ニ次創作

お茶

はこだて

 公民館の前を通ると、和太鼓の音…

 陽気な音楽が聴こえてきた。お祭りだろうか。

 かすかに聴こえる音楽に導かれるように、建物に吸い込まれていった。



 緑色の重たいドアを開けて、ホールに入る。


 受付の人以外には誰もいなかったが、「いか踊り」の曲がエンドレスで流れているのだった。


「こんにちは」と星形のカードを差し出され、うつむいたまま受け取る。

 今日までの催しらしい。


 ホールの壁にはたくさんの…GL◯Yの写真、隅には楽器なんかもあった。


 たくさんの小さな人形たちが、道路を埋め尽くす行列のように踊りながら練り歩くジオラマ。

 私はゆっくり見て歩いた、それはまるで、


 港まつりを再現したかのようだ と思った。


 さっきは下を向いていたので気づかなかったけど、受付の方を見てハッとした。


 眼鏡の『ちゃとら』がにこにこして立っていた。


『ちゃとら』はまっすぐこちらに歩いてきて

CDを手に取ると、プレイヤーに入れて再生した。


…函館港まつりの曲だ。


「あ→の↑ねぇ⤴︎、これ函館港まつりの曲なんだけどさぁ、なまらいい曲ッしょ?クセになるさぁ。」


なまってる。


 『ちゃとら』は一曲一曲の解説をマシンガンのように勢いよく話し始めた。


 私は「はぁ。」とか「へぇ。」と相槌を打つことしかできなかった。


 確かに、どれもいい曲だった。


 でも、何なんだこの状況は。


 私たちが話したのはそれくらいで、ほんの少しの時間だった。


 帰り際に『ちゃとら』は言った。


「卒業したらッさぁ、女の子達はみんな

 あっけなく目の前から消えるっしょ。

 心の傷は消えないけどさぁ、

 それも一緒に連れていこう。

 大丈夫なんでないかい。」


 私はそんなことは何も話していないのだけど…

 見透かされてるみたいだ。


『ちゃとら』は私の厚みのあるショートヘアにぽん、と手を置くと

 まっすぐに目を見て言った。



「自分のことをダメだなぁって思っても、いいんでないかい。ウチは、そういうとこ含めて茶露のことめんこいと思うよ。」


 私は何も言えずに、小さく手を振って

 公民館のホールを出た。


 振り返ると、そこは空室で


 手の中を見ると、星形のカードは五稜郭のキーホルダーになっていた。

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ニ次創作 お茶 @yuichanhokkaido

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