ウェスタの巫女


 目が覚めるとそこは次元の狭間ディメンションウォールだった。


「ここは……?」


次元の狭間ディメンションウォールだな。恐らくアスルチアかメイドのヘカティア辺りが無理やりここにパスを繋いで送りつけたんだろう」


「でもそんなことしたら座標がズレて下手したら私達死んでたよ……?」


「まあそれがあちらさんの狙いだったってことだ。梨花に呪いをかけた神の名前を教えたことで恩は無くなったと判断したんだろうな。そうしたらどうだ? 残っているのは聖教会に楯突く魔族と正体不明の怪しい男の2人だ」


「でもそうだとすると怪しいのはヘカティアの方だろうね。アスルチアはここ数日で分かったけどそこまで魔族がどうだとか気にしてなさそうだったし」


「まあそれもこれもウェスタを倒して次元の狭間ディメンションウォールから脱出すればわかることだ。とりあえず進んでみよう」


 次元の狭間ディメンションウォールに飛ばされた俺と梨花はとりあえず前回のお爺さん魔族がいる座標へと歩き出した。

 幸い梨花は椅子型の魔道具に乗ったまま飛ばされたので戦闘も移動もそこまで支障はない。


◆◆◆


「おいおい、お前らだろ? 王都を滅ぼしたの」


 俺と梨花は少し歩いた先で人に声をかけられた。

 通常人間は次元の狭間ディメンションウォールへと足を踏み入れた途端に体が融解されて無くなる。

 だが稀に勇者のように神に好かれているモノは無事に辿り着けることもあるらしい。

 俺の目の前にいる巫女風の胡散臭い茶髪の女もその類なのだろう。


「初対面から物騒な質問をしてくるやつだな」


「物騒? それをいうならそこの魔族と勇者のお前の組み合わせの方がよっぽど物騒だろうに」


「……知ってて話しかけたってわけか」


「当たりめぇだろ。お前らウェスタの巫女であるシルヴィア様が裁いてやるから面貸せや」


 こいつ今ウェスタの巫女といったか?

 ということは標的の巫女が自分から近づいてきてくれたってわけだ。

 このチャンスを使わないわけにはいかない。


「いいよ。受けてたとう。ただし俺達が勝ったらウェスタに会わせてくれないか?」


「はは! お前らが勝つぅー? おもしろい冗談も言えるじゃねぇか。……死ぬぞ?」


 シルヴィアが怒りに任せて突っ込んでくる。

 どうやら巫女の見た目をしているがモンクのように殴りって戦うらしい。

 直線的に飛んでくる右ストレートをなんとか回避する。

 こういう近接的な戦いをしてくる人間との戦い方は剣を抜き、間合いレンジで勝つことだ。


「はっ! 甘いねぇ!!!」


 抜いた剣でシルヴィアの拳を受け止める。

 すると剣は何か振動を受けたかのように揺れ、砕け散った。


「振動魔法の才能ギフテッドか……!」


「ご名答! そしてこれがウェスタの力だ!」


竜の息吹ドラゴンブレス!》


 シルヴィアから無詠唱で放たれたそれは辺り一帯を焼き尽くす。

 俺はウェスタと戦うと分かった時から仕込んでいた《純水なる盾ウォーターシールド》を即座に発動させた。

 

「チッ。流石勇者様とでもいうべきか? なぁ?」


「さぁね?」


 俺はシルヴィアの挑発を適当に受け流し勝つ為の方法を探していた。

 相手があれほどの魔法を使えるとなると居合は使えない。

 恐らくウェスタの巫女であるということは炎系の魔法も効かないだろう。


「おらおら! 勇者ってのはこんなもんなのか!? もっと私を楽しませてくれよ!」


 俺が立ち止まったのを見てチャンスと見たのかシルヴィアがラッシュをかけてくる。

 俺はそれを冷静に全て捌く。

 シルヴィアの問題は機動力だ。

 拳1発1発はそこまでの重さを感じない。

 つまり機動力さえ奪えればなんとかなる可能性が高い。


「梨花、剣を飛ばす才能ギフテッドでシルヴィアの機動力を落とせるか?」


「……やってみる。失敗したらごめん」


 そういい、梨花はゆっくりとバレないようにダガーを飛ばす。

 俺はその間、シルヴィアを引きつけるだけでいい。


「おいおい! 噂で聞いてたのと全然強さが違うじゃねぇか! どうしたんだよ! 聖女マリーを殺したんだろ?」


「聖女マリーは確かに俺が殺したよ。だけど彼女より君の方が強いんじゃないかな……?」


 俺の力の抜けた攻防にシルヴィアが思わず挑発をしてくる。

 今の俺は徹底的に自分を弱く見せていた。

 そうした方が確実にシルヴィアの速度を落とせるし時間も稼げる。


「おいおい! どこまで逃げんだよ。それじゃ1対2の利点が……」


 俺を追い、次元の狭間ディメンションウォールの隅まで追い詰めたのがシルヴィアが負ける決定打になった。

 何故ならそこはもう梨花の領域だったから。

 幻影魔法を絡ませ、数十本に増やしたダガーがシルヴィアの足元に降り注ぐ。


「お前、はめやがったな……!」


「はめる? なにがだ? お前が勝手にきたんだろ?」


「あの足取りは絶対に狙ってやがった。お前やるじゃねぇか。だけどこのぐらいじゃ……」


 第2ラウンドが始まろうとしていた刹那、周囲にとんでもない熱波を感じる。

 これは紛れもなく、神だ。

 そして炎を操る神といえば1柱しかいない。

 そうだ。



——

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