魔法都市クストリエと審査


 フィオは見た目にそぐわず料理も水浴びをする川を探すのも全て簡単にやってのけた。

 そして俺が戦闘で才能ギフテッドを使えずに怪我をした時には治癒の才能ギフテッドまで使ってくれる。

 そんなフィオとの旅が快適ではないわけがなく。


「フィオちゃんすごいねー! 私と零2人とも料理できないから旅の時大変だったんだよ」


「その……梨花さん女の子なんですから料理ぐらいは出来た方が何かと便利だとフィオは思いますが……」


「ん? 何か言った?」

「い、いえ」


「こら梨花あんまりフィオをいじめるなよ。お前をずっと背負ってくれてるのだってフィオだろ?」


「はーい……。ごめんね、フィオちゃん」


「フィオは別に気にしてませんから。大丈夫です」


 魔法都市クストリエへ向かう道中で梨花は目を覚ます。

 幸い才能ギフテッドの使いすぎで記憶が欠落するということもなく、城を燃やし尽くした一撃のことはよく覚えていた。

 梨花は目が覚めた瞬間、手足の欠落した自分の姿を認識して「詠唱が雑だったかなー。ははは」と乾いた笑いをしていたのを覚えている。

 どうやら梨花は炎魔法の才能ギフテッドを使う際に神に手と足をささげるという詠唱文を盛り込んだらしい。


「しかし梨花の状態はどういうことなんだろうな? 試しにフィオの治癒の才能ギフテッドを使ってみても少しも治る気配がない。それに梨花ぐらいの魔族になると自動で腕とか足が欠損した時に生えてるくるものじゃないのか?」


「まあ普通はそうなんだけどね……」


「神に捧げるという一文はそれだけ禁忌なんですよ。フィオ達ホムンクルスでさえ、自身の体の一部を犠牲に放つ才能ギフテッドは禁じられています。もっとも普通は撃てないんですけど」


「そこは勇者の才能ギフテッドだからな……」


「そうなんだよねー……。私もまさか本当に神が力を貸してくれるなんて思わなかったし」


「フィオはそこが問題だと思うんです。魔族が神に助力を願った。ただ神と魔族は犬猿の仲です。なので代償は必要ですが貴女は勇者と行動している、いわば仲間です。だから代償は手足で済ませたと。そう思うんです」


「なら普通の治療で治らないのも納得だな。ただ神に願うにしても今代の聖女は死んだ。かと言って次代が選ばれるまで10年とちょっと。その間ずっと梨花をこの状態にはしておけないだろ」


 実際問題としてフィオと一緒に行動するのもセシアを捕まえるまでだ。

 今ここで目の前にセシアが現れて捕まってしまったらそこでこの協力関係も終わりになる。

 だからこそ俺は少し焦っていた。

 魔法都市クストリエでも治せない可能性がある。

 その事実に。


◆◆◆


 旅の行程はフィオのおかげでかなり快適に済んだ。

 俺も俺で途中から才能ギフテッドの力を取り戻してからはほとんど苦労することなく、砂漠も山も通り抜けることができた。


「ここが魔法都市クストリエ……」


 誰が発したのかわからない感嘆の声が響く。

 それもそのはずで魔法都市クストリエは君主のいない国として世界で一番大きな国だ。

 魔法都市という名前なのに国家なのはクストリエの成り立ちの問題だと言われている。

 実際俺も調べてわかったが元は王国の都市の1つだったが、その強大な魔法の力を制御できなくなった王国が国として認めたらしい。

 しかしその時に改名をしなかった為、魔法都市という名前が残っているとかいないとか。


「とりあえず入国審査をしましょう。お2人とも魔法は使えますよね? 魔法を使えないものは入国できないので」


「それはまた……。俺も梨花も使えるから問題はないぞ。梨花はその体でも魔法は使えるよな?」


「一撃ぐらいならなんとか……ね」


◆◆◆

 

 俺達は入国審査を受けていた。

 魔法力を測る水晶で魔力を測定し、実技をやるという流れらしい。


「実技は簡単だ。あの的を君達パーティーの誰かが壊せればいい」


「全員が壊せなくてもいいんですか?」


「あぁ。魔法力があるとはいっても戦闘向き、非戦闘向きというものがある。我々魔法都市クストリエは非戦闘向きの才能ギフテッドも重要だと考えているからな」


「そうか。なら遠慮なく」


 俺は手っ取り早く終わらせる為に炎魔法と風魔法の才能ギフテッドを同時に詠唱する。


『風と焔よ 我が声 我が詠唱に則り その全てを吹き飛ばせ』

創造せし炎嵐クリエイトファイアーストーム!》

 

 炎と風の嵐は的目がけて全てのものを吹き飛ばしながら進んでいく。

 やがて的と接触した瞬間に爆発が起こる。

 そして的があった場所は更地と化した。


「…………」


「あの、これでいいですよね?」


「あ、あぁ。通っていいぞ」 


「ありがとうございます」


 こうして無事入国審査をクリアした俺達は魔法都市クストリエへと足を踏み入れたのだった。



——

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