愛してるなんて

尾八原ジュージ

愛してるなんて

 街外れの廃屋に肝試しに行った舞花の彼氏が、乗っていたオートバイごと消えてしまってから、もう一年が過ぎた。その間舞花は、毎日のように廃屋に通っている。

 廃屋の庭には二十年くらい前に流行ったファミリーカー(もちろん廃車になっている)と、錆だらけの子供用自転車が二台あるだけで、オートバイなんか停まっていない。それでも舞花は廃屋に通う。あんなところにいるならとっくに見つかってるよって何度も言ったけれど、全然聞く耳を持たないのだ。

「絶対あそこにいるんだよ。だって行くと声がするもん。マイ会いたかった、大好き、愛してる、行かないでって」

「それ、別人じゃない?」

 私がそう言うなり舞花は「違う!」と怒鳴って、だべっていたファミレスからお金も払わずに出ていってしまった。

 それからSNSは全部ブロックされるし、連絡も全然とれなくなってしまったけれど、別の子曰くまだ例の廃屋に通っているらしい。


 舞花の彼氏は、舞花を「マイ」じゃなくて「財布」って呼んでたし、人前なのにお腹とか殴ってたし、「愛してる」なんて全然言いそうじゃなかった。

 また一年くらい経って、舞花の彼氏のオートバイだけが、廃屋に向かう途中の国道に面した海から引き揚げられた。その報せは舞花にも届いたはずだけど、彼女はまだ廃屋に行くのを止めていない。

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愛してるなんて 尾八原ジュージ @zi-yon

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