「ハロウィンの夜に…」

低迷アクション

第1話

 崖から見下ろす、夜の町では、都内程のバカ騒ぎではないモノの、オレンジの明かりが

いつも以上に賑やかだ。今頃、あそこでは、本来の意味をはき違えた浮かれ者共が、頭に耳のカチューシャ、魔法のステッキと黒衣を纏っての乱痴気を楽しんでいる事だろう…


(最も、俺達も人の事を言えた義理ではないか…)


そう考える“T”の顔横を甲高い連続音と共に、緑色の曳光弾がかすめていく。東京マルイ製の発光仕様のサプレッサー…確か、アレを点けられる電動ガンは限られている。敵チームの中ではMP5K短機関銃を持っていた奴がいたな。


「おいっ、崖まで追い込まれちまったぞ?どうする?」


味方チームの“小松(こまつ)”が隣で吠え、突撃銃で応戦する。今宵のゲームルールは

フリーフォーオール、自分以外は全て敵…


最後の1人になるまで、この戦いは終わらない。横で応戦している小松は、

成り行きで共闘しているに過ぎない。


目の前の銃撃もそうだが、崖のあちこちで電動の発射音が響き、時々、弾が当たり、

死亡(ゲームオーバー)を示す


「ヒット!」


の声が短く響きわたっていく。


「いや、夜の景色に見とれてた“田辺(たなべ)”はどうした?」


「やられた。LINEで報告してたわ。とにかくヤバいぞ。向こうはかなりの本格的…

暗視装置点けてるのもいたな」


「マジかよ、ナベさんの紹介で知り合ったチームだけど、凄いな。それに良い腕してる。

まぁ、この時期、こんな場所でバカやってる俺達に賛同してくれるチームだから、あまり褒められた義理じゃないがな」


T達は趣味のサバゲーの延長戦として、悪趣味な行為に耽っている。それは、心霊スポットや曰く、障りのありそうな土地へ、サバゲーの恰好をして、訪れる行為…


彼等は“武装して心霊スポット”と呼んでいる。勿論、今夜のゲームもだ。


県境の山中にあった大型レジャー施設跡地、バブルで弾け切った町を立て直すために、一発狙った大きな投資事業…しかし、それも東北の震災で完全にトドメを刺された。


残ったのは、山中に続く広大な跡地の廃墟…夜ともなれば、無機質な鉄の骸が月明りに反射する。


地元の人間なら、誰もが知り、無意味さに嘆く夢の跡で、いつの頃からか、妙な噂が流れた。ホームレスや、荒れた若者達がこの地にたむろしないよう、警備会社が入った。

ここまでは当然の流れ…何処の地元でもやっている。


しかし、ある決まった日程の夜、警備がノータッチの時があると言う。理由はわからない。だが、その日はセンサーも警備員の駆け付けもない。つまり、何をしても自由だ。


町の不動産に勤める友人から仕入れた情報だから、信用できる。加えるなら、不動産と言う

土地関係の仕事から、暴力団や企業の裏事情ではない確約も得れた。


残る理由は一つしかない。幽霊や障りが出るのだ…多分…Tの不確かすぎる根拠に乗っかったメンバーは18人…昨今の外出自粛と、規制の関係で公式フィールド以外での戦闘が

禁止され、刺激に飢えた馬鹿共がこんなにもいた。


昼に集合したT達は車を使わず、徒歩で目的地を目指し、日が落ちてから、廃墟へ侵入する。


一通りの探索を終え、そのままサバゲーの流れとなり、現在に至る。


「小松、弾は残ってるか?」


続けて発射されるBB弾の雨をかいくぐるTが自身の銃を撃ちながら、訊ねる。


「200連マガジンが後一つ…弾はそれでカンバンだ」


「もっと、持ってくるんだったな。店は9時だから、閉まってるし、

買い出しにもいけない。これ終わったら、相手にわけてもらうか?」


「難しいな。スマホの全体LINEによれば、まだ、俺等以外に4人残ってる。それより、

相手の発射元を狙え。曳光弾を使ってるから、光ってて、わかりやすい」


「OK!」


低く呟く小松が銃の連写を単発に変え、相手の撃たせるままにしておく。数秒後、狙いを定めた、正確な射撃音が響き、


「ヒット」


と言う死亡宣言の声が上がった…



 「妙だな…」


元々はフードコートになるはずだったテラス跡を進むTは呟く。


「さっきのを倒してから20分…人数は後3人、俺等を含めて、そうだな?小松…?」


「間違ってないぞ?何が気になる?」


「増えてないか?参加者…」


小松が黙る。恐らく彼も同じ事を考えていたのだろう。崖端からここまで、逃げるように

場所を変えてきた2人は、そこかしこで佇む影に遭遇していた。


ある者は2階建ての仮設宿舎の屋根から、こちらを見下し、別の者は、林の中から、複数の何者かがゆっくりと進んできていた。


撃とうとは思った。しかし、彼等に共通しているのは…


「銃持ってないからな?アイツ等、ナイフアタック(近接戦闘)禁止だよな?このゲーム…」


「何だか…怖くなってきたな」


「ハッ、小松、今更かよ…」


Tが呟くのと同時に、雨で老朽化したテーブル群の中から一際大きい影が進んでくる。


「撃っていいよな?」


「いや、待て。警備員とか俺等と同じ、この時期に警備が入らない事、知っている

カップルかもしれない…」


「じゃ、じゃあっ、声かけるか?」


「ああ、そうだな。あのっ、すいませ…」


声が途中で止まったのは、暗闇に慣れ、相手の姿が少しづつ見えてきたからだ。

顔は靄が掛かったように、ハッキリとはしないが、全体像はわかった。

背が大きいのではない。緑地迷彩を着たサバゲー参加者を背負っていた。


「オイッ!」


小松が叫ぶのと、Tがその影に向かって銃を撃ったのは、間違いではなかった。マガジンに残ったBB弾を連射する彼等に、黒い影は背負っていた者を下し、何処かに消えていった。


介抱した参加者はT達と残っていた最後の1人だった。話を聞けば、建物跡地に隠れていた所を、急に現れた黒い者に殴られ、意識を失った。


黒い影達の目的が何で、何処へ、連れていこうとしたのかはわからない。ただ、Tは早足で

出口に向かい、残りのメンバーに下山を促すと、訝る彼等を何とか廃墟から遠ざけた。


「なぁっ、ありゃ一体何だったんだ?」


後方を警戒するTの前を歩く小松がボンヤリと呟く。曇り空の夜で表情は見えない。

だが、声が震えているのはわかった。


同じくらいに震える体を抑えたTは精一杯の虚勢で答える。


「わからん、だが、遊びで来ていい場所じゃなかった。それに…」


「それに?」


「今夜はハロウィン…可笑しなモノが闇に紛れる夜さ…」…(終)

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「ハロウィンの夜に…」 低迷アクション @0516001a

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