見送る人 進む人
土蛇 尚
長い物語
父は息子を見送った。開拓地へと向かう帆船に乗る息子を。
どこまでも広がる荒野に青年は立った。ここが夢の新世界でない事は早々に悟った。
しかし青年は木を切り倒し、井戸を掘り、家を建てた。
青年は家族を持った。懸命に働き自然と戦い、住めない土地を住める土地に変えた。
その土地を青年は息子に託した。
父は息子を見送った。字の読めない自分の代わりに学校へと向かう息子を。
青年は生まれた土地を憎んだ。字も読めない哀れな父をも憎んだ。この土地に縛られる自分の人生を恨みさえした。
父は息子を見送った。戦地へと向かう息子を。止める事はできなかった。
戦えば豊かになれるのだと言う。
息子が帰ってきた。足もある。腕もある。だが心が壊れていた。長い時間が過ぎた。
そして再び立ち上がった。そして青年は歩き始めた。
父は息子を送った。自分の若い頃にはなかった権利が息子にはある。
父は投票所に向かう息子を見送った。
歩み続ける。ゆっくりと確実に、その意志のある限り。
振り返る事なく、引き止める事なく。
私たちは前へと進む。より良い未来へと。
見送る人 進む人 土蛇 尚 @tutihebi_nao
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