それがし



 それがしは武士である。


 いや、武士で在りたいと思っている。


 だから、私は通っている高校でも自分の事を「某」と名乗っている。


 クラスメイト達や同じ高校に通っている人達からは「変人」「イタイ子」「中2病」とか言われているけど私は気にしない。

 だから私のあだ名は「某ちゃん」になっている。でも高校生活も2年目となっている今では私はクラスの中でも浮いてはいないし、友達も多い方だと思う。

 でも入学当初の1年生の頃は大変だった。


 何しろ自分の事を「それがし」と言う女子高生なぞは、この世に私しか存在しないだろうから。

 それでも私がイジメ等の対象にならなかったのは私には他の人には無いような「殺気さっき」とも言えるモノが生まれた時から備わっていたからだろう。

 私に悪意を抱いてチョッカイを出して来るような人達には、この「殺気」をほんの少しだけ浴びせる。するとチョッカイを出そうとしていた人達は「ギャア!」とか「殺されるぅ!」とか言って逃げ出して行くのである。私は物心ついた時から両親からこの「殺気」については徹底的にきたえ込まれた。そのお陰で私は無意識下でも「殺気」を完璧にコントロールする事が出来る。

 私の友人達は私の事を「某ちゃんは美人だよねぇ」とか「あたしが男だったら絶対に某ちゃんをお嫁さんにする」とか言って来る。この高校に入学してからも男子から何十回も「告白」とやらをされたが全て丁寧にお断りをして来た。だって私は「武士」なんだから。結婚の約束をしていない殿方と2人きりで過ごすなどもってのほか


 私が何故「武士で在りたい」と思っているのか ? は自分でもよく判らない。ただ、保育園に通っていた頃からそのように思ってはいたようだ。「将来の夢」と言う保育園の作文に「あたしはりっぱなブシになりたいです!」とか書いてるし。しかしカタカナで「ブシ」はどうなんだろう ? これを読んだ人は「この子はカツオ節になりたいのか」とか「ソーラン節になりたいのか」と思うのだろうか ? んなワケは無い。

 私の家の家系図を見ると江戸の後期までは武家だったが、それから商人になって明治維新は商人として迎えている。だから完全な武家の家系とも言えない。ただ、所々に出て来る「草薙くさなぎ」と言う家名が気になる。父に聞いてみたところ「熱田神宮」と関わりがあるのだそうだ。「熱田神宮」と言えば「草薙のつるぎ」だが我が家に伝わる文献には「日本武尊ヤマトタケルの死後、実際に草薙の剣を使った人」が居るのだそうだ。これには私もこう言わざるを得ない。「そんなバカな」と。







