第12話 3つの理由
「ラビィ・フワトロニカ、ハルカ・モコモコーナ、ナナ・ニャーナ。以上3人の処分ですが――」
校長先生はそう言ってから、長めに口をつぐんで皆の耳目を引きつける。
「………………………………」
いや長いし!
気を持たせるための熟練の先生技術なのかもしれないけど、早く発表して欲しい~~!
ちなみに私たちがこうしている間に他の受験生たちはというと、校庭の隅にある地下室の入り口みたいなところへ、列を作って入っていったよ。
受験生が入るたびに魔法的な光が輝くので、あれが転移の魔法なんだろうと思った。
そこで列をなす受験生も、校長先生の話には興味津々でこちらを見ている。
校長先生が口を開く。
「遅刻はひとまず不問といたします」
――ッ! 助かったッ!?
私たち3人は喜びの笑顔を交わしたよ。
『えええー!』『嘘!』『甘くない?』『イイネ!』『きたー!』『なんでなんで!?』『投獄でしょ投獄!』『よかったねぇ~』
先輩たちは賛否両論のコメントだよ。
倒れていたグラシエ先生がよろよろと身を起こし、反論してきた。
「校長先生、お言葉ですが納得出来ません……。ラビィ・フワトロニカの話は、完全に詭弁かと……。認めることは、生徒たちにも悪影響があるかと思います……」
ううっ、そのまま寝てて欲しかった……。
「説明しましょう。とても大事な話をするので、在校生の皆さんもしっかりと聞いて下さい」
校長先生は何かすごい前置きをしてから語り出した。
「まず最初に……彼女たちは反則行為の被害に遭ったという、酌量すべき部分もあります」
『あれは可哀想だよ』『私も思った』『私はそれで投げ魔力したよ』『私も投げ魔力した!』
先輩たちに同情されてるよ。
ラビィがどさくさにまぎれて寝坊をごまかしたことは黙っておくよ。
「次に――。
魔道士の適性の一つに、発想力があります。物理的に不可能なことを可能にするには、イメージの力が必要です。
遅刻をごまかすために、誰が時計塔を破壊しようと思うでしょうか。この常識外れの発想力は、強い魔道士になれる可能性があります」
どうやら褒められてるっぽいね?
ラビィは自慢げにますます鼻の穴を大きくしてるよ!
先輩たちも口々に感想のコメントを飛ばしてる。
『適性があるっていうことか』『言い訳はデタラメだけど、発想を評価されたってこと?』『それならまあ、分かる』
『魔道士は変人ほど強いって言われるよね』『うちの学園も変人が多いのはそのせいか』『でもルールはルールです!』
校長先生は空を仰ぎ、また長めに口をつぐんで皆の注意を引く。
「…………………………………………」
ホントに長いから!
先輩たちのコメントも、先をうながすみたいに静かになったよ。
校長先生はようやっと続きを始めた。
「そして最後に――。我が王国には迫り来る脅威があります。これを見て下さい」
校長先生は宙を撫でる仕草をする。
すると何もない空中に光の地図が浮かび上がった。
地図は大きく拡大し、地形の隅々までが見えるようになる。
『めっちゃ見覚えあるけど』『王国地図?』『脅威ってどういうこと?』
それは私たちの住む、シャフトロニカ王国の地図だった。
王都を中心に森ばかりが広がる王国地図。
地図の東は海で断ち切れ、北と西と南は、雲で断ち切られている。
これは人類の版図の限界なのだ。海や雲の先は、厳しい自然や魔物の脅威で遮られ、踏み入ることができない。
地図職人が端っこをごまかすために描いたのが雲と海だと言ってもいい。
わたしの家の居間にもこの地図が貼ってあって、「モコッチ村は田舎過ぎて載ってないねえ」なんて妹と語ってたものだよ。
「ここ数年、魔物の活動が活発化の傾向にあります。
西方辺境では5つの村が魔物の群れに襲撃されました。南方では3つ。北方では2つです。討伐が間に合わず、放棄された村もいくつかあります」
『それか……』『新聞で見たな』
『そんな多いの?』『昔からじゃないの?』
『私の地元にも出たよ!』『討伐依頼が増えてるみたいだね』
『
校長先生の話に、私はすごく胸がどきどきするのを感じたよ。
5つの村と3つの村と2つの村が襲われた?
私の村もそのうちの一つだったってことなのかな?
放棄された村もあるの?
自分の村を捨てるって大変なことだよ。
先祖代々住んでた土地を、木々を、川の岩の一つまで名前を付けて大事に愛してきた故郷を――。
捨てなくちゃいけないほど魔物が攻めてきたの?
そんなつらくて苦しい目に遭った村が、いくつもあるってこと……?
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