閑話5

ミヤビが泣き止んで、少しすっきりした、どこか恥ずかしそうな顔をして、レンカにお礼を言いながら集団の中に戻っていった。

その後、少ししてから違う女性が話しかけてきた。

「こんばんは、レンカ君。疲れていない?」

「こんばんは、レイスさん。ええ、問題ありません。」

話しかけてきた女性はメルティと神兵に対峙していた女性であるレイスだった。レイスは薄い紫の髪色を肩まで伸ばした、女性が憧れるようなボディラインをした女性だ。

「そう、ならいいのだけれど。…さっきミヤビがレンカ君のところに来ているのを見て気になって、ね。」

「そうでしたか。昼間のことが堪えているようでして、後でフォローしてあげていただければ。」

「それは…そうでしょうね。でも、戻ってきたあの子は随分落ち着いた顔をしていたわ。あなたのおかげね。」

「いえ、私ができたことは少ないですよ。今後気にかけてあげてください。」

「もちろんよ。あの子もかわいい妹分の一人ですもの。」

その言葉を聞いてレンカは少し笑った。この人たちが築いてきたのは優しい世界なのだろう。それは小さなシェルターという世界で助け合わ無ければ生きていけないという環境がそうさせたのかもしれないが、それでもその世界を守ってきたのはこの人たちなのだ。そんな人たちをレンカは好ましく思った。

「それと、どうかしましたか?何か問題が発生したのでしょうか?」

「ああ、いいえ。あなたが処置してくれた治療でみんなだいぶ楽になったし、今まで女だけで身を守らなければいけなかったから、頼る人がいるこの環境にみんな安堵しているわ。」

「それは何よりです。ではレイスさんは?」

「うん。きちんとお礼を言っておかなきゃなって思って…。忙しいのに迷惑だったかな?」

「そんなことはありません。うれしいですよ。」

「そっか。じゃあ改めて、ありがとう、レンカ君。私たちを助けてくれて。」

「どういたしまして。」

「いつか必ずお礼はするからね!」

「いえ、気を使っていただかなくても大丈夫ですよ。」

「む、そんな強情に断られると何かしてあげたくなるじゃない!決めた!絶対お礼受け取ってもらうから!」

「あはは、では楽しみにしていますよ。」

そんなやり取りをしながら夜が更けていき、次の日の正午、到着したアルマ商会の応援が治療やけが人、遺体などを積み込み、アルマ商会に向かって出発した。


それから、時間が経過し、独り立ちできるまで回復したメルティたちはある商会を始める準備を整え、つい半年前にこの商会を立ち上げた。商会立ち上げるまで、アルマ商会が補佐していたが、レンカもその時に手伝ったりしていたのだ。


そういった経緯を思い出しながら、メルティと向き合って慰められたお礼を言った。

「ありがとうございます、メルティ会長。少し気持ちが楽になりました。」

「…そっか。じゃあついでに、やっぱりサービス受けてく?」

「いやいや、大丈夫ですよ!」

「ふう…残念。でも、私だけがレンカちゃんにサービスしてたら、レイスや特にミヤビに文句言われそうだし、今回は見逃してあげる。」

そういうと、メルティはレンカから離れた。ちょっと残念に思っていると、突然女性の悲鳴が聞こえてきた。

「「!?」」

「メルティさん!声の場所は?!」

「今のはミヤビの声だから、夕顔の間って部屋だと思うわ!」

「了解!」

レンカは部屋を飛び出すと、メルティから聞いた夕顔の間の前で、扉を叩いて声をかける。

「ミヤビさん!レンカです!どうかしましたか!?」

「レンカ様!?い、今カギを開けます!」

鍵が開く音がして、中から青い顔をしたミヤビが出てくると、中に招き入れた。部屋の中に入ったレンカが見たのは、血で赤く染まったファルガだった。

(ファルガが負けるほどの相手か!?何があった!?)

