第50話

 翌日

 シフトの合間に抜け出した静香は、逸る気持ちを抑えながら正門前へと向かった。

 即席で作られた自動改札口の横に、大きな鉄塔が据え付けられている。

 彼女はそこで、目的の人物を発見した。

「すみません、お待たせしました」

 声を掛けられた男子生徒は軽く手を振った。

「ごめんね井隼さん、今年は入場するのにカードが必要なんだね」

「はい、これです」

 静香は胸ポケットから関係者用パスカードを取り出すと、彼に手渡した。

「有難う、ではお邪魔します」

 改札口に磁気カードを通して、彼はゆっくりと門の中に入った。

「1年振りだなぁ、楽しみだね」

「はい、秋都祭へようこそ、御角さん」

 御角修の姿を眩しそうに見ていた静香は、パンフレットをギュッと握り締めた。



 秋都祭実行委員会本部、通称「大本営」

 生徒会長である空良は本日原則としてここに待機、様々な対応に追われる事となる。

「はい、コーヒー」

「ありがと」

 真琴が差し出したマグカップを受け取った空良は、既に使い込んでボロボロになりつつあるパンフレットにマーカーを引いた。

「プログラムは順調に進んでいるみたいだね」

「ええ、怖い位に」

「そう言うなよ」

 苦笑した彼の耳に、委員の一人から入った無線連絡が届いた。

『南館B1で迷子です。指示をお願いします』

「インフォメーションセンター2に連れて行って下さい。そこで場内アナウンスをお願いします」

 書記長の倉島ひかりがマイクを取り、的確な指示を伝える。


「・・・まあ、最後まで気を抜かないで行こう」

「そうね」

 改めて身を引き締めた空良は、自らに言い聞かせる様な口調で言った。

「今年のメインイベントは、最後の最後に待っているからな」

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twenty all Ⅱ~ツキノヒカリ 黒珈 @take_k555

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