閑話4
「こちらレンカです。アルマ商会応答願います。」
『こちらはアルマ商会だ。レンカ、神兵の討伐の報告か?』
「はい、それと今の状況説明です。」
レンカは神兵討伐と女性たちの救助について説明した。
『…そうか。救助した女性たちは一時アルマ商会で受け入れる。女性たちはここまで自分の足で来ることが可能か?』
「可能な方もいらっしゃいますが、憔悴している方とケガをされている方…すでに亡くなられている方もいます。応援をいただけますか?」
『なるほど、了解した。物資と運搬の役割として、ガレスとハオリ、回復役としてミルに行ってもらう。そこの箇所であれば、今から1日程度で到着できるだろう。それまで女性たちの警護とフォローを頼む。』
「了解しました。応急処置はいたしますが、私は回復魔術が得意ではないのでミルが来てくれるのは助かります。」
『では急いで準備して向かわせよう。通信終了。』
アルマ商会とやり取りを終えると、女性たちに状況を説明しようと顔を向けた。
「すみません。これからの行動をご説明いたしますので、メルティさん来ていただけますか?」
「ええ、わかったわ。」
レンカはメルティを呼ぶとアルマ商会で決めた内容を説明していく。
「今後ですが、アルマ商会からここに応援を呼びました。皆さん憔悴していますし、これから日も落ちるため、このままシェルターまで向かうのは危険と判断しました。今日はここで1泊し、明日の午後に到着予定の応援と合流してシェルターへと向かいます。ここまでで質問はありますか?」
「そうね…。ここの安全の確保の方法と、食料に追いてはどうするのかしら?」
「皆さんの安全の確保は私が行います。先ほど程度の神兵であれば10体でも20体でも対応可能ですので、ご安心を。食料に関してはあなたたちの備蓄はどの程度でしょうか?」
「そ、そう…。あなたは若いのにすごいのね!私たちの食糧なのだけれども、明日の朝くらいなら何とかなるわ。でも、水が心もとないわね。」
「では私の備蓄を出しましょう。十分ではないかもしれませんが、明日の朝までなら何とかやりくりできるかと思います。」
「…何から何までもうしわけないわね。ありがとう、私たちを助けてくれて。」
「私は私のできることをしただけですので、お礼は不要で…。いえ、全員が無事にシェルターに着いたときに先ほどのお礼の言葉を受け取ります。」
レンカが優しく語り掛けると、メルティは一瞬きょとんとした顔をした後、不意にくすくす笑い始めた。
「あなたはとても真面目なのね。それでいて優しいわ。…ねえ、名前で呼んでもいいかしら?」
「ええ、私もメルティさんと呼んでいますし、好きなように呼んでいただいて構いません。」
「ありがとう!じゃあ、レンカちゃんね!」
「…いえ、呼び捨てか、せめて君でお願いしたいのですが…。」
「だ~め、好きに読んでくれていいって言ったもん。レンカちゃんって呼ぶわね。」
「わ、わかりました。」
レンカは少し苦笑いをすると、野営の準備に取り掛かった。
ケガをしている女性たちやの応急処置や食事、寝床の確保が終わるとレンカは周囲に広域の探索魔術を発動し、周囲の警戒をし始めた。探索器を使用せず魔術による探索を行ったのは、魔術のほうがより範囲の広い範囲を警戒できるからだ。レンカ一人であれば探索器で問題ないが、今はケガをしている女性たちがいる。警護対象が逃げる時間を確保するためにレンカは魔術による探索を選択した。女性たちから少し離れたところで警備していると、ミヤビと呼ばれた少女が近づいてきた。ミヤビがレンカの後ろに立つと、何かを切り出そうとしては出来ない、という状況だったため、レンカは助け船を出すことにした。
「ミヤビさんでしたか?何かありましたか?」
「!…その、ひ、昼間はひどいこと言ってごめんなさい…。どうしても謝りたくて。」
「…いえ、あのときは仕方がないですよ。大切な人がいなくなってしまう悲しみは、心が弱るには十分ですから。」
「…はい。あの…レンカさんも大事な人を亡くしたのですか?」
「………、ええ、数年前に育ててくれた母を亡くしました。だからミヤビさんの気持ちがわかるとまでは言いませんが、似たような思いは経験したことがあります。」
「そう…なんですね。ごめんなさい、言いたくないことを言わせてしまって。」
「構いません。既に自分の中で整理が付いていますし、母も自分のことで悩む私を見たくはないでしょうし。」
「…レンカさんは強いのですね。でも、私は…。」
「強い…ですか。どうなんでしょうか?私が強いかと聞かれたら胸を張ってそうだ、とは言えません。ただ、ミヤビさんがそんなふうに思うなら、…私は強いのではなく強くなったのですよ、色々な人に支えられて。最初から強い人などいないと思いますよ。」
そして、あとは時間が解決してくれるだろう。時間の流れはとても残酷で、とても優しい。時間の経過は大切な思い出も浚って行ってしまうが、つらい思い出も薄めてくれる。
「そっか…そうですよね。この苦しい気持ちは、我慢しなくてもいいんですよね…?」
「はい、苦しい時ほど吐き出したほうがいいと思います。自分が壊れてしまわないように。理不尽さに怒って、悲しみに泣いて、苦しい思いを全部吐き出して、ようやく向き合えることもあるんだと私は思います。」
レンカはミヤビにそう声をかけると、軽い衝撃を背中に感じた。少女の、恐らくミヤビだが夜風で少し冷たくなった体温を背中越しに感じる。
「ミヤビさん?」
「…ごめんなさい。みんなつらいのに、私だけみんなの前で泣くわけにはいかなくて…。少しだけ背中を貸してください…。」
「いくらでもどうぞ。」
「ふふ…。ありがとうございます。……うっ、…ううっ…。」
ミヤビはレンカの背中に顔を押し付けると、声を押し殺して泣き始めた。レンカは背中で泣き続けるミヤビが元気になれるように祈りながらただ黙って背中を貸していた。
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