episodeLAST 世界を救う主人公たちへ
「これは見事!見事!」
迫り上がった大地から地上に降りると拍手で出迎える少女がいた。
「しかしちと役者が足りておらぬな。ちょっと待ってろ」
不意に幾つか穴が僕らの頭上に現れる。
僕とひのみは戦闘態勢を構えた。
「きゃあ〜〜〜」
「痛い……」
「あっ、ごめんなさい」
聞き覚えのある叫び声と共に見知った顔が勢揃いする。麒麟の手により消えた皆が帰ってきたのであった。
僕を踏み台に無事着地を果たした友美が申し訳なさそうに謝罪する。
「これで役者は揃ったみたいね。先ずはおめでとうと言わせてもらうわ。黒騎士を筆頭に数多の壁を乗り越えよくここまで辿り着けた」
「何言ってんだてめぇ?お前ぇさんの仲間だろ」
「仲間………、羽柴蓮。貴方にとって仲間とはなんですか?」
「共に手を取り合い目的へと立ち向かう者だろ」
「であるならば黒騎士達と私の関係は仲間ではありません。彼らは私に遣える者。私が死ねと命じれば自害する存在。それが仲間と言えますか?」
「………」
「ですよね。私もその関係を仲間とは到底口が裂けても言えないわ。まっ、この論争には終わりが見えないから忘れましょ!それよりも本題に入りましょうか?さて貴方達に疑問は何か?それは至ってシンプル。どうして私が現れたか。そして私が門の封印の邪魔をするのであれば、何故戦力を増やすような真似をしたのかそんなところかしらね」
「分かっているようなら答えてもらおう!」
「答えをすぐに求めようとするのは新田くんの悪い癖よ。けどいい加減アンタもはぐらかさずに私達に説明して欲しいものね」
「はぐらかしたつもりは毛頭ないのだけど…。まぁいいわ。結論から述べれば私の負け。我々はこの地を諦めて撤退するわ。それを伝えるため、ここに私は来た。じゃないと殺されるだけよだって私強くないもの……」
クロエが僕らの前まで歩いてくる。
「大空ヤマト。貴方という
何故か近寄ってきた彼女が微笑みかけた。
「さぁ?貴方なら希望たり得るかしら期待してるわ」
クロエの姿は始めからそこに存在していなかったが如く瞬く間に消えた。
あっという間の出来事に言葉を失う。
黒騎士の奥に控えていたラスボスが呆気なく消えたからに他ならないのだが、その静寂を破ったのはひのみだった。
「何はともあれ門を閉じます」
そして数刻のうちに門は閉じられ当初の目的を果たすことに成功した。
そこからはあれだ。
魔気が切れた為徒歩で地上へ戻ることを余儀なくされた。
「どう舞菜、地上と繫がった?」
「駄目ですね。何度か試しましたけど使いものにならないっすよ」
「そっか。はぁ…岬が魔気を残していれば、こんな苦労せずに帰れたんだろうけど理不尽過ぎるわね」
「ちょ、それは聞き捨てならない!なら友美が魔気を恵んでくれれば解決する」
「私はスッカランよ」
「そんな目で見ても自分もないっすよ」
「当然俺もないっ!」
蓮が話に混ざるも分かりきっていた事に一同は聞く耳を持つことはなかった。
「けど、不思議なものね。来たときとは大違い」
「来たときってあれ?そういえば明日香さん達は落ちたあとどうやって私達と合流したんですか?」
「話すと長くなるわよ〜〜」
「嘘つくなって、俺ら二人は穴に落ちなかったんだよ。落下する直前、明日香の『聖者の盾』で足場を作って無理矢理穴を閉じたんだよ。ただしそのせいで、この螺旋状の穴から跋扈する悪魔を群れと二人っきりで戦うハメになったんだがな…」
「新田くんの言う通り。その後は、色々あって友美ちゃん達と合流してひのみちゃん達が居た彼処に向かったわけ」
「色々って……」
「他愛もないので割愛します」
その後も螺旋状の坂を登ること早十分。
頭上が少し明るくなる。
ようやく地上に出た。
そこから出入り口へ向かう。
待っていたのは澄み切った青空と人々の喝采。
出迎える僕らを待っていたのは、これまで戦線を維持してくれていた自衛隊の皆さん。そして作戦の指揮を執ったひのみの父親、神楽統合幕僚長が前に出る。
「おめでとう。これが君達が望み掴み取った人類の明日だよ」
「どうしてそれを?」
「…………大変言いにくいのだが、橋本殿使い終わった無線機は電源を切った上で早めに返しておくことをおすすめしておくよ」
「どういうことかしら?」
「あっ、徹夜続きで移動用の転移門作ってた時の無線機を戻す際に隊員からスイッチのオン・オフについて念入りに説明されたのはそういうことだったのか皆、ごめんね」
「話は戻るが、この先君達は何を望む?」
神楽幕僚長はそう言って懐から1台の無線機を取り出した。
※※※
飛行機に乗った僕らは、高度一万メートルの空の上にいた。
向かい合わせのボックス席に座るのは僕とひのみ。そして友美と岬の四人だ。
「けど、不思議ね。ほんの一ヶ月前なら飛行機に乗るという発想すら、悪魔に遭遇するかも知れないという恐怖が先行して誰も乗ろうともしなかったのに」
