第13話 エルフィンダンス


「大昔の話ですが――。

 かつて人類は、魔物暴走スタンピードと呼ばれる魔物の大活動期により、滅亡寸前まで追いつめられました。

 それを救ったのが、初代女王率いる魔道士たちです。

 私たちの王国は、そのような歴史の上にあります。

 再び魔物暴走スタンピードが来るとは言いませんけれども……。

 備えは必要でしょう。

 才能のありそうな受験生を失格にするのは惜しいと思いました。振り落とすなら、実技試験を見てからでもよいでしょう。

 遅刻に目をつぶる理由は以上です」


 校長先生は話を終えた。

 そして指先をパチンと鳴らすと、私たち3人を縛っていた縄が解けた。


 私たちはほっとして顔を見合わせたよ。 


 グラシエ先生は眼鏡のフレームに指を置いてうなずいた。

「……。分かりました。実技試験を見て判断することにします」


 眼鏡の照り返しで表情は見えない。

 でも、ひとまずは納得してもらえたようだった。


 解放された私たちは服と荷物を返してもらい、急いで装備を整えた。


「よかったねぇ~。助かったよ」

 私はエルフ伝統の植物紋様の刺繍された服を着ながら、ラビィとナナに笑いかけた。


「にゅふふ。見逃してもらえたにゃあ」

 ナナは猫みたいに目を細めて嬉しそう。獣人ライカンの民族衣装から飛び出す尻尾も、機嫌よさそうに揺れている。


「ま、まあ……。よかったな、うまくいって。は、はるー……」

 ラビィはよく聞き取れない言葉をつぶやいて、素早くマントを装着すると、そそくさと荷物の方に向かう。


 なんだろ、照れてるのかな?


「ラビィ?」

 私は彼女の前に回り込んで、顔を覗き込んだよ。


 ラビィの丸い瞳は大きく見開かれ、ちょっとだけ泳ぐ。


「は、はるー。はるー……」

 ラビィは頬を赤らめて何かごにょごにょ言ってた。


 私はピンときたね。


になったら、一緒に学校通えるといいね!」

 そう言って、彼女と握手した。


「う、うん!」

 ラビィは嬉しそうに握り返してくる。


「うちも交ぜるにゃあ~。ラビィのおかげで助かったにゃー」

 ナナが軽やかにやって来て、ラビィの手を握ったよ。


 ラビィは目をぱちくりさせて、またごにょごにょ言い出した。

「な、なー。なー」


 私はまたピンときたよ。


も一緒に通えるといいね! みんなで合格出来るようにがんばろう!」


「う、うん!」

 ラビィは嬉しそうにナナの手を握り返した。


 私たちはラビィを中心に手を繋いでる形になった。


「じゃあ、輪っかになろうか。そして回ろう」

 私はこういうときにぴったりの、愉快で楽しい提案をしたよ。

 私とナナは手を持ち替えて、空いてる方の手を繋ぎ合った。


 3人で手を繋いで、小さな輪を作ってくるくる回った。


「回れ―――♪ ひーだーりーにー回れ――――♪ 踊れ―――♪ ひーだーりーにー踊れ―――♪」

 私はモコッチ村の伝統歌で回転に彩りを添えたよ。


「何の踊りだ?」「にゅふふ! 何にゃこれ」

 ラビィとナナはステップ気味に回りながら、不思議そう。


「エルフィンダンスだよ。これやると、踊った後に丸くキノコが生えるって言われてるだ」


「生えるのかい、ここにも」

 ラビィの寝癖髪が、ふんわりと揺れている。


「生えるよ、きっと~♪」

 私はモコッチ村の聖歌アンセムのメロディで答える。


「生やすにゃー♪」

 ナナは機敏に飛び跳ねたよ。


「あなたたちッ! 受験に合格したみたいな浮かれようですが、遅刻が許されただけですからね! さっさとこっちに来なさいッ!」


 グラシエ先生が地下室の入り口で怒っていた。ちょっとだけはしゃぎすぎたみたい。


「あわわ!」「やばいやばい」「にゃっ!」

 私たちは荷物を抱えて、慌てて駆け寄って行った。 


「あなたたちのせいで、だいぶ試験時間が押しています。試験の手順は、このマニュアルを見て自分で把握して下さい」


 グラシエ先生は一人ずつの手にマニュアルの冊子を押し付けてくる。


「はい!」「了解」「わかったにゃ」


「試験の場所は南マナマ郡の演習場です。そこで5日間のサバイバルを行ってもらいます。5日後に、魔力1000を稼いでいた者が合格となります」


 本当に時間がないみたいで、ものすごい早口で伝えてくる。


 なるほど、それが試験のルールなんだね。

 魔力を稼ぐっていうのは、投げ魔力スパチャリオンを稼げってことだ。

 5日間配信をやって、先輩たちにアピールして、魔力1000を稼げばいいんだね……!


「早く行きなさい、もたもたしてると転移魔法の無駄遣いです」


 グラシエ先生は先頭にいたラビィの背中を叩いた。


「うん!」

 ラビィは魔法の光が溢れる地下室の階段に足を踏み入れる。


 そして、ちらっとだけ振り向いた。


 その表情はどことなく寂しげで――。一日楽しく遊んだ夕方に、友達が家に帰るときの顔というか――。


 私ははっきり言って田舎者だし、のんびりしてるし頭もよくない。だから大事なことに気付くのは、いつも時間が経ってからだ。

 私はそこでようやっと、さっきのラビィが何を言おうとしていたのか気付いたよ。


 どういう事情か知らないけど、ラビィは生まれてこの方友達が一人もいないって言っていた。

 私がはじめてラビィって呼んだとき、顔を赤くしてもじもじしてた。

 だからきっと――。


 ラビィはさっき、


「ハルカ! 私はハルカ・モコモコーナ! ハルカって呼んで!」

 私はラビィの後ろ姿に声をかけた。


「……!」


 彼女は振り返り、本当に嬉しそうに微笑んだ。


「うちはナナ・ニャーナにゃっ! もう8ヶ月も誰にも名前を呼ばれてないから、ナナって呼ばれると嬉しいにゃ」


 ナナも後ろから声を上げたよ。彼女も謎めいた事情がありそうだなあ。 


「ハルカ! ナナ! また会おう! アタシはラビィ・フワトロニカだ――――っ!」


 ラビィは叫びながら、照れ隠しみたいに転移魔法の光の中へ飛び込んでいった。


「ナナ、また会えるといいねっ!」


 私は言いながら、ラビィを追って地下室の光の中へ駆け下りていった。


「お互いがんばるにゃ―――……」


 ゴウッ……!


 ものすごい風音みたいな音に包まて、ナナの声は聞こえなくなった。


 視界も光に包まれ、何も見えなくなる。


 転移魔法が始まったのだ。




***** あとがき *****


 ここまで読んでくれてありがとうだ。


 王都でいきなりトラブルに遭って、悪い受験生に騙されて、一時はどうなるかと思ったけど。

 不思議な出会いと導きが、私を救ってくれた。

 この先も色々あるかもだけど、がんばるだよ……!


 ちょっとでも私のお話が気に入ってもらえたら、フォロー、ハート、★、なんでもお願いだよ!


 応援してもらえると、がんばる気持ちがどんどん強くなるっ……!


 ★をつけるページはこちらっ

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