第二十三話 再会

「え、セカイくん……どうしてここに」

「フレアがどうしてここに」


 フレアとセカイは同時だった。


 ユキノは面白くなさそうに呟いた。


「ふむ。セカイがどうも、おまえの素行を気にしていてな。白音フレア」

「わたしの素行……?」


 ユキノは続けた。


「そこの貝瀬セカイがだな。おまえの交友関係を気にしていてだな」

「気にしていません」


 セカイが否定する。だが、ユキノは気にも留めない。


「よくわからんのだが、おまえの友達にだな、そう、『夜の街』関連の者はないか」

「『夜の街』?」


 フレアが怪訝そうな顔をした。


「わたしは夜の街なんて出歩いてません。友達だって、そうです」

「ほう、その友達、とは。すまんが教師としては、一応聞き取らねばならんのだ。なんなら貝瀬セカイには席を外してもらう」

「いえ。それは別に。戸頭レイリさんです」

「ほう、戸頭レイリ、か」


 ユキノは椅子を少し引くと、腕組みをした。


「いささか複雑な事情をもった生徒だな。わたしは気にしないが、教師の中には気にする者もいるようだ」

「それがどうしたっていうんですか」

「どうもしない。ただ、そこの貝瀬セカイが気にしているだけだ」


 フレアは今度はセカイを睨んだ


「セカイくん! わたしを無視したうえに、わたしの友達まで悪く言う気?」


 セカイはフレアの勢いにたじろいだ。


「いや、そんなことないけど……」


 しかし、すぐにセカイは勢いを取り戻した。


「っていうか、ぼくは急に信者希望者の面接とかやらされたんだけど? それって、フレア関係だよね」

「さあね? わたしはタイカイおじさまに信者になりたいっていう人がいるって連絡しただけ」

「おもいっきりフレア関係じゃん!」


 今度はセカイがフレアを睨む番だった。


「ぼくは白音教から距離を置きたくてわざわざこっちに来たんだ。なのになんで追いかけてくるんだよ!」

「別にいいじゃない。わたしの勝手よ」


 フレアはいつもの調子に戻っていた。そう、中学生のときの関係。


「セカイくん、あなたは道を見失っただけ……またわたしについてくればいいの」

「やっぱりそれか。それがもういやなんだよ」

「いや……?」


 セカイの力一杯のことばにフレアがたじろいだ。


「派手な女の人がいきなり信者希望だなんて来るから、フレアがいったいどこで何をしてるか気になったけど、もういいよ。そのお友達についてきてもらいなよ」

「……?」


 フレアはセカイが何を言っているのかわからない様子できょとんとしていた。


「セカイくん……? 何をいっているの? わたしがいや、そう言った?」

「それはまあ、いやっていうか、その」


 セカイは口ごもってしまった。


「あ、あー。若者たちよ。いいだろうか」


 ユキノが口を挟んできた。芝居がかった調子で、立ち上がりながら二人に近づく。


「貝瀬セカイ。無視はよくない。ちゃんと白音フレアと話せ」


 ユキノはそう言いながら、セカイの肩を叩いた。


「白音フレア。こじらせるな。素直になれ」


 ユキノはそう言って、今度はフレアの肩を叩いた。


「一件落着。な?」


 ユキノは胸を張った。


「別に、フレアと話すことなんて……」


 セカイはモゴモゴと言った。


「素直ってどういうこと……?」


 フレアはふたたびきょとん、とした。


「つまりだな。おまえらはコミュニケーション不足なんだよ。貝瀬セカイ。おまえは幼馴染を怖がりすぎだ」

「だって、フレアは白音教の聖女で……」

「うるさい。それはここでは関係ない」


 ユキノはぴしゃりと言った。


「白音フレア。おまえはどうして貝瀬セカイにこだわる? ふつうの幼馴染はわざわざ追いかけて高校に転入して来たりはしない」

「それは……セカイくんは……」


 フレアは考え込んでしまった。それまでセカイがフレアにとって何者なのか、考えたことがなかったのだ。


「従者、ですよ」


 答えたのはセカイだ。


「従者……?」


 フレアは聞き直した。


「従者。お付きの人。付き人」


 セカイがまくしたてた。


「ぼくは、誰かの従者なんてもういいんです!」


 フレアは無言だ。無言で、セカイを見ていた。ただ、言葉が見つからないようだった。


 ユキノはそんな二人を見てため息をついた。


「貝瀬セカイ。おまえはよく言った。白音フレア。おまえは貝瀬セカイのこの言葉をよく考えることだ」


 そう言うと、ユキノは二人に背を向けた。


「もう、出ていけ。今日の授業はこれで終わりだ」


 ユキノのひらひらと振る手のジェスチャーを見て、セカイとフレアは顔を見合わせた。


「とりあえず、ケージの清掃も終わったし」

「……わたしは何で呼ばれたのかしら」


 セカイはそんなフレアにいつものように呆れながら、フレアはきょとんとしながら、理科準備室を後にした。




「……で、結局、セカイくんはわたしの従者なんだっけ」


 それからしばらくして。


 フレアとセカイが一緒のところを見ても誰も何も言わなくなった。


 セカイはため息をついた。


「はあ……周りの人間が言うのはいいけど……」


 そう言って、セカイは辺りを見渡した。廊下では数人の生徒が立ち話をしていた。もう誰も、二人が一緒にいるのを見ても茶化したりしない。ただ、レイリだけが嫉妬の炎でセカイを睨んでいた。


 セカイは慌ててレイリから目を逸らした。


「フレアには言われたくない」


 セカイはそうボソリと言った。


「聞こえなーい」


 フレアはセカイの耳元で言った。


「これから理科準備室を攻めるんだから、気合入れなさいよね!」

「攻めないよ。ユキノさんに生物部の予算を交渉しにいくだけだよ」

「あの魔女! 生物部を休部に追い込むなんて悪行許されないわ」

「別にユキノさんが追い込んだわけじゃないし……部員がいないだけだし……」

「何よ。わたしたちならあの魔女なんて楽勝よ」

「わたしたちって……」


 セカイは肩をすくめた。


 そこから少し離れた理科準備室で。ユキノは少し悪寒を覚えた。


「またうるさくなりそうだな。わたしは忙しいんだ、おまえたち二人がこれからどうなるかなんて、待ってなんていられないんだ」


 そして、ユキノはこっそりと理科準備室を抜け出した。

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聖女なわたしは魔女なあいつに息をするだけで勝てるはず rinaken @rinaken

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