「おかげで私の仕事はなくなった。文明の利器最高ーー!」
「えっでもお父様が岬ちゃんに色々お願いしたのに、いつも霜山さんに仕事頼まれたから断られてるって嘆いてたんだけど…」
「それ本当なの神楽。てことはあんた、私や霜山さんには自衛隊の支援で忙しいって言ってたあれは嘘だったのね」
「んっ?つまりそれって言い訳してサボってたってことだよな」
「大空くん。それを言ったら最後私の自堕落生活が決壊するので、そのあたりで言い終えてくれると助かる」
「遅いわぁ〜ボケー!」
次の瞬間、機内に岬の頭部にドスッと友美の拳が当たった鈍い音がした。
アナウンスが流れる音が機内を駆け巡る。
『機長より連絡。これより本機体は中国上空に侵入します。待機中の
冥界門が開いた瞬間真っ先に悪魔達は外界と日本を阻害する魔気の壁を創り外国との連絡は断絶された。
その後日本に点在する主要な軍事施設を強襲。
先制攻撃は日本に甚大なダメージを与えた。
そこから盛り返し
ただ冥界門があるのは日本だけではない。
しかしながら通信すら閉ざされた日本では外国の状況は分からずじまいだった。
「けど、救難信号を受け取ってから一ヶ月も出立が遅れてしまったのは申し訳ないわね」
ゴミを見るような目で岬を見ていた友美が席に座り直して呟く。
「それは仕方ないわ。お父様も私達の遠征には大賛成だったけど、なにせ国内の防衛ラインを整えないと私達が居ない間に悪魔達が攻めてくるかもしれないもの」
「その防衛ライン構築を遅らせた原因に心当たりはあるけど、どうやら反省してるらしいし今日はこのくらいにしておくわ」
「ひっ!ごめんなさい……」
『機長より連絡。14時の方角に生命反応を探知。しかしどうやら悪魔の群れに追われてる模様。指示を乞う』
「予定地点はまだ先ですが僕たちはここで降ります。作戦通り十二時間後、合流地点で回収をお願いします。もしもそれまでに戻らないようでしたら帰投してください」
『了解。検討を祈る』
※※※
「ハァハァハァ…、急げシェルターまであと少しだ!」
チンは部隊の仲間と哨戒任務の最中に避難民を保護。シェルターへ向かっていたのだが、運悪くカテゴリーA悪魔、
なんとかここまで逃げてこれたが弾も残り僅か。しかも皆疲労困憊。
幼い少年と母親の親子連れは特に子供のほうが息も絶え絶えだ。
「うわぁっ!」
走っているなか少年が転倒した。
「シンシャン!」
「奥さん行くな!」
一人でも多くの者を助ける。
足手まといは切り捨てる。
それがチンの心情だ。
たとえ非情だと母親に罵られようと救える命を守る。それがこの戦いで人々を守る為に死んでいった仲間との約束を貫くことに準ずる。
「チンさんっ離して!息子が息子が…」
「すまない、すまない、すまない、すまない」
謝ることしかできない自分が歯痒い。
母親の目が辛かった。
嫌がる母親を無理矢理引っ張る。
「ブォーーーーーーー」
牛鬼が吠えた。
振りかぶった牛鬼の斧が届くまであと一歩。
風を斬る音が駆け巡り、天から彼らはやって来た。
「力勝負じゃ負けないわよ〜」
牛鬼の斧に負けじと拮抗する槍斧使いの女性。
「大丈夫、僕?」
「ひのみちゃん。日本語で話しかけても伝わらないんじゃ…」
「さては岬さん。このブレスレット翻訳機能が付いてるから会話には支障がないという神村博士の話聞いていませんでしたね」
「成る程納得」
目を疑った。
死を直面した少年の前に歩み寄り抱きかかえる女性達。
死が蔓延するこの世界においてこの光景は常軌を逸する出来事だった。
「貴方の判断も間違いではありません」
隣に自分の息子と同じ年齢ぐらいの青年が立っていた。
「だけど、それじゃあきっと後悔します」
そんなこと分かってる。俺だって本当なら皆を守りたい。
だけどそんなことは無理なんだ。
隣を歩いていたはずの仲間が次の瞬間には死ぬ絶望した世界。それを覆すのは絶対不可能。
滅ぶしか道は残されていない世の中で、少しでも人という種を延命させる手段を選ぶのみ。
だというのに目の前の彼らには輝きがある。
何故抗える?
それを思ったのはチンだけではなかった。
この場に居た全員が同じ意識を有す。
「過去を取り戻すことは僕たちには出来ません。しかし貴方達の未来を照らす一助にはなれます」
「そんな……」
二つの不思議な出来事が起きた。
一つ目、牛鬼を斬り伏せた。
二つ目、この騒動を聞きつけ周囲から牛鬼が三匹何処からともなく現れるも。
「
青年の一撃が全ての牛鬼を殺す。
「君達は一体?」
「僕らは
この日を境に人類は再び歩み始める。
世界を救う。
その原動力になったのは人々の絆。
そして誰かを守りたいという人の想いであった。
世界を救ってみせてくれよ主人公 GOA/Z @gioFate
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