終景
昼
駅前
ベンチにおじさんが座っている
時々電車の音
おじさんは鳩に豆をやっている
子供が三人で鬼ごっこをしている
少年と少女がやってくる
少年 今日はいい天気だね。
少女 そうね。
少年 こんないい天気の日はいい星が見えるんだろう。
少女 おじさんこんにちは。
おじさん こんにちは。
少女 おじさんは何をしているの。
おじさん 鳩に豆をやっているのさ。
少女 寂しい人!
少年 ちょっと失礼じゃないか。
少女 キミの方が失礼よ。
おじさん まっまっ。喧嘩しないで。これでも食べて落ち着きなさい。
おじさんに二人にチョコをわたす
少女 ありがとうございます。
少年 ばっちいよ。やめときなよ。
少女 本当あんたはなってないわね。まったく。
少女チョコレートを食べる
少女 おじさんはどうして鳩に豆をやっているんですか。
おじさん 僕はね。これぐらいしかできないのさ。
少女 できないって何を。
おじさん なんだろう。忘れたよ。
少女 おじさんはとても悲しい経験をしたのね。なんだかわかりますわ。
少年 ねぇ。もう電車くるよ。早く行こうよ。
おじさん あぁ。そうかい。ねぇ。私に構わなくても大丈夫。僕には鳩がいる。早くいきなさい。
少女 でも。
少年 おっさんの言う通りだ。早く行こう。
少女 あなたは本当になってないわ。
おじさん 若者は若者同士健康的に生きるのだ。
少女 おじさま。幸せになってください。絶対ですよ。
少年少女退場
おじさん鳩に豆をやる
鼻歌
天候が変わる
雨が降ってくる
子供たち退場する
鳩も飛んでいく
おじさんはベンチに座ったまま
おじさん眠り込む
一度暗転しライトチェンジ
ベンチに女生徒Aがやってくる
女生徒A おーい。起きろ。
おじさん うん。うん。なんだ。きみか。
女生徒A なんだ。きみか。じゃないわよ。一体全体あなたはここで何をしているの。
おじさん 長い夢をみていたんだ。
女生徒A 碌でもない夢なんでしょうね。
おじさん そうだな。キミが死んでから僕はくだらなく人生を消化してしまったよ。
女生徒A 人のせいにするなよ。
おじさん その通りだ。私はどうやら弱い人間だったようだ。悲しさを胸に抱えたまま、何かをするかと言うとできなくて、寂しさを紛らわすために音楽を弾くでもなければ歌うわけでもなく踊るわけでもなく走るわけでもなく鳩に豆をやるしかできなかった。
女生徒A そんなの知るか。
おじさん その通りだ。
女生徒A そんなんだったら、私と一緒に死ねばよかったんだ。
おじさん 許してくれ。私は弱い人間だ。弱く、情けなく、あぁ。
女生徒A ろくでなし。
おじさん しかしキミと逢えたということはようやく私も死ねたんだろうか。
女生徒A そんなに甘くないよ。あなたはまだ生きているよ。
おじさん それは残念だ。なら何故キミは僕の目の前にいるんだ。
女生徒A そんなの知るか。勝手にしやがれ。
おじさん わかったよ。
女生徒A やけに飲み込んで。自分の意見を捨てて。ろくでもない生き方。やめたらどうよ。やめれないのね。知ってるわよ。
おじさん 嘆いても、後悔しても、届かない手を伸ばすことはできない。キミの話を聴くことしか出来なかった僕だ。辛い。
女生徒A ありがとう。
おじさん 何が。
女生徒A なんでもないわよ。ありがとう。ありがとう。
女生徒A、退場する
今までの登場人物やってきて、ラヴァースコンチェルトを歌う
おじさんは歌わない
一番歌い終わると母親と子供がやってくる
子供 お母さん。
母親 なに。
子供 どうしてこんなに赤とんぼが飛んでいるの。
母親 此処は昔原っぱだったのよ。赤とんぼはそのことを忘れていないの。
子供 へー。よくわかんない。
母親 いいのよ。それで。
ラヴァースコンチェルト続きから歌い始める
歌い終わるとおじさん以外退場する
おじさん 夕焼け小焼けの赤とんぼ。おわれてみたのはいつの日か。
おじさん大笑いする
暗転
幕
空を歩く彼女の蜃気楼 容原静 @katachi0
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