくて困ってるんスよ」


「また何かあったのか?」


「俺は知らないっス。一番最後に話したのが占い師さんらしいんだけど」


「黒のスーツを着た、金髪がかなり長い男だ。

背も高いから、かなり目立つと思う。

こうなるんだったら、写真でも撮っておけばよかったかな」


「その方なら、この前来ましたよ」


「本当に?」


自然と二人の声が揃った。


「誰かが近いうちに亡くなるという未来が見えたんです。

死を望む人がいたらどう思うとか、よく分からないことを言ってました」


「そんなことを言うのはあの人の客ぐらいっスよ。

見つからなくて当然っていうか、マジで何してんスかね」


「誰かに召喚されたってことか。しばらくは戻って来なさそうだな」


二人でため息をついていた。

シェフィールドが見てもらいたいと言っていたのも、確かその人ではなかったか。

大先輩にボスか。言葉は違えど、上司であることには違いなさそうだ。


彼らに何も言わずに会いに来た。隠し事のサインが現れていなかったのは、遅かれ早かれサシャと出会うことになっていたからか。

あるいは、その人の死に対する思いが強く、入り込む余地がなかったか。


「どいつもこいつも……本っ当に自由人が多すぎるんスよね。

勝手に行動すんのもいい加減にしてほしい」


「占い師さんが魔法使いなのかどうか、調べてもらおうと思ってたのにな」


「まあ、それは別にいいんスよ。機材さえあれば、いつでもできるし。

あの人が失踪した理由も分かったしね。今日はもっと大事な話をしに来たんスよ」


咳払いをしてサシャを見た。


「占い師として本格的に仕事をしてみないっスか?」


仕事相手を探すための集会所を魔界に作ることになった。

支援団体からの援助もあるが、いつまで続くか分からない。

自分たちでできることは今のうちにやっておきたい。


「回避できる不幸は少ない方がいいと思うんスよね。

今後のためにも、ぜひ協力してほしいんスよ」


不幸から免れる人が増えるのは悪いことではない。

自分の能力を活かせるので張れば、それに越したことはないのだ。


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きょうを読むひと 長月瓦礫 @debrisbottle00

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