月に照らされる十字架
今日は誰かが捨てたと思われる黒のマントを拾った。多少シミが目立つものの、埃まみれの服よりマシだろう。
すそを引きずってしまうが、切れば問題ない。
「どうも、このへんによく当たる占い師がいるって聞いたんだけど。
何か知ってる?」
「私のことですね、多分」
その人は黒のスーツを着ていた。
ただでさえ背が高いのに、髪を伸ばす理由はどこにあるのだろうか。
綺麗な金髪を腰まで伸ばし、こまめに整えているように見える。
金を使って手入れしているのがよく分かる典型的な例だ。
男の背後に満月と十字架、足元に白い骸骨が見えた。
とんでもなく不吉なものをこの人は抱えていた。
だからこそ、はっきりと伝えなければならない。
「大切な方が近いうちにお亡くなりになります。
できることをしてあげたほうがいいと思います」
「……何が見えた?」
非常に険しい表情でサシャを見た。
自分の不幸を知りたい人はいても、サシャが見た物を聞こうとする人はめったにいない。彼なりに向き合おうとしているのだろうと思い、素直に伝えた。
骸骨は人間のそれだったから、彼の近しい人であると推測した。
十字架は言うまでもない。死の象徴だ。
月の満ち欠けは残された時間を表す。
月は毎日観察している。
あと数日で満月の夜が来るから、時間はあまり残されていない。
死は平等に訪れる。それが一番残酷で不幸なことだと思っていた。
男は少しだけ黙り、ぽつりと呟いた。
「もし、それが望まれていたことだとしたら、君はどう思う」
「え?」
「死を望む人がいたら、どう思う」
自ら死を望む人がいる。
自殺志願者であれば、違うサインが現れる。
少なくとも、その人は自殺以外の理由で死ぬ。それはまちがいない。
「言っていることがよく分かりませんが……その方にとって死ぬことは不幸ではない、と?」
「考え方次第だと思うけど、ね。それにしても、本当に恐ろしい力だな。
災いはいつから見えるようになったの?」
「気がついたら見えてました。こっちに来てからだと思うんですけど」
きっかけは分からない。
いつのまにか、見えない物が見えるようになっていた。
魔法によるものであると言われたが、本当にそうなのかもしれない。
自分にしか見えない物があるって、何だかおかしな話だ。
「その力について知りたいなら、いつでも協力する。
エリーゼの遊び相手になってくれているって、よく聞いてるし」
なるほど、彼もあのお嬢様の関係者ということか。
守ってくれる人もそれなりにいるなら、こんなところにいても案外平気なのかもしれない。
「いつもありがとね。次は仕事の邪魔しないようにきつく言っておくよ」
名刺と硬貨を手渡して、男は去った。
不吉の象徴はどこまでも付きまとっていた。
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