龍が燻らす
俺は阿防
俺の求めるものはモテ。女からの熱い眼差しである。今日もまた、男の道を邁進すべく修を行う……
煙草。男の嗜みである。
象牙色のシガレットを加え紫煙を燻らすシルエット。実に男。ハードボイルドをハードボイルドたらしめる象徴的なアイテム。なれば手にせねばならぬ。男ならば!
そのためにさっそくコンビニエンスストアへ入店。今日日どこでもなんでも簡単に手に入る時代であるが、その利便性の最たるものがこのコンビニエンスストアであろう。手間いれずというのは大変便利。さぁ煙草を探そう。徘徊徘徊。
……
……
……ない。
煙草が置いていない。品切れだろうか。
そんな事があろうか。街中では猫も杓子もコンビニエンスストアに入って煙草を購入しているのだ。売り切れると言うような事態、想像もできん。恐らくある。どこぞに。しかし、どこに……
聞くは一時の恥。聞かぬは一生の恥。
止む負えまいと決済場に直進。店員に詰め寄る。
「煙草をくれぃ」
あたかも売っている事を前提とした注文方法。これぞ男の技である。男はいつ何時でも見栄を切らなければならない。そのためには多少の知ったかぶりや方便も必要なのである。
「はい。何番にいたしましょうか」
ここで難問。番号指定。
どういうわけか。俺は何を試されているのか。困惑。ただただ困惑。
「あ、品名でも承りますが……」
また困惑。品名? 煙草は煙草だろう!
「……」
「……お客様」
「……」
いかん、後ろに列ができはじめておる。感じる露骨な不機嫌。かなりの重圧。仕方がない……かくなるうえは……
「一番いいのをくれぃ」
お任せ! こちらの意思が関与しない完全なる他力本願! だがそれが返って通に見られる事もままある! 此度においても、その効果を発揮せん事切に願う!
「あー……じゃ、パーラメントでよろしいですか?」
「うむ。それをくれぃ」
「かしこまりましたぁ」
む! なんだ! その背後にあるパッケージ! それこそが煙草だったのか! いや! これは参った! 灯台下暗しとはまさにこの事! よし! よい勉強になった! 以後はそちらを注視し購入する事としよう! 日々精進! これもまた男の道よな!
「はい、お待たせいたしました。お会計五百八十円でございます」
「ごひゃ!」
なんたる高額! 牛丼一杯食べて釣りが出てくる金額ではないか! だがまぁ、仕方ない。男を磨くためには金はかかる。然らばここは、身銭を切って伊達を通すとしよう! ほら! 持ってけ泥棒! 六百円!
「ありがとうございます。二十円のお返しでございます」
「うむ! ありがとう! それではな!」
退店。
存外痛い出費だったが、さて、早速咥えるとしよう。
おぉ!男の花が今咲くぞ! 記念すべき煙草初体験! この日が俺の男記念日だ!
……ライターがない。
再度入店。ライター発見。値段確認百三十円。財布の中には五十円。
……
……今日の所は、このくらいで勘弁しておいてやろう。
龍が如く征く 白川津 中々 @taka1212384
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