邸宅と神の正体


 始めに言っておこう。

 俺はいくら聖教会の教皇とはいえ、そこまでの大きさはないだろうとたかを括っていた。

 何故なら魔法都市クストリエの土地は世界有数の値段の高さを誇っている。

 勿論、貿易が盛んであることや国家として繁栄していることもあるが、海沿いはバカンスのできる観光地としての側面も持っている為だ。

 だが目の前に現れたのは何処ぞの王城と見間違うほどの大きさを誇る建物だった。

 

「なぁ、アスルチアさん? ここであってるんだよな?」


「そうじゃよ。何かおかしなところがあったかの?」


 何かおかしなところがあったかじゃない。

 むしろおかしいところしかないのだが……。

 俺と梨花は思わず顔を見合わせる。


「アスルチア、1つ気になったことを聞いていいか?」

「うむ。なんじゃ?」


「聖教会教皇ともなれば本国でもこんなでかさの家に住んでるのか?」


「いやそんなわけなかろうて」


「そうだよな。流石に聖教会教皇とはいえ本拠地がこれよりも大きいなんてことは……」 


「こんな別荘、本国の邸宅と比べれば全然小さいぞ?」


 どうやらこの教皇様と俺みたいな庶民では感覚が違うらしい。

 梨花も魔王の娘なのを加味するとあちら側なわけで……。

 俺はこっそりと梨花に耳打ちをする。


「魔王の娘の梨花に聞きたいんだが、魔王もこんな感じの邸宅をぽんぽん持ってたのか……?」


「そんなわけない。そもそも聖教会って世界で1番お金を持ってる国家なんだよ? そこと比べられたら魔王なんてずっと戦争してるから貧乏の代表みたいなものだよ……」


「ならやっぱりアスルチアがおかしいだけだよな?」


「そうだと思う。これを小さいっていう感覚を私は持ち合わせてないかな……」


 あははと乾いた笑いをする梨花に心の中で俺は金持ち側だと断定してしまったことを謝罪する。

 となるとやはりアスルチアの感覚は一般とは大きくかけ離れているのだろう。


「さて、魔族の……すまぬ。名はなんと言ったか?」


「梨花です」 


「あーそうじゃった。人の名を覚えるのがどうも苦手でな。許してくれ」


「いえ……。大丈夫です」


「うむ。とりあえず梨花の魔族特有の魔力は誤魔化した故、屋敷へと入るぞ」


 アスルチアが屋敷の高い門の正面へと立った瞬間に自動で門が開く。

 どうやらあの門は誰かの才能ギフテッドで自動開閉される仕組みになっているらしい。

 そして重厚な扉も自動で開かれる。

 開かれた先ではメイドが数人、いや数十人待ち受けていた。


◆◆◆


「全く。アスルチア様、1人で行動されるのはお控えくださいといつも申しておりますよね?」


「すまぬすまぬ。だが面白い者達を拾ってきた故、我は暫く外出せずに済みそうじゃ」


 メイドの1人が俺達の方をチラッと見る。

 その目に敵意はなく、申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。

 恐らくアスルチアはよく1人で出掛けては俺達みたいなのを拾ってくるのだろう。


「お客様方、本当に申し訳ありません……。私は明日ルチア様の専属メイドをさせていただいております、ヘカティアと申します」


「ご丁寧にどうも。俺は零、こっちは梨花といいます」


「この度はアスルチアお嬢様のお相手をして下さり、ありがとうございます。数日はここから出ることは叶わないと思いますが、どうかお相手をお願い致します」


 それだけをいうとヘカティアと名乗るメイドは何処かへと消えていった。

 それに合わせて他のメイドも瞬きをする間に何処かへと消え、玄関ロビーには俺と梨花とアルスチアだけになる。


「ヘカティアはああ言っていたが、梨花に執着しているモノがわかったらすぐ解放する故な。少し辛抱してくれ」


「あぁ……。任せたぞ」


「うむ。それまでそなたらはこの屋敷でゆっくりとしていくが良いぞ」


 それから俺と梨花は久しぶりの休暇を楽しんだ。

 梨花にはアスルチアが聖教会で開発中の動く椅子を貸してくれた。

 そのおかげで移動に難がなくなり、久しぶりに楽しそうな梨花の顔を見れたのが印象的だった。


◆◆◆


「零、犯人というのはおかしいがわかったぞ」


「それでどの神だったんだ?」


 俺と梨花はアスルチアの自室へと呼び出されていた。

 

「炎神ウェスタ。聞いたことはあるか?」


「ないな。というか聞き覚えすらないレベルだ」


「この神は少々特殊でな。零、神と争ったことはあるか?」


「ルシフェルと名乗る神とは戦ったよ」


「お主……ルシフェルとやり合って五体満足で生きとるってなかなかすごいの……。いやそれは置いておいてじゃ。ルシフェルは体があったじゃろ?」


「あったな。6対の羽と人間離れした肉体だったが」


「それが神として人間の前に姿を表す時の形態みたいなもんなんじゃよ。だからこそ攻撃さえ当てれれば、たとえ非力な人間であってもを成せる可能性がある」


「確かにルシフェルも死ぬ前に天界へと帰っていったな。それは死ぬ危険があったからか」


「その通り。だがウェスタはそこが特殊なんじゃ。あやつは。何故なら本体が炎じゃからの」


「つまり殺せないわけか?」


「厳密には殺せる。ウェスタにも命はあるからな。だが、その方法が無理難題なんじゃよ。すまんが神を崇める聖教会の長として教えてやれるのはここまでじゃ。後は次元の狭間ディメンションウォールに赴き、自分達の目で確かめてくれ」


 その言葉を最後に俺と梨花の意識が遠のいていった。


——

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