第14話 作戦会議

「――――安眠様」


「――――起きてください。安眠様」


 翌日、俺は酒場の床で倒れている獣人族男性たちの中で目覚めた。そして、そんな俺の目の前には例の呪術師と同じような形で人の顔があったのだった。


「おはようございます。安眠様。昨晩は妹が大変失礼いたしました」


「……。あ、ウールちゃんか」


 ドキッとしたけれど、すぐにそれがウールだと分かって安堵した――。


「……それで、今日はこれから来週に予定されている魔物討伐の作戦会議があるのですが、安眠様もご出席して頂けるでしょうか?」


 それから何度かウールに頭を下げて謝られたあとに、こんなことを言われた。


 だから、俺は寝る前と違って酒の匂いがきつく感じる酒場を出て……寝巻のまま、寝癖がついた髪を直すこともなく……ウールの後をついて行って……村の集会所にやってきていた……。



「――では、来週の魔物討伐作戦について会議を始めます」


 1人の獣人族男性が黒板の前に立って、大きめの声を出す。握られたチョークの先には話す内容が箇条書きで纏められていて、その横には黒板の半分を埋めるほどの地図が貼ってあった。


「まずは、一応日時や討伐部隊のメンバーなどの基本情報の確認ですが……」


 集会所の一室はまるで学校の教室のような雰囲気である。部屋の前にも後ろにも本棚が置いてあって、並ぶ本は「魔法学」や「錬金術」といった文字が目立つ学びの本が多い。そして、座る長机は懐かしさを感じる背の低さをしていた。


 俺の隣にはウールが座っていた。戦える子には見えないし、黒板に書かれているメンバー一覧にも名前が無いからたぶん俺の付き添い。だけど、横を見て顔を見た感じでは、俺なんかよりもよっぽど真面目に話を聞いている。


「…………えー。討伐対象の魔物の数は不明。ですが、2週間前にあった隣の村への襲撃の規模と、その時にいた知性を有する魔物の言葉から推測すると、少なくとも50を超える魔物がいるとのことです」


 進行を務める獣人族の男は落ち着いてる感じで、順序良く話を進めているようだった。


 皆その話を集中して聞いているのに対して、俺はちゃんと聞く気がなかった。目線も前ではなく、あっちこっちに向けていて、抑揚のない男の声はただの雑音と化している。


 理由はめんどくさいからだ。こういう作戦会議が。


 俺は誰かと連携を取って戦うっていうのはあまり経験がないし、俺の基本的な戦い方はそれに向かない1人用のものである。それで生きてこられているから、こうやって作戦を立てることに意味は無いと思っているし、生まれてこのかた作戦会議なんて真面目に参加したことが無い。どういう風に座っていればいいかもよく分かっていないのだ。


 そして、今回の作戦会議に関しては実際に必要がない――。主観的な偏った考えではなく、絶対に――。


 だから俺は、机に頬杖をついて、今度は隣の壁にあった魔石の標本でも眺めている。


「……はい、ではここから具体的な作戦についてお話しします。今回の魔物討伐は魔物を1匹残らず撃破する為に、彼らの縄張り全体を包囲して攻めるつもりです」


 しばらくの間、めんどくさい時間を過ごしていると、ついに具体的な作戦の話になる。


 俺も一応、自分にどんな役割が与えられているのか知るために、そこでようやく頭をそっちに向けた。


「じゃあ、ここからはシャイナ、よろしく」


「はい。助手のシャイナです。周辺の地形を説明しながら、各組の役割を説明致します」


 初めからシャイナはこちら側ではなく、前に立っていた。何やら紙を持っていて、それと黒板を見比べてみたり、時にはメモを取っているようだった。おそらくは進行役の獣人族の男が彼女の師匠で、そのサポートをしているらしかった。


 しかし、今度はシャイナが話す役を担当し始めて、師匠のほうは地図にシャイナが言ったことを図にして書き記していく。


「A班は北、B班は北東、C班は東…………各班は一定の距離を保ちつつ前進………この時、地図のC2地点には……」


 昨日俺を思いっきりビンタして、あれだけ態度がでかかった女とは思えないほどシャイナは几帳面に話を進めた。俺はその様子を見て何となくモヤモヤする。まだ左頬に貼ってあるガーゼを触りながら……。


 そして、それにしてもあいつの胸でかいな……。そんなことも思った。


 昨日の夜に見た時も衝撃的であったが……シャイナは一見してそうだと分かるほどの巨乳なのである。


 それは何か今まで見たことない形をしていた。体が大きい訳ではないのに胸が大きいからか、どかんと広い。胸の部分だけ少し体の横にはみ出てしまっているし、それ故にアンバランスな感じはする……けれど、決して窮屈そうではなくて、若いからかハリがありそうで全く垂れていない。


 とにかく、“胸”と、その1文字がドンとくる胸だ。来ている服がボディラインが強調されるようなぴちっとした物なので、よりそう感じる。


「……以上で、私からの説明は終わります」


「皆さん、何か質問や意見はありますか」


 そんなウールが説明を終える頃には……会議が始まってからかなりの時間が経過していた。部屋に時計は無かったので体感ではあるが、かなりだ。もうだるくて仕方がない。


 これからさらにああだこうだと議論するんだったらやってられない。だって、本当にこんな詳細な話は不要なのだ――。


 魔物は俺1人で全て倒すつもりだから――。


「はい。ちょっといいですか?」


 あくびを1発。そうしていると、隣の机に座っていた男が手を上げて立ち上がる。


 そして、俺のことを指差した。


「この人、大丈夫ですか。さっきから全然話聞いてないんですけど」


「ああ、俺も気になってたんだ。そいつあくびばっかしてるし、見たことない輩だ。真面目にやるつもりあんのか?」


 さらにその隣にいた男も発言して、こちらを睨んだ。


「ん?」


 それから、その2人は喧嘩腰で俺に絡んできたのだった……。

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「確かに俺は勇者ですけど、眠いんでちょっと待っててもらっていいっすか?」 ~状態異常学習スキルを持った勇者が1000年眠らされて最強になった~ 木岡(もくおか) @mokuoka

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