【エピローグ】

 今日も一日疲れた。まったくあのセクハラ部長はいつになったら死ぬんだろうか?

太田ちゃーん! そう猫なで声で呼ばれるたびに鳥肌が立つ。


 昼間の嫌な事を思い出すと何だか料理を作る気にもなれない。そうだ! こんな時にはお手軽な宅配ピザを頼んじゃおう!

キッチンの椅子に腰かけ、ジャケットの内ポケットからスマホを取り出す。お気に入りから宅配ピザ屋のサイトを選んでっと――。


ピンポーン。不意に壁に据え付けられたインターホンが来客を告げた。


「まったく誰なのよ……」


 思わず愚痴りながら、インターホンのモニターを覗き込むとそこには金髪に顎鬚を蓄えたチンピラ風の男と、その横にリクルートスーツを着た小柄な女の子が立っていた。 


「はい、どちら様ですか?」


「チーッス、死神です。開けてください」

「ちょっと! 小野寺さん、不躾ぶしつけすぎますよ!」

「っるせーな、どうせ死神だっつったって信じやしないんだからいいだろ!」


 なんだコイツらは? 私は事態が飲み込めず、その場でフリーズしてしまった。


ピンポーン、ピンポーン。


 男がインターホンのボタンを連打している。


「居るんでしょー? 太田さーん!」


私はインターホンの通話ボタンを押して大声でまくし立てた。


「な、何だか知りませんけど帰ってください!! これ以上ふざけるようなら警察を呼びますよ!」


慌ててテーブルに駆け寄り、スマホを手に取った。


「え、えーと、け、警察! ひゃくとうばん……」


 慌ててダイヤルをしようとしてスマホを床に落としてしまった。

スマホを拾って顔を上げると、目の前にはつい今しがたモニター画面の中に居た2人が立っていた。

金髪のチンピラが口を開く。


「だからさー、死神だって言ってんじゃん。警察呼んだって信じてもらえないよ? なんて言うの? 死神が来ました! って言うのかい?」


「ちょっと! 小野寺さん! 死神のモットーは親切、丁寧、分かりやすくですよ!」


「なんだよ、これ以上分かりやすい説明はねえだろ。自ら死神だって名乗ってんだからさ」


 リクルートスーツを着た小柄な女の子がふくれっ面をして、金髪のチンピラに説教を始めた。


「小野寺さんは死神の何たるかを分かっているんですか? そんなだらしない格好をして、おまけに金髪、顎鬚ってチンピラじゃないですか!」


「チンピラとはなんだ! 大体な、死神になったら地獄行きを免除してやるって言うから仕方無く死神になったんだぞ! お前と違ってなりたくてなってんじゃねーんだよ!」


「ちょっと! あたしは『おまえ』なんて名前じゃありません! 月夜みちるっていう立派な名前があるんですー!!」


「今そういう話をしてんじゃねぇだろ――」


「ちょっと!! 人ん家に入ってきていきなり痴話げんかを始めて、あんたたちは一体何なの!!?」


「死神だよ!!」

「死神です!!」


 完

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「こんばんは、死神です」そう言って俺の元にやって来たのはリクルートスーツを着た小柄な女の子でした 阿藤Q助 @KA8ALPHA

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