第85話 漢字魔術はドコへ行く
「おお、来たか。渡すモノがあるんじゃ。我の近くに来てくれるかの」
僕は金清様に言われて実体化している金清様に近づいた。そしたら金清様は一冊の書を僕に差し出したんだ。そして、
「コレは銀太一に頼まれて預かっていた書での。我が渡しても良いと思う者が成人していたら渡してくれと言われておったのじゃ。そなたも成人したから我は渡して肩の荷をおろそうと思うての。それで来てもらったんじゃ」
金清様がそう言って差し出す書を僕が受け取った時に、書から霊体が現れたんだ。
『やあ、君が僕の魔術を継承してくれたんだね。初めまして、僕は銀太一と言います』
「ぎ、銀太一先生!!」
まさかのご本人登場に驚いてしまったよ。
『おや、君は僕を知ってるようだね。もしかして君も渡り人なのかい?』
「は、はい。僕は少し特殊らしくて、神様に出会った記憶は無いですが、前世の記憶がある渡り人です」
『へぇー、本当に実験してみたんだね。あの女神様は』
「えっ? 実験って、何かご存知なんですか、銀太一先生」
『あー、うん。ゴメンね。君が神様に会った記憶が無いのは僕が女神様に会わずに転生させて、前世の記憶だけ戻してその渡り人を観察してみても良いんじゃないかなって、面白半分で提案した所為だと思う……』
犯人は貴方でしたか。僕はジト目で銀太一先生を見つめたよ。
『いやー、そんなに見つめられたら照れるなぁ。ハハハ』
ダメだ、この人には効いてないようだ。
『それでね、この書が最後の漢字魔術の書なんだけどね、僕をこの書の魔術で輪廻の輪に戻してくれないかな? そうしたら僕はまたココまでの記憶を持った状態でこの世界に転生出来るんだ。ダメかな?』
僕は考えながら返答した。
「ゴメンナサイ、銀太一先生。ソレは出来ません。だって、ソレは人が行うには責任が大きすぎだと思うんです。僕にはその大きな責任を背負い込む覚悟は有りません。ですから、この書はお返しします」
そう言って書を金清様に渡そうとした時に、金清様と銀太一先生から、
『「合格だ(じゃ)!!」』
の言葉が出た。
『いやー、試してゴメンね。コレでホイホイとさっきの僕の願いを叶えようとしたなら、この世界から漢字魔術を消す予定だったんだけど、君の返事は完璧だったよ。コレなら魔術が悪用される事は無いと確信出来た。その書は大切にして、女性に読まれない様に自分一人でジックリと読んでね。そして、君がいつか結婚した時に役立てて欲しい』
そう言う銀太一先生に僕は正直に打ち明けた。
「あの、先生。僕はもう成人していて、六人の妻が居ます。今は毎日交代で妻と夜を共にしています」
打ち明けた僕を見る銀太一先生の顔がとても冷たい。
『ん? 良く聞こえなかったなぁ…… 何て言ったのかな? 妻が六人も居るって聞こえた気がしたんだけどなー』
「はい、妻が六人居ます」
『こ、こ、このリア充めーっ! 返せ、今すぐその書を返せ! チクショーッ! 僕なんて日本でも童貞、転生しても童貞だったんだぞっ!! そんな童貞仲間がこの書を役立ててくれたらと思って作ったのに!! チクショーッ!!』
うん、凄い告白を聞いてしまった。金清様も呆れた様に首を横に振っている。そして、金清様が僕に言った。
「コヤツの事は我に任せて、そなたはその書を持ってもう帰るが良いぞ。妻たちに見つからぬ様に読んで、妻たちを喜ばしてやるが良いぞ」
そう言ってくれたので、書を持って僕は早々に退散したんだ。
そして、超級魔術の【
※閨房漢字魔術
決して悪用してはダメです!!
…… うん、妻を相手に試してみます。
こうして、僕は六人の妻との間に二十三人の子供に恵まれて、そしてそれぞれの子供達が結婚して、孫が出来て、その孫達も結婚してひ孫が出来たのを見届けて、この世界での生涯を終えたんだ。
漢字魔術は僕の直系で、ラターシャとの間に出来た子供達に託してね。
コレで僕のお話はお終いです。長々と聞いてくれて有難う。また、何処かで転生したらその時はよろしくお願いするよ。
異世界の魔術文字が漢字だったので······ しょうわな人 @Chou03
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