聖教会教皇アスルチア
「思ったより活気があるんだな」
「魔法都市と聞くと確かにもっと陰気なイメージがあるかも知れませんが、魔法都市クストリエは魔法だけではなく貿易の拠点としてもかなり重要な立地になっています。それ故、様々なものが王都以上に集まると言っても過言ではありません」
「なるほど。だから魔法都市クストリエなのか」
俺はセシアが魔法都市クストリエに逃げ込んだ理由を理解した。
ここならばもしかしたら寿命を延ばす手段が見つかるかもしれない。
そう考えたのだろう。
「俺達は宿をとって梨花の手足を戻せる人間を探す。フィオはどうする?」
「フィオはセシアを探してみます。恐らくあの体ではここから先へはいけないはずですから」
「魔法迷宮か……。わかった。じゃあここからは別行動だな」
「はい。またお会いできることを楽しみにしています」
魔法都市クストリエが栄えてる背景には魔法の
それが魔法迷宮と言われるダンジョンだ。
ダンジョンは王都を除く世界各国に存在こそするが、そこまでの利益を国にもたらしてはいない。
だが、数カ所だけとてつもない利益を国に還元しているダンジョンが存在する。
魔法都市クストリエの魔法迷宮はその1つだ。
そんな考え事をしていると背中に背負っている梨花が声を掛けてくる。
「確かここのダンジョンはオリハルコンが取れるんだっけ?」
「そうだ。オリハルコンは俺達が使えるレーヴァテインにも使用されたと言われる伝説上の鉱石。梨花はよく知ってたな」
「魔王軍がそんな希少なものに目をつけないと思う? 人類が魔王に勝った背景には魔法都市クストリエが惜しげもなく、オリハルコンを提供したことにもあるんだから」
「それは聞いたことがあるな……。初代勇者やその仲間達はそこまで変わらないといって使用はしなかったが、オリハルコンの力が一般兵に波及したことで一気に人類が有利になったと」
「その通り。各地で優勢だった魔族はオリハルコンの直剣の一振りで50は消し飛ばされた。それだけの威力を秘めてるのよ……あれは」
「だからこそ今はオリハルコンの取引がかなり制限されているわけだしなぁ。他国と戦争になった時にオリハルコンが相手の国に数あると面倒だからと言う理由でな」
「まあそのおかげで魔法都市クストリエは中立国家であることを貫けてる訳だけど……ってそうだ。聖教会のお偉いさんが魔法都市クストリエに遊びに来てるらしいんだよね。まずその人を探してみない?」
「フィオからの情報か……。わかった。とりあえず探してみよう」
俺は内心少し不安だった。
一緒に数日旅をしたからといってフィオを完全に信用することはできていない。
いくら人造勇者達が
◆◆◆
あれだけ疑ってかかっていたが、結論からいうと聖教会のお偉いさんはすぐに見つかった。
それも暴漢に襲われているところを俺達が助ける形でだ。
「我は聖教会教皇アスルチア。そなたらは?」
「俺は零。身分は訳あって明かせない。背中のこいつは梨花だ」
「……よいよい。身分を明かせぬこともあるだろう。まずは我を救ったことに対する褒美をとらせよう。何が良い?」
「あの……その前に失礼なことをお聞きしても?」
「なんじゃ?」
「えーと見た目的に本当に教皇様なのかが気になりまして」
聖教会教皇と名乗る少女は口癖こそ立派なものの見た目は子供そのものだった。
とはいえ、よく手入れされた綺麗な白髪に聖教会特有の修道服。
特徴はかなり捉えている。
「うむ。それはよく言われるな。我は若くして
「な、なるほど」
「して願いはなんだ? 叶えられる範囲であればいくらでも聞いてやるぞ。金か? 地位か? それとも権力か?」
「いやそんなものはいらない。ここにいる梨花の四肢を治して欲しい」
「ほう……」
アスルチアが目をすっと細める。
まるで何かを見極めるかのように。
「うむ。これはわしの手にも追えん。すまんが別の願いにして貰えるか?」
「どういうことだ? 聖教会教皇の
「よく我の
「なんでだ? 俺にはただ手足が切れているだけにしか見えないんだが」
「そこだよ。ただ切れてるだけにしか見えない。だがこの娘の手足の断面は再生もせずかといって腐敗もしない。この子魔族じゃろ?」
ビクッと梨花が震えるのが背中越しに伝わる。
魔族を目の敵にしてきた聖教会教皇にバレたら命は無いといっても過言ではない。
「それがどうした?」
「そこまで敵意を剥き出しにせんでも命の恩人の友には何もせんよ。それで魔族というのは再生能力が異常なぐらい高い。勇者の
「バレたからもう普通に話すけどそうだね。魔族の再生速度はそこそこ異常といっても過言じゃない。だからこそ私は自分の手足が治らないのが不思議で仕方ないんだよ……」
「まあそうじゃろうな。結論から言おう。その手足の断面、神によって呪われている。それもかなり高位のな」
これで合点がいった。
魔族の再生能力が働かない理由もフィオからの治癒の
「それで俺達はどうすればいい?」
「ふむ。まずはどの神か特定する為に我の別荘にくるが良い。勿論、そこの女の素性、魔力の質は隠しておいてやる。どうじゃ?」
俺としては願ったり叶ったりだが、梨花は命をこの少女に預けるのと同義だ。
「私はいいよ。聖教会教皇様を信じる」
「その呼び方はやめてくれ。アスルチアでいい」
「じゃあアスルチア、頼む」
「うむ。任された」
こうして俺達は聖教会教皇アスルチアの別荘へとお邪魔することになった。
——
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