第14話 <悪い受験生視点 / マリモ・マリメッコ>


 私の名はマリモ・マリメッコ。

 没落貴族のピリカラニカ家にお仕えするメイドです。


 年齢は17才。


 本来、魔法学園の入試に参加する年ではないのですが、15才ということにして紛れ込んでいます。


 頭が痛いです。


 それもこれも、異常にわがままなご主人、クク・ピリカラニカさんのせいなのです。

 ククさんはどうしても今年受験したいとか言って、でも一人で受験するのは怖いとか言って、私を無理矢理受験させたのです。


 ちなみにククさんは13才なので、15才ということにして受験しています。


 私たちは年齢詐称コンビのめちゃくちゃな受験生です。


「とっとと頭を拭くですよ。おまえのせいで風邪を引いたら、おまえのせいですよ」 


 ククさんはびしょ濡れ状態で難癖をつけてきて、私はタオルで頭を拭いてあげています。

 普段はお団子ヘアのククさんですが、拭きにくいので髪をほどいてごしごしやっています。


「ククさん、帰りましょうよ。私、なんだか嫌な予感がします。しょっぱなからこんなトラブルに遭うなんて、年齢詐称の罰かも知れません」


 つい先程、怪しい受験生が乱入してきて、魔法学園の校庭は大騒ぎでした。

 樹木に放火したり煙幕を張ったり、大暴れのあげくに捕まって、縄で縛られて取り調べを受けています。

 ククさんはそのどさくさで噴水に落ちて、ずぶ濡れになってしまったのです。


「やかましいですぅ。おまえは黙って拭いてればいいですぅ。風邪を引くから早く服も着替えさせやがれですぅ!」


 ククさんは濡れた服を脱いで、べしゃっと地面に投げつけました。


「困った人ですね……。みんなこっちを見てますよ」


 何人かの受験生が、濡れ鼠のククさんをバカにしたようにニヤニヤ眺めています。


「ふんッ……! あたしは見世物じゃないですよ! クズどもめッ!」


 ククさんは好戦的な悪態をつき、ぺっ! と唾まで吐きました。


「ククさん、お下品ですよっ!」


「あたしに指図するんじゃないッ! おまえも奴らの仲間かッ!」

 ククさんはとてもひねくれた人なので、時折こういうことを言います。


「そんなわけないでしょう!」

 馬鹿馬鹿しいと思っても、ちゃんと答えてあげないとひねくれが悪化するので大変です。


「ふんっ! だったら態度に気をつけるですよっ! とっとと着替えさせやがれっ!」


 ククさんは着替え待ちの幼児みたいに両腕を上げました。


「はいはい……」


 私はククさんに乾いた服を着せ、靴下まで履かせてあげました。

 そろそろ自分でお着替えくらい出来るようになって欲しいものですが……。


「コヒュー! まずいですぅ。あたしの悪事がバレたですぅ」

 ククさんはいきなり呼吸困難みたいな音を立て、唇を紫色にしていました。 


「どうしたんです!?」


「さっき乱入してきた連中に、眠り薬を飲ませたですぅ。遅刻させようとしたのに失敗したですぅ!」


 ククさんは思い出したようにパニック症状になっていきます。


「どうしてそんなことを? 反則じゃないですか!」


「知略と謀略を使ってもいいって聞いたから、やったです……。でも、試験前はダメだったみたいですぅ。そのへんの連中が言ってたです。あたしはやらかしてしまったですぅ……。コヒュー、コヒュー!」


 ククさんはピンチになると過呼吸になる癖があります。


「ククさん、ほらキャンディをなめてリラックスしてください」

 私はククさんの口にキャンディを突っ込みます。


「フヒュー、ペロペロ、フヒュー♪」 




 遠くの方で校長先生の声が聞こえました。

「遅刻はひとまず不問といたします!」


 乱入受験生たちは、狼藉を許された気配です。

 つまり、ククさんの悪事を知っている受験生が、受験に復帰するということです。


 やはりこれは……。

 私たちは受験から撤退した方がいいという流れかも知れません。きっと、精霊のお告げ的な導きなのでしょう。


「……」

 そんなことを考えながら、私は自分のリュックを開けて、ククさんの頭を拭いたタオルを突っ込みました。


 荷物が多くてうまく入りません。

 ごそごそやっているうちに、手帳が出てきました。


「あっ……」

 手帳には、精霊から届いた『木の葉の手紙』が挟まっていました。


 これは一昨日くらいに、私のエプロンのポケットから発見した木の葉です。

 木の葉には、ひっかき傷みたいな文字で精霊からのお告げが書かれています。



『マリモへ。

 ククは魔道士になってお金を稼ぎ、

 マリモにいい暮らしをさせたいと張り切っていますよ。

 没落貴族も返上です。

 どうか力になってあげてね。

               精霊より』

   


 ククさんは没落貴族で貧乏で、近所の子ども達にいじめられてひねくれてしまいました。口を開けば悪態ばかり。人に嫌われる言葉しか言えません。


 でも時折精霊のふりをして、本当の気持ちを手紙で送ってくるのです。

 木の葉の手紙はククさんの筆跡なのです。

 本人はバレてないと思っているようですけどね。

 優しい言葉を書いてきます。


 私はククさんと一緒に育った、姉みたいなものですから――。


 どれだけククさんがひねくれていても、見捨てることは出来ません。


 私はククさんの生き残りの方法を考え始めました。


 それはすなわち――。

 ククさんの悪事を知っている受験生の失格と、ククさんの合格です。


 何か良い手立てがあればと――。


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