第11話 ラビィ・フワトロニカは賢い?


「グラシエ先生、この子たちの処分は私に任せてもらえませんか? かなりの問題児のようですから」

 校長先生は愉快そうに言ったよ。


 まあ確かに私たちは問題児だけど……はっきり言われると心に来るものがあるよね。


「は、はい……。それは構いませんが。校長先生のお手を煩わせるほどでは……」

 眼鏡の先生はグラシエ先生と言うらしい。眼鏡の位置を直しながら答えた。


「いえ、言いにくいことですが……、あなたでは少し荷が重いかと」


「そうでしょうか……?」

 グラシエ先生は怪訝そうに答える。


「そう思いますよ。私に預けなさい。後悔はさせませんよ」

 なんだか妙な言い回しだった。


「はい、わかりました。では……」

 そう言ってグラシエ先生は引っ込んで、校長先生に場所を譲った。


 校長先生はローブをなびかせながら前に出る。魔法紋様の輝きが残像のように宙に残り、不思議にきれいだった。


「さて。ラビィ・フワトロニカ」

 校長先生はラビィに話しかけたよ。


「うん?」

 ラビィはいささかもかしこまらずに返事する。失礼なんじゃないかなと心配になるけど、私もグラシエ先生に敬語使うの忘れたから何も言えない。


「あなたはこう言いたいんでしょう? ”自分たちは遅刻などしていない”と」 


「うん。これから言おうと思ってた」


「でしょうね……。やっぱりね……。ハ~~」

 校長先生は頭が痛いとでも言うような、大きなため息。


 なんだろう? ラビィは意味ありげに鼻の穴を膨らませているよ。


『なんだ?』『話がよく分からないですわ』『どういうやりとり?』


 先輩たちもコメントで戸惑ってる。


「グラシエ先生もコメントの閲覧を」

 校長先生は振り返って促す。


「分かりました」

 グラシエ先生が眼鏡に手を当てると、眼鏡にコメントが表示されるのが見えた。一緒にコメントを見るために魔法の調整をしたらしい。


「さて、在校生の皆さん、ちょっと復習をしましょうか。魔法学園の時計塔はどのような役割を持っていますか?」

 校長先生は先輩たちに呼びかけたよ。


『パスが回ってきましたわ』『時計塔の役割?』『そんなのあるの?』

 先輩たちは悩んでる。


 一人だけ、長文でコメントを投下する人がいた。

『魔法学園の時計塔は、シャフトロニカ王国標準時を刻んでいます。

 かつて魔法学園は修道院であり、その水時計が周辺地域の時刻の基準でした。

 この地が王都となり、魔法学園が開校したあともその慣例は同じで、学園の水時計が王国標準時になりました。

 機械式の時計塔となった今もそれは同じです。

 ちなみに時計塔の建造費は10億ゴールド。今から10年前に建造されました。王国最先端の職人技術が使われています』


『長い~』『よく覚えてるな』『10億ゴールドもしたんだ?』


 都会はすごいだね。10億ゴールドって気が遠くなるよ。宿屋の朝食が500ゴールドだから……いっぱい食べられるのは分かる!


「よくできました」

 校長先生は満足そうにうなずいた。

「さて――次の質問です。その時計塔が壊れたらどうなりますか?」


『壊れたら?』

『困る』

『修理職人を呼ぶ!』

『シャフトロニカ王国標準時が不明になります』


 校長先生はフードの下で微笑んだ。


「そうですね、答えは色々あると思いますが……。ラビィ・フワトロニカの意図は最後のコメントでしょうね。すなわち、シャフトロニカ王国標準時を不明にすること……」


 ラビィが? 時間を不明にする……?


「にゃぁッ!?」

 驚くナナの声。彼女は縛られたまま身をよじって、時計塔の方を見ていた。


「……!?」

 私も彼女の視線を追って、目を丸くしてしまう。


 青空にそそり立つ時計塔が、文字盤から針からボッコボコに壊れていた。針は破壊されて吹っ飛んで、短針の根元しか残っていない。


『時計塔が!!』『えぇぇぇ!!』『壊したの!?』『いつ!?』『襲撃のどさくさで壊したんですわ!』

氷塊投擲呪文チルビットでやったのか』『これで遅刻してないって言い張るつもり!?』

『他に時計はないからな』『頭いい~』『いやバカでしょ!』『ヤバすぎ!』『10億ゴールド壊しちゃったのぉ~~!』


「~~~~ッッ!!」

 グラシエ先生は蒼白な顔になり、急にすっと力を失い、その場に崩れ落ちた。ショックで気絶したみたい。

 私が驚く間もなく、校長先生が魔法を差し伸べて、グラシエ先生はスィーッと安全に横たえられたよ。


「…………」

 私はもう言葉もなかったよ。


 えっ、どうなるの? 私たち――投獄?

 遅刻をうやむやにするために、10億ゴールドの時計塔壊すって、そんな人いる……?


 先輩たちがすごい勢いでコメントを飛び交わせていたけど、汗か涙かわからないもので目が痛くて、字とか読めなかった。


『%%%%!?』『#####!』『@@@@@!』『××××××!!』『@@@?』『********!!』


「…………」

 ナナは猫耳の毛を逆立ててぷるぷる震えてる。怯えた子猫がやるやつだ。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 ラビィはというと、みんなの混乱がおかしくてたまらないというふうに笑い転げていた。


 ええ~? 今笑うところ? 笑うところかなあ? 私、もう常識がおかしくなってきたよ!


「さて――。以上を考慮して、3人の処分を発表します」


 校長先生はフード越しに、こめかみのあたりを指先でぐりぐりやっていた。

 あっ……頭痛いときにやるやつだ……。

 どうなっちゃうの私たちィ~~。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る