5話 店長魔女

ガチャ。

扉を開いたその先は、何かの倉庫の様な場所であった。

というよりも、店の裏口と言った方がいいのだろうか―—―—――あれから俺達はもうしばらくダンジョンを潜った後にこの場所へと帰還した。


「えっと、報酬の方はお母さまの方で?」

「あぁ。 よろしく頼もう、特別今は金が必要と言う訳ではないしな」

「解りました! ではその様に手続きをしておきますね!」

「解った。 それにしても―――かなり繁盛しているようだな」


入り口の方を見ておもったが、客入りも悪くなく立地もそれなりにいい…これを考慮するとそれなりの儲けが無ければ成り立たないのは確かだ。


「それにしても、ここまで運んで頂いて申し訳ありません。 何から何まで…」

「構わん。 さて、それではここらへんで俺は失礼するとしよう」


巨大な袋に入れた指輪を指定の場所に置いた俺は入ってきた扉に手を掛けようとした時である――


「あら? 帰ってのね、春奈。 と、そちらの方は?」

「あ…店長!?」

「店長?」

「――――!?」


少し気になった事もあり後ろを振り返ると、そこにはかなり胸元が開けた紫色のローブに全身を包んだ女性が立っていた。

が、この女…


「て、店長?」


彼女自身も異変を感じたのか、ローブの女性に近付きそう告げる。


「あ、あ、あ、あ、…あなた。 こ、こ、こ、こんなとんでもない人と何処で知り合ったの!?」

「――—へ?」

「ふむ。 やはり、指輪を付けていても―———本職の者を騙せないか」




―――――――――――――――――――――――


「な、なるほど。 彼は桃花の息子さんなのね」

「は、はい! ですから、今日はお手伝いをしてもらっていて…」

「ほ、本当にいいのかしら? 魔物の素材まで頂いてしまって」

「構わん」


別室へ通された俺は、出されたハーブティーを口に運びながらそう告げた。

なんでも魔女の様な姿をした彼女”ローズ”はこの店の店長で、向こう側の世界からやってきた人間の様だ。

しかし、焦った…もしかすると俺の魔力で何かばれるかとひやひやしたが特に彼女は何かを感じた等そういった様子はない。


「おっと自己紹介がまだだったな。 俺の名前は斎藤 春樹。 正真正銘、斎藤桃花の息子だ。 そして、母への依頼や数々感謝する」


俺は席を立ちあがると2人へ向けお辞儀をした。


「あ、いえ…そんな」

「えぇ、そうよ。 あの人は私達のパートナーみたいなものなんだから、お礼なんてやめて頂戴」


話によると、路用に迷っていた母へ依頼を出し始めたのはもう4年程にもなるというではないか。

ある種、俺という存在を失い生きる場を見失っていた母の助けになっていた事は確かだ。

それに彼女たちは”何一つ”嘘を付いてはいない、だからこそ信用するに値するだろう。


「で、でも…私も彼女の御宅へお邪魔したことがあるけど。 貴方は完全にこの世から消えていた筈…いえ。 身体を失っていた筈よね? それがどうして———」

「輪廻ダンジョン…」

「―――――まさか!? そう。 だったらその馬鹿げた魔力にも納得ね。 いいわ、これ以上は私も追及しない。 けれど、少し厄介な依頼等は貴方にお願いしていいかしら?」

「ど、どういう事ですか!? 店長!? 厄介なって…まさか!? あの依頼を!? 彼はまだEランクですよ!?」

「はんっ。 こんなEランクが居てたまるかって話よ、こんなのブッチギリでうちの世界のSランクなんて目じゃないわよ」


恐らく彼女は”魔眼”持ちの魔女で間違いないだろう、まさかまだあの一族があの世界で生前していたとは———いやはや、縁というものは切っても切れないと言う事か。


「いいだろう。 その代わり、報酬には色を付けろ?」

「解ってるわ。 じゃ、貴方———電子端末」


そこで俺は固まった。

そういえば俺、携帯電話持ってねぇと―――


「か、紙でいいか?」

「「へ?」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

なんでもありの元魔王は帰って来た地球でダンジョンが存在していたので自重しない @kosiginn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