第二十二話 悶々。


  寮に帰ったセカイは、この週末に起こったことを反芻していた。


 いくらセカイでも、下の名前だけで呼び合う女たちがいわゆるフツウのお仕事をしているわけではないことは想像できた。「わたしたちのお店」。しかも、そのお店のことはフレアに聞けという。


お店というのは、きっとクラスメイトの関係者のお店だ。例えば、親が務めているとか。そうセカイは寮の自分の部屋で寝転がり、天井を見上げながら思った。


しかし、すぐにセカイは首を傾げた。あの女性たちは親というにはうら若い。それとも、見た目では実年齢は分からないだけだろうか。


 セカイは寝返りをうった。


白音教は総本山のある白音市以外にはほとんど知られていない新宗教だ。だが、だからといって市外でまったく知られていないわけでもない。


たまたま、白音教に興味のある一般人がまとまって現れた。そういう偶然はあるかもしれない。フレアの名前が出たのも、きっとたいした意味はない。


セカイはそう思考停止する寸前で、踏みとどまってしまった。いや、そんな偶然なんてあるわけない。そう思うとセカイは不安を感じた。


フレアにきっと新しくできたであろう友達。それが何者かわからない。


セカイは、しばし思案した。いったい、自分は何の感情に悩まされているのだろうか、と。






「で、わたし、というわけか」


 放課後の理科準備室。セカイはモルモットのケージを掃除していた。それを椅子に座り携帯端末をいじりながら眺めているユキノ。


「のんきな話じゃないですよ。白音さんだって生徒の一人なんですから。悪い友達に付き合っているとなると問題でしょう」


 ユキノは、眉を上げた。


「その女どもは白音フレアを知っているというだけではないのか?」


 セカイの手が止まった。


「そりゃあ、そうですが」


 セカイはモルモットの方を見た。モルモットはセカイの方なんて見ずに掃除の間に入れられた別のケースの中を落ち着きなく動き回っていた。


「フレアとぼくの関係なんて、地元ならともかく、この辺りで知っている人なんているわけないです。フレアがわざわざぼくのことを友達に話したんです」

「で、セカイ。いったいそれがどうしたというのだ?」


 ユキノは椅子を降りてセカイの前に立った。


「その週末に出会った女どもが何を生業にしていたとて、それに白音フレアの名前を出したとて、それがいったいなんだというのだ? それにまあ、直接、白音フレアを知っているとは限らんだろ。白音教を知っていれば、いくらでも彼女は見られる。ネット配信の動画でな」


 そう言うと、ユキノは自分の携帯端末をセカイに向けた。そこには、教団の提供する祭事の動画があった。遠めだが、フレアの神妙な踊りがそこに見えた。


 ユキノはケージの掃除を黙って再開するセカイを見るとため息をついた。


「これだから若者は」


 ユキノが肩をすくめたタイミングで理科準備室の扉が開いた。


「失礼します」


 それはフレアの声だった。

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