決着と亜神


 炎神ウェスタは凄まじい熱波を振り撒きながら降臨した。

 その熱量は凄まじく、辺り全ての建造物や草むら、森を焼き払いその炎は俺達をも飲み込もうとする。

 だが炎は俺と梨花、そしてシルヴィアの目の前で広がるのを止めた。

 炎は次第に人間の形へと姿を変容させていく。

 そしてそこにいたのは燃えるような赤い髪に低身長の子供のような容姿の女の子だった。


「もー! シルヴィア一回負けたら帰ってきなさいって言ったでしょ!」


「いやいやウェスタ……、もしここで私が取り逃がしたらお前のところに行くんだぞ?」


「いいもん! なんなら才能ギフテッドを授けた勇者君がちゃんと強いか見たいところだったし!」


「そーかい。じゃあ私は引くよ。まだ死にたくないしな」


 そんな会話をしてシルヴィアは何処かへと去っていった。

 この場には俺と梨花、炎神ウェスタだけが残っている。

 

「炎神ウェスタ、俺達の用件はわかってるよな?」


「んー? まあ分かってはいるけど……」


「けどなんだ?」


「いやいや言ったでしょ? 才能ギフテッドを授けた勇者が強いかどうかみたいって。彼女の手足を奪った理由はそれが1番大きいんだからね」


「ってことは俺が力を示せば梨花の手足は返してもらえるんだな?」


「さぁね? ただ君達ルシフェルを撃退してるんだろ? なら僕ぐらいは余裕なはずだ」


 少女だったはずの炎神ウェスタの体が巨人のような大きさへと変わっていく。

 あれはスルトだ。

 世界を全て焼き尽くすとされている最悪の巨人。

 炎神ウェスタは炎が関連していれば何にでも変身できると考えた方がいいだろう。

 炎が広がり俺と梨花を分断する。

 梨花の力を借りずに1人で戦えということなのだろう。


「サァユウシャヨ、我を打ち倒シ世界を救っテ見せロ!」


「いいだろう。お前が世界を焼き尽くす前に俺が殺してやるよ」


 スルトの攻撃は大ぶりで遅い。

 だが当たりさえして仕舞えば俺ぐらいなら簡単に死ぬ。

 ならばこそ相手の攻撃を全て回避する必要がある。

 だが問題は周りが火に囲まれ、移動できる距離に制限をつけられていることだ。


「剣で草を切っても火は消えない……か」


 そうこうしている間にもスルトの攻撃は弱まるところを知らない。

 何度もこちらを狙い地面に拳を叩きつけてくる。

 一撃一撃はとても重たく打ち付けた時の衝撃波で吹き飛びそうになる。

 だが恐らく打ち付けたタイミングが弱点だ。

 わずかだが拳を打ち付ける瞬間、体の軸がずれている。

 その瞬間を狙うことができればチャンスはあるはずだ。


「勇者ヨ、反撃はしてこないのカ? やられっぱなシでは我を倒すこトナドできぬゾ!」


 スルトはますます拳を叩きつける速度を早める。

 俺はそれを回避しながら剣を抜き、タイミングを見計らう。

 両手を地面へと叩きつけ、潰そうとしてくるスルトは隙だらけだ。

 だが攻撃が肩を掠めるだけで死ぬのは勘弁してほしい。

 俺は一撃で仕留めるべく魔法を詠唱する。


『光と闇の神に願う 我が剣、我が生涯 その全てを捧げ どうか彼のモノを打ち果たす力をこの剣に授けよ』


神の光暗剣ライトニングブラックソード


 右腕を引き上げ、左腕を打ち下ろす、その瞬間をただ一点に狙い足元へと神を殺しえる一撃を叩き込む。

 例えスルトがただの巨人だとしても神が変身している以上効果はあるはずだ。

 足へと一撃を受けたスルトはうめき声を上げながら元のウェスタの姿へと戻っていく。


「勇者君、やるね。あの形態はまだ誰にも倒されたことなかったんだけどなぁ……」


「攻撃が大ぶりすぎだ。あれではいつか俺以外であっても負けてたぞ」


「うんうん。よく分かってるね。じゃあそこの魔族ちゃんの呪い解いてあげるよ」


「今のだけでよかったのか?」


「僕が満足したからいいんだよ! ほらほら魔族ちゃんこっちに来て」


 ウェスタが何かを詠唱している。

 そして待つこと10分と少し。

 いつの間にか梨花の手足は綺麗に生えそろっていた。


「魔族ちゃんと勇者君、またね。次はくれぐれも手足なんて捧げちゃダメだぞ?」


 それだけいうとウェスタは光の中へと消えていった。

 俺と梨花は安堵でその場へとヘタレ込む。


「とりあえず何とかなってよかったよ」


「うん。だけどあの神様……ウェスタ様だっけ? 何か雰囲気がおかしかった気がする」


「本当か? 俺は普通に感じたけどなぁ」


 そんなたわいない会話にしているとまた意識を刈り取られる。

 恐らく元の場所へと戻されるのだろう。

 俺と梨花はそのまま目を瞑り転送を待つのだった。


◆◆◆


 天界へと帰還したウェスタとその巫女は到着早々別の神に絡まれていた。


「ウェスタの巫女。勝手なことをしないでくれますか?」


「さーて何のことだろうね? 僕は僕のやりたいことをしているに過ぎない。それにこれはウェスタ様の意志だ。君程度の神が口を出していい問題じゃないよ? 焔の神カグツチ君?」


 先程まで零や梨花の前では炎神ウェスタとして振る舞っていた少女は巫女と呼ばれ返事をする。


「我々より少し炎を操れるからといっていつもいつも……!」


「だからいつもいってるじゃないか。カグツチ君がウェスタの巫女たる僕に勝てたらウェスタ様に合わせてあげると。実際勇者君は僕に勝ったよ? 人間にできて亜神の君にできないなんてことはないと思うけどなぁ?」


「この野郎……!」


 カグツチと呼ばれた亜神がウェスタの巫女へと殴りかかる。

 だがそこに控えていた付き人に止められ吹き飛ばされた。


「シルヴィア、てめえ俺と立場はかわらねぇ癖に何してんだよ!」


 その問いにウェスタの巫女の護衛は答えることなく、ウェスタの巫女と共に去っていった。

 帰還の間には悔しそうな男の鳴き声だけが響いていたという。

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どうも元無能の勇者です~無能時代から人に裏切られてばかりなので勇者の力を使って人類全てを抹殺しようと思います~ aoi @assinfony

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