卒業から始まる物語③

卒業式が終わり、クラスに戻ってきた。

卒業する我が子を追うようにほとんどの親御さんもそれぞれの子供のクラスに来た。

ウチの親は……、やっぱりいやがる。

別に来なくていいって言ってたのに、親父なんてボロ泣きだったから、仕方ないよな、俺の旅立ちの日なのだから……

クラスメイトも皆、それぞれの進路に進む。

だから、この瞬間を共有できるのは、今だけである。

そのせいだろうか、皆、楽しそうに、そして名残惜しそうに会話をしている。

僕は1人で校庭を眺めている。

校庭の桜の木には開きかかった蕾が朝露でキラキラ光っている。

とても綺麗だ。

そんな事を考えている間に、


「全員席に着け〜、最後のホームルーム始めるぞ〜!!」


先生が卒業証書を持って教室に入ってきた。


「じゃあ、1人ずつ卒業証書を渡していくから、貰ったら、一言言ってから席に戻れよ」


そう言うと、先生は出席番号順に名前を呼んでいき、遂に僕の番がやってきた。


「花崎春木、卒業おめでとう。お前には、言いたいことは沢山あるが、高校でも、頑張れよ!!」

「3年間ありがとうございました、先生」


卒業証書を受け取り、僕は教壇に立った。


「このクラスでは1年間でしたが、皆、3年間共に過ごしてきた最高の仲間です!!進路はそれぞれ別になりますが、何時かまた何処かで会う時には、お互い成長した姿で会おう。3年間、最高の思い出をありがとうございました!!」


こうして僕の中学生活が幕を閉じた。















ホームルーム終了後、僕は約束通り裏庭の桜の木の下に向かった。

満開の桜の下には、1人の美少女が居た。

そう、この手紙の差出人である。

彼女は少し寂しそうに気を見上げている。

その姿は1枚の絵のような風貌だった。


「あ、やっと来てくれましたね、先輩」

「かなり前から来てたけど、綺麗だったから、見惚れてた」

「確かに、綺麗ですよね」

「ああ、とても綺麗だ……」


僕は感じたことを素直に


「桜」「君が」


伝えた。


「え!?私が、綺麗なんですか!?」

「そうだよ、桜も綺麗だけど君の方が綺麗だ」

「そんな……、嬉しいっ!!」

「うわっ!?」


彼女は僕に抱き着き、徐ろに僕の第二ボタンに手を掛け、制服から切り離した。


「先輩、この街離れるんですよね?」

「なんで、その事知ってるんだよ?」

「まあまあ、細かいことは気にしないで……、先輩、顔が怖いです!!不動明王みたいになってっひゃあ!?」


僕は目の前の美少女の頬を摘み、軽く引っ張った。


「ひゃひぇひぇひゅひゃひゃひ!!」

「じゃあ、何故しっているのか話せるよな?」

「ひゃにゃひひゃひゅ!!ひゃひゃひゃ、ひゃにゃしてくだ……、ちゃんと離してくれた」

「じゃあ聞こうか、何故知っているのかについて」

「……実は、担任の先生に教えてって可愛くお願いしたら、教えてくれました!!」

「あんにゃろー!!人様の個人情報をペラペラと!!」


アイツのデレデレの顔なんて、想像するだけで吐き気がするぜ……


「それで、呼び出したのは何のため?」

「そうです!!私、先輩に伝えたいことがあるんですよ!!」

「何だ?」

「私が先輩の高校受験するので、合格したら私と付き合っ……」

「嫌だ!!」


僕は食い気味に言い放った。


「何で断るんですか!!こんなに可愛い私と付き合えるチャンスなんですよ!!そんなチャンス、先輩みたいな陰キャには一生来ないかもしれないんですよ!!」

「自分で言うかそれ……、あと陰キャ言うな!!」


僕はチョップする。

「ひゃうっ」と可愛い反応をする。

チッ!!可愛いじゃねぇかよ


「あと、こんな目立たないようにするのは、今日までなんだよ。僕は明日の飛行機で向こうに行くから、お前も遠距離は嫌だろ?」

「別に?」

「だろ?だから……、おい、今お前何って言った?」

「だから、遠距離なら、先輩と毎日通話できるし、先輩に引っ付いてる虫も邪魔できないし、何なら浮気されても気が付かないし、いい事だらけですよ!!」

「はあ……」


僕はこの会話で2つの事を理解した。

この子は超ポジティブで超がつくほどの馬鹿だと言うことである。


「……初」

「え?」

「最初言ってたお前が俺の行く高校受験して合格したら付き合ってやるよ。お前の握りしめて変形しつつある第二ボタンに約束しよう」

「え!良いんですか?私の合否がわかるまで先輩は青春できないんですよ?いいんですね?」

「ああ、どうせお前みたいな馬鹿じゃ無理だと思うけどな!!」

「言いましたね、絶対に見返してみせますから!!」


そう言うと彼女は僕に小指を向けた。


「えっと、これは?」

「指切りです。早く指絡めてください!!」

「わ、わかった……」


僕は指を絡める。


「そう言えば名前聴いてなかったな。何って言うんだ?」

「はあ、忘れちゃいましたか……、次は忘れないでくださいね、私の名前は村崎亜優むらさきあゆです」

「覚えたぜ、亜優!!」

「この約束、守ってくださいね!!」

「当たり前だ、指切った!!」


こうして、僕の高校1年と2年は灰色の青春が確定となったのだった。

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