第二話 帰り道、談笑

「卒業式、どうだった?」


学校からの帰り道、ふと紗芽が僕に問いかける。


「別に、普通だったよ。ただ、この学校を卒業するんだなって事くらいしか実感出来ることはなかったかな」

「そっか……」


紗芽は、少し残念そうに笑った。

僕は、最後に見る紗芽の表情が、その表情で少し残念だった。


「ねえ、この後の謝恩会さ、2人で抜け出そうよ」

「ごめん、それは出来ない。」

「どうして?」

「今日、僕は謝恩会に出席しないから。それは、出来ない。」


「本当にごめん」と僕は頭を下げた。


「ううん、謝る事なんてないよ。私達幼馴染だよ!そんな謝られることないから。何か用事でもあるんでしょ?」

「うん、実は父さんと会う約束してるんだよ……」

「今日帰って来るんだっけ、カナダから。」

「うん。」


偶然にも、僕の父親は外資系の企業に務めるエリートビジネスパーソンだ。

だから、僕がこの街を出て行く事が紗芽にはバレていなかった。


「それは、仕方ないよね。楽しんで来てよ。私、待ってるからで」


僕はその瞬間、息を飲んだ。

そう、罪悪感が溢れ出たのだ。

紗芽に嘘をついた事。

僕が君に黙ってこの街を去ること。

そして、もしかしたらもう二度と果たすことの出来ない約束をしようとしている現状に。

僕のこの街で過ごした15年間に溜まりに溜まった罪悪感が溢れ出したから。

僕はきっと、いやこの先の人生において一生この答えを後悔するだろう。


「ああ、もちろんだよ。」


そう言って、僕は紗芽の家の隣の家、つまり僕の家に入った。











「おかえり、春木。」

「父さん、帰って来てたんだ。ただいま、父さんの方こそ、おかえりなさい。」

「ただいま、春木。そこまで急いで準備しなくていい。まだ飛行機の時間には余裕があるからな。」

「うん、わかってるよ。シャワーくらい浴びさせてもらわないと……」

「女の子との別れは苦いからな、でも、その苦さがいい男を作っていく物だよ!春木、お前も母さんのような素敵な人といつか必ず出会う。その時は、って父さんの話を無視して風呂に行かないでくれよ〜!」

「その話何回目か知ってるのか?」

「まだたったの3521回だろ?」

「普通は10回くらいで飽きるだろうが!」


そうなの?みたいな顔で僕を見てくる父さんの顔をぶん殴りたくなったが、今は抑えた。


「ありがとう父さん。俺、これからも頑張るよ。1人になるけど、父さんもカナダでずっと一人で頑張ってた訳だし、今度は僕が1人で頑張る。」

「うん、いい面構えになったな、春木。これは、父さんからの卒業祝いとこれからの為に·····」


そう言うと、父さんは見たことの無いスマートフォンを俺に渡してきた。


「これは?」

「父さんの会社の新商品のスマートフォン。質量、フォルム、そしてCPUの汎用性にもどのスマートフォンよりも長けており、スペック自体はほぼノートパソコンだが、○ndroid OSのスマホだ。」

「良いのか、こんな普通に100万くらいしそうなスマホ、自分の子供に渡して……」

「当たり前だろ?親なんだから。」

「父さん……」


何故だろう、モルモットとしてしか見られていない気がする……


「まあ、くれるって言うのなら、貰っておくよ。」

「今度の夏帰ってきた時にどんな感じか教えてくれ。ついでにソイツのチューニングもしてやるから。」

「確かに、これを開発した技術者なら、最高のチューニングをしてくれるだろう!という事でシャワー浴びまてくるよ。」

「待て春木!何故それを!?」


しかし、既に春木はそこにはいなかった。


「全く、幾つになってもアイツの情報網から逃れることは出来ないのだろうな……」


春木の父親、秀木は少し嬉しそうだった。










シャワーを浴び終わった僕は、母さんからおにぎりを持たされた。


「向こうに着いたら、まず連絡しなさいよ。」

「わかってる。」

「その言い方はわかってない。返事は?」

「はぁ……、わかってる。愛してるよ、母さん。」

「よし、じゃあ行ってらっしゃい。」

「うん、行ってくるよ。」


僕は母さんと軽くハグをする。


「兄貴、元気でね。死ぬ時は保険金の受取人を私にしてから死んでね。」

「お前は何処まで図々しいんだよ、春歌。お前も、アイドルになる夢諦めるなよ。」

「うん、兄貴が私に教えてくれた努力の意味、絶対に忘れないから。」

「その笑顔は、観客の前で披露してやれ。」

「バカ……」


妹が珍しく照れた。

可愛い。

やっぱりウチの妹は世界一可愛い。


「じゃあ、父さん春木を送ってくるから、母さんと春歌は出掛ける準備しておいてくれ!」

「何、飯でも食いに行くの?」

「まあ、そんなところだ。荷物、アレだけか?」

「うん、積んでおいてくれてありがとう。」

「どういたしまして。」


時折見せる男らしさが、うちの父親がイケメンである理由なんだろうな。













その後、30分くらい父さんの運転する車に揺られ、空港のロータリーに着いた。


「父さん、ありがとう。」

「何についてだ?エロ本を小学三年生の時にベッドの下に仕込んでおいたことか?それとも、小学六年生の時に部屋のパソコンにAVを仕込んでおいたことか?」

「やっぱり全部犯人お前だったのか!!」


あのせいで紗芽に半殺しに2回もされたことは、記憶に新しい。


「いや、そうじゃなくて、僕の我儘を聞いてくれて。母さんを説得してくれて、そして、僕をこの世に誕生させてくれて。」

「その感謝の言葉、まだ俺に言うな。その言葉は、お前が酒を飲みかわせるようになってからだ。」


父さんは、車のトランクを開ける。そこには、僕のスーツケースが入っていた。


「元気で頑張れよ、大丈夫。お前なら、多少のことなら乗り越えられるよ。」

「ああ、精一杯頑張ってみるよ。」


そう言い、僕はスーツケースを手に取り、空港に入った。

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すれ違い〜何処にでもある日常の切り抜き〜 汐風 波沙 @groundriku141213

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