各駅停車

木瓜

各駅停車

22時。

駅に各駅電車が停車する。


大学から自宅へ帰るのに、よく使っていた電車だ。


自宅へ帰るためには、この各駅停車の他に、快速電車もあるのだけれど、私は、各駅停車で帰る事にこだわった。


各駅停車で帰るよりも、快速電車で帰った方が時間短縮になるのに、あまりに非効率だ、と思う人もいるだろう。


もちろん、各駅停車で帰るのは効率的ではないが、それでも私は各駅停車にこだわり続けた。


各駅停車は、快速電車では停らない駅に停車する。


たまたま各駅停車に乗った時、その内の駅の1つで、誰かを迎える為なのか、ただひたすら、駅で待ち続けている女性を、車窓から眺める機会があった。


その女性は、儚げで、今にも吹き飛んでしまいそうなのに、どこか凛としていて、揺るがない真があるようにも感じられる、不思議な女性だった。


私は、その日から各駅停車に乗るようになった。

恥ずかしい話が、一目惚れだ。


馬鹿の一つ覚えの様に、彼女を目当てに、その駅を目指して、各駅停車に乗り続けた。


それからの詳しい事は、ここでは省くが、その甲斐あってか、もどかしかった私達の距離は、各駅停車が一つ一つの駅に停まっていくように、ゆっくりと、ゆっくりと縮んで行った。


時は現在に戻り、時刻は22時。

駅に各駅停車が停車する。


しかし、そこに私の姿はない。


各駅停車が停車する、いつものあの駅で、今日も誰かを待っているのだろうか。


「この快速電車は、次の…駅を通過致します。」

私が席で物思いに耽っていると、車内アナウンスが流れた。


ああ、もし、あの駅で、

今日も迎えに来ているのなら、


窓から笑顔で見送るよ。


きっと笑顔で見送るよ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

各駅停車 木瓜 @moka5296

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