令和6年1月3日 家の近くの神社



 その神社で私を含めた女子7人で初詣はつもうでをした。


 事の発端は神社での友人達との他愛ないお喋りからだった。



「だからぁ。その投稿サイトを観ていて行方不明になっちゃった人がいるのよ」


「マジ ? それって都市伝説とかじゃ無いの ?」


 私達はスマホで読める小説の投稿サイトについて話していた。

 このグループは小説を読むのが好きな子達が占めている。

 そんな時、1人の子が妙な事を言い出したのである。


「あ、でもワタシもソレ聞いた事ある」


「ゲッ、マジかよ」


「ちょっと。最初からキチンと説明してよ」


 つまりは、その大手出版社が運営している小説投稿サイトで「ある長いタイトルの小説」を読んで行方不明になった人が居ると言うのだ。それも複数名。

 その「長いタイトルの小説」は午前2時過ぎに現れるらしい。そして、その小説は絶対に読んではいけない。

 読み始めてしまったら翌朝には読んだ人は、この世から消えてしまうらしい。


「・・・・ソレって、やっぱり都市伝説だと思うけどなぁ」


「うーん、それがしちゃんはどう思う ? 某ちゃんは、そう言うサイトをよく観てるみたいだけど」


 いきなり話を振られてしまった。


「いや、某も初耳だから」


「そっかあ」


 しばしの間の沈黙。

 その沈黙を破るように、それまで黙っていた普段から大人しい子が震える声を上げる。


「・・・・あ、あの。わたし見ちゃったんだ。昨夜、なんか長いタイトルの投稿作品」


「ええっ!」


「マジ !?」


 私以外の5人が飛び上がる。


「読まなかったでしょうね!」


「読まなかったから今、ここに居るんでしょ」


「その作品について詳しく教えて貰えないかな」


 友人達が騒いでいる中、私は努めて冷静に聞いてみる。


「え ? 詳しく、って言われても」


 友人達が騒いでいるので、その子も動揺してる。


「落ち着いて。ゆっくりと話してくれれば良い。そのサイトは何時頃から読み始めたの ?」


「・・・・えーっと午後10時くらいかな」


「どのジャンルを読んでいたの ?」


「・・・・恋愛もの」


 その子はポッと頬を染める。

 うん、さっきよりは落ち着いて来たみたいだ。

 友人達も今は静かに私達の話を興味深げに聞いている。


「その長いタイトルの妙な作品は何時頃にあらわれたの ?」


「うーんと。もう寝ようと思ってたから、午前2時過ぎかなぁ」


「やっぱり」


 言い出しっぺの子が声を上げる。

 うーん。ここは、少し静かにしていて欲しいなぁ。


「ちょっと。今は某ちゃんが詳しい話を聞いているんだから静かに」


 察しの良い子が制してくれた。

 助かる。


「その妙なタイトルは恋愛ものの中に現れたの。いきなり ?」


「うん。わたしもビックリしたから」


 私はゆっくりと質問する。


「貴女は何故、それを読まなかったの ?」


「だって、その妙な作品は作者名も文字数も表示されて無かったんだもの。なんか怖くて」


 私はその子を抱き寄せた。


「賢明な判断だったわね。読まなくて良かった」


「・・・・わーん。某ちゃーん」


 その子は急に怖くなったのか私の胸の中で泣き始めた。


「ヤバイよ! マジで行方不明になっちゃうモノが実在したんだよ!」


 言い出しっぺの子は興奮気味だけど他の子は不安気だ。


「ソレって、タイトル見ても大丈夫なの ?」


「そうそう。これからもずっと現れるとか」


「えーっ、ヤダよぉ!」


 さっきまで私の胸の中で泣いていた子が怯える。


「ねぇ、今日は某の家に泊まって行く事は可能かな ?」


 私が告げると怯えていた子がビックリした顔になる。

 私は自分の中に「殺気」を宿しているからか、他人の「気」のようなモノが判る時がある。ソレが告げている。この子は危険な状態にある、と。

 それを告げると、その子は真剣な表情になりご両親への電話を始める。そして、その子は我が家で私と一夜を共にする事となった。






その夜 午前2時07分



それがしちゃん、来たよ」


 客間の布団の中にいた彼女が声をかけて来る。


「了解。やっぱり恋愛もの ?」


 そう言いながら私は隣に敷いていた布団から出て彼女の所へいく。


「うん。コレなんだけど」


 彼女のスマホには恋愛ものの中に「これを最後まで読み終える前に絶対に後ろを振り向いてはいけません」と言うタイトルが表示されている。鮮やかな紅い色で。


「見て。同じ箇所なのに某のスマホには、こんなタイトルは表示されていない」


 あっ、と息を飲む彼女。


「これから貴女のスマホをクリックして某が読んでも良いかしら」


「・・・・判った。某ちゃんに任せる」


 私はニコッと笑って彼女を安心させると彼女の隣の布団の中に潜りこむ。


 そして渡された彼女のスマホの紅い色の長いタイトルをクリックして、その作品を読み始めた。



 最初は今の私の現状が書き連ねてあった。克明に。


 それから背後で音がしたり風が吹いて来たりする描写になった。


 私には聞こえたり風を感じたりもしたが彼女には何も聞こえないし何も感じないみたい。


 最後には大きな獣が私を襲う場面になったが、やはり彼女には何も感じられないようだ。


 私は後ろを振り向いたが、そこに居た筈の獣は居ない。


 私は持っていたスマホに「殺気」を浴びせた。



ウォォォォン 



 呻き声と共にスマホが血のような紅い色になり黒い煙のようなモノが立ち昇る。


 同時に私の頭の中で複数の人の声がする。



 どうしてアタシが投稿したのに誰も読んでくれないの


 どうしてボクの投稿には評価が付かないんだ


 どうしてオレの投稿は順位が上がらないんだ 


 

 コイツらはぁぁ!


 腹が立ってきた私は「殺気」をフルパワーにして全ての怨念を消滅させた。


 捨てゼリフを残して。



「人を恨んだり妬んだりしか出来ないヤツらが評価なんてされる訳が無い!」



と。







 


 完

 

 



 

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これを最後まで読み終える前に絶対に後ろを振り向いてはいけません 北浦十五 @kitaura

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