第10話 残念ドラゴンスレイヤー参上
「大丈夫か~~い!?ルカクン!!」
今にも崩壊しそうな聖堂の外に現れたのは、背中から炎を放つカバンを背負い宙に浮いたアキハだった。
「げぇ…」
思わず本音が出る。
「ん…なんだって?よく聞こえなかった!すげぇって言ったのかな!?」
あくまでポジティブなアキハ。本当に聞こえてないだけかもしれないが、この人に正面から挑んで勝てる気はしない。
「はは…そうです…ね」
笑顔が引き攣ってしまった。が、アキハは上機嫌なので別に良いだろう。
「てか、どうしてこの場所にいるって分かったんですか?」
「それは……」
アキハは空中でニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「キミの銃に居場所を教えてくれる機能をつけ…」
ルカは静かに銃口をアキハに向ける。
「…ッステイ…ステイだ…ルカクン…オトナの世界にはジョークというものがあってね…」
「…で、なんでわかったんです?」
「オオウッ…今日のルカクンはいつもに増してツンの日だねェ!いや、実はねーーー」
アキハは過去を回想するーー。
「(わーい出来たー)」
小型の新型爆弾を惚れ惚れとした顔で見つめるアキハ。
「(んじゃ早速実践と行きますかァね!)」
「(えいっ)」
チュドーーーーン
研究室の壁を吹き飛ばすほどの爆炎を小型爆弾は生み出す。その熱風に焼かれ、丸焦げになったアキハは、頭を抱えていた。
「(こ…これはやべぇですよ…。いくら天&才のボクと言えどもこれはやりすぎ…)」
「(あ、そうだ。隠せばいいのか!)」
ーーーー数分後。
「(よいしょ ここならバレないかな)」
小型爆弾が複数詰まった木箱を聖堂の床下に隠したアキハはふぅ、と疲れたように汗を拭く。
「(これで安心安心!!)」
ーーーーー回想終わり。
真剣な顔持ちになったまま考えるアキハ。
「………聖堂で爆発が見えたから、大丈夫かなって。心配になったからだ…よ!」
ウィンクしながらルカに無実をアピールするアキハ。
「なんか絶対隠してますよね」
「そっ…そんなことある訳な…」
チュドーーーーン。
1つ上の階で謎の爆発音が鳴り響いた。
「………」
「………」
「…アキハさん」
「…ハ…ハイ!」
「…あとでリリーさんに言いますね」
満面の笑みを浮かべるルカ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!!」
その日、エストリル王国の住民は目撃したーー。
爆発四散する聖堂から、謎の飛行物体が郊外の方へ飛んで行ったのを。
勿論それがルカ達であったことは言うまでもない。
ーーーー2時間後。
裏ギルドにて。
「………今回の任務、ご苦労だったな」
意識を失ったまま目を覚まさないカーミラとアリスを南門治療院に預けた後、ルカは裏ギルドにて任務の報告を行っていた。
「まさか…強欲の魔女が失踪事件の犯人だったとは…」
強欲の魔女。
魔王軍幹部 七大悪魔の一人。100年前の人魔決裂の際に消滅したとされていた存在。
人魔決裂は人族陣営と魔族陣営に別れて起きた大戦争である。この人魔決裂によって滅亡した種族は少なくない。吸血鬼族も、そのうちの一つであった。
七大悪魔はその名の通り七人存在する。
強欲の魔女
憤怒の魔人
怠惰の魔女
傲慢の魔人
暴食の魔女
色欲の魔人
嫉妬の魔女
七大悪魔はそれぞれが冠名と同じ特性を持ち、封印指定級禁忌魔法を保有している。単身で国を攻め落とせる実力を持つと言われる七大悪魔だが、どれも伝説に過ぎずこの100年は全く音沙汰が無かった。
つまり今回の事件は100年の平穏を破る、大事件だった訳だ。
「…分かった。とりあえず他六カ国の裏ギルドへ魔報を送っておこう」
魔報、魔力で電報を飛ばす特殊装置に文字を打ち込みながら、リリガーノは続ける。
「…強欲の魔女はアリス・ブラックローズ氏に憑依していた。つまり、強欲の魔女はまだ完全体ではないということだ」
「つまり…叩くなら今ってことですね」
血みどろだった服からシャツに着替えたルカは、神妙な顔立ちで尋ねる。
「そう…したいところだが…。私の判断のみで100年の平穏を破り戦争を起こすのは非常に不味い」
魔報を打ち終えたリリガーノは顔の前で手を合わせ溜息を着く。
「…それに他の七大悪魔がどのような状態か分からない。追撃を考えるよりは防衛を考えた方が現実的だろうな…」
沈黙。
結論の出ない迷宮に迷い込んだルカ達は、これから起こる最悪の事態を想像していた。
恐らくこの王国は火に包まれるだろう。この国だけではない、他六カ国も無事では済まない。
ならば…今はまだ手を出すべきではないのだろうか。だが……。
沈黙。一言も発することなくルカとリリガーノの間に時間だけが流れる。
その沈黙を破ったのは、ズズズズと裏ギルドへ降りてくる告会部屋の音であった。
「!」
リリガーノが顔を上げて反応する。
のそっ、と裏ギルドに入ってきたその男の背には大きな大剣。真赤の、鉄塊のような大剣を大きく感じさせない熊のように巨大なその男は、金髪碧眼。
「あっパキラ!」
ルカは、その大男に軽快に挨拶をする。
猫をも殺すような鋭い目付きをしていた大男、パキラは…
「あぁルカ氏!小生帰還いたしたぞ!」
デレデレの顔をしながら凄まじいオタク口調で喋るのだった。
寡黙の剣聖 パキラ・アーノルド。眉ひとつ動かすことなく、声を出すこともなく。完全な無表情で幾つもの魔獣を討伐してきたことにより表ギルドで付いた渾名は、『【沈黙の狩猟者】ドラゴンスレイヤー』。
…だが、その実態はと言うと…
「あぁ~久しぶりのルカ氏良きかな…えっえっ待ってルカ氏これ彼シャツ??」
口を開けばオタク口調。強面な顔面とはまるで対象的な言動。
立てば鉄柱、座れば鉄塊。話す姿はクソオタク。
ドラゴンスレイヤーが寡黙なのは、アイデンティティ保護のためであった…。
「え、?いやこれリリーさんの…」
「ホオオオオ!まさかのカノシャツ!!あァ~リリガーノさんより小柄なルカ氏スコティッシュフォールド…」
一人で悶えているパキラに落ち着けとルカは促すと、任務について尋ねた。
「そ、れでパキラ?任務どうだったの?」
「…ァッ!そうでした忘れておりました」
パキラの任務。それは確か第三王女の依頼で赤竜を討伐することだったはず…。(※2話参照)
パキラはリリガーノの方を見つめると、言った。
「小生、任務達成して参りました」
「…そうか、見事だ。よく達成したな」
成果を褒めるリリガーノは、どこか曇った面持ちで、
「 …パキラ、ルカ」
リリガーノはパキラとルカを交互に見つめた。
「………お前たちに任せたい任務がある」
「はい」
「何なりと」
「…………」
リリガーノは…静かに告げた。
「…………転生者の暗殺を頼みたい………」
異世界ギルドの裏仕事 ー不死身の勇士と吸血少女の追放譚ー 弥々未実美 @siva-inu
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