レンカはファルガに駆け寄り、治療しようと魔術を展開しようとして、不思議なことに気が付いた。ファルガに外傷は無く、出血の発生源は鼻から出ていた。しかも、何故か割れているが、例の眼鏡をかけて妙ににやけた顔をしている。

「………ミヤビさん、この部屋で何があったのでしょうか?」

「ええと…、まずはお風呂でマッサージを受けていただこうと思いまして、私が水着になったら突然ファルガ様が鼻血を出して倒れてしまって…。私も何が何だか…。」

ミヤビは少しおびえた目でファルガを見ている。ミヤビからの話と倒れた衝撃で割れたのであろう眼鏡をかけてにやけ顔で倒れているファルガを見て、何かを察したレンカは疲れた顔でミヤビに告げた。

「いえ、ミヤビさんに落ち度は一切ありません。問題はこのアホですので。どうやらミヤビさんの裸に興奮しすぎて倒れたようですので問題ありません。」

「えええっ!?」


ファルガを背負って、メルティの部屋まで戻ると、そこに集まったメルティ、レイス、そしてミヤビに先ほどの説明をすると、レイスとメルティは背中を丸めて笑った。因みにミヤビは恥ずかしそうに丸まっている。

「あはははははははははっ!あぁ…はぁ…はぁ…。レンカちゃんは面白い子が友達にいるのねぇ。年頃の男の子には刺激が強かったかしら?」

「…恥ずかしながらそのようです。ご迷惑おかけしました。本日はこの辺で失礼させていただきます。」

レンカはファルガを叩き起こし、申し訳ない顔でメルティたちにそう伝えると、メルティたちからの「また来てね」の言葉に頭を下げて部屋の外に出た。

店の入り口までレイスが付いてきていたので、レンカは改めて謝罪して店を出ようとしてレイスに呼び止められた。

「ファルガ、少し話をしていくから先に店から出ててくれ。」

「おう、わかった。」

ファルガが店の入り口から外を出たのを確認して、レンカはレイスに向きなおり、口を開いた。

「今回はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」

「あはは、いいのよ。面白かったし。それにレンカちゃん、ミヤビは元気にやってるの確認できたでしょ?」

気になっていたことをレイスに口にされたことにより、レンカは少し詰まりながら返答した。

「…はい。安心しました。」

「ミヤビは幸せ者ね。レンカちゃんにそんなに心配してもらえて。でもね、レンカちゃん、私たちはもう大丈夫よ!」

レンカを安心させるように力こぶを作る真似をしたレイスが、元気づけるように言った。

「はい、また様子を見に来ますね。」

「今度は私のサービスを受けに来てね。」

レイスは両腕で自分の豊かな胸をたくし上げながら、誘惑するようにレンカにまた来てという。レンカは苦笑いしながら店の外に向かって歩き始めた。その表情は気になっていたものが解決していたかのように穏やかだった。


店の外に出るとファルガがいたが、なぜか冷や汗をかいている。

「ファルガ?どうした?」

様子のおかしいファルガに声をかけるとすぐ目の前から不思議そうな、冷たい声が聞こえた。

「………は?…レンカ?あの店から出てきたの?」

聞きなれた、でも冷たい声を聴いて、ゆっくり声がしたほうに視線を向けると、表情がすべて無くなったハオリが立っていた。ハオリはゆっくりレンカに近づいてくると、冷え切った声で質問を重ねてくる。

「ねぇ、あの店から出てきたよね?しかも妙にすっきりした顔してるのはなんで?ねぇ、なんでかな?」

(こっわ!!)

因みにハオリは2年前の事件で店のみんなと知り合った経緯があり、この商会が立ち上がるまで手伝いをしていた時期があるため、この店がどんなサービスを行っているか知っていた。

「いや、違うんだよハオリ!君が想像していることは一切していない!」

レンカが最初に発した言葉は、まるで妻に浮気がばれた夫のようなセリフだった。考えうるセリフとして最悪なものを選んでいたが、聡明なレンカも焦っていたためか、選択を間違えていた。

「私が何を想像してるっていうのよ!レンカのバカ!色情魔!ベットやくざ!もう知らない!!」

最後には涙目でレンカにそう告げると、ハオリはその場から走り去る。しかも身体強化の魔術を発動しているのか、ものすごい速度だ。

「だから違うんだって!ハオリ!話を聞いてくれ!」

レンカは相変わらず浮気男のようなセリフを叫びながら、ハオリを追いかけ始めた。この後、ハオリの誤解を解くために非常に長い説明と、お詫びのお出かけに付き合うことになるのだが、それはまた別のお話。


そのころファルガは、

(女体の神秘を見た…。)

実に幸せそうなゲス顔をしていた。

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例え神でも来るなら殺す @mozaiku1

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