閑話3

メルティからの説教とも慰めともとれる言葉を聞いて、レンカは2年前のメルティやレイス、ミヤビたちとの出会いを思い出していた。


今から2年前、レンカはE-2地区でアルマ商会の定例任務で神兵に対する警備を行っていた。アルマ商会ではシェルターの安全確保のため、定期的にE地区の巡回を行い、異常が無いかを確認している。今回の定期巡回では3日をかけて、E-2地区の巡回をレンカは単独任務で行っていた。

 巡回を始めて2日目の正午、初日は特に異常を見られず、今回も何もなければいいと思いながら見回っていた時に、少し離れたところで小型探索機に反応があった。

(!…やれやれ。今回はついてないな。反応は4体か。少し遠いが討伐しておかなければな。)

そんなことを思いながら、反応があった現場まで急行することにする。

「こちらレンカです。アルマ商会応答願います。」

『こちらアルマ商会だ。レンカか、何かあったか?』

「E-2地区巡回中に神兵の反応を受信しました。現場に向かい、状況の確認と討伐の許可をお願いします。」

『了解した、許可する。お前なら問題ないと思うが、討伐が可能かよく判断して行動に移れ。』

「了解です。では、現場に向かいます。通信終了。」

E-2地区では既に過去の任務により、通信機器が回復していて、シェルター内の通信が可能である。他のシェルターとも連絡を取れるが、そのためには一度、他のシェルターに赴き、通信チャンネルを伝える必要がある。ただ、そのシェルターの通信機器が使用できる状態であることが大前提ではあるが。

(ん?探索器の反応がおかしいな。4体とも細かく動いている…?交戦中か、もしくは…!)

探索器の反応を見て、いやな予感がしたレンカは、身体強化の魔術の変換率を上げ、現場へ急いだ。


現場へ近づくと、少し離れたところから女性の叫び声が聞こえている。声からして複数人いるようだ。

「お願い、こっちにこないで!!」

「お母さん!お母さん!」

「逃げなさい!せめて子供たちくらいは逃がすわよ!」

悲痛な声と子供を守ろうとするとうな気丈な、それでいて震えている声が聞こえてきて、レンカは奥歯を噛んでさらに魔術の変換率を上げた。現場の状況が視界に入ると、10人程度の女性が一つに固まって12~14歳くらいの女の子を守るように地上ヒト型の下級神兵に対峙していた。下級神兵の足元には血を流しながら倒れている女性が1人いた。神兵は今にも対峙している女性に襲い掛かりそうだった。

「早く逃げなさい!…お願いだから。」

「やだ、やだよ!レイスさんもメルティさんも一緒に逃げよう!」

「皆置いていけないよぉ…。」

そんな声を聴きながら、神兵が攻撃圏内に入ったのを確認して、レンカはホルスターから拳銃型魔道具を引き抜くと、女性たちに襲い掛かろうとしていた神兵3体に向けて引き金を立て続けに引いた。銃弾が命中した3体の神兵は、吹き飛びながら壁に激突し、動かなくなった。

「!?今度は何!?」

「あいつらが吹っ飛んだ…。」

「でもまだ1体いるわよ!気を抜かないで!」

女性たちは突然の出来事に混乱しているようだ。

「ギギイイィ!」

残った神兵は、突然仲間がやられたことを理解すると、その場から逃げるように離れようとした。レンカは逃げようとした神兵に高速で接近すると腰から大型のナイフを引き抜いて、魔力を流しながら振りぬいた。

「逃がさねぇよ、確実に消す。」

振りぬいたナイフは神兵の首を通過し、首が胴体から離れると、レンカは胴体にさらにナイフを振り下ろした。レンカは胴体を真っ二つに引き裂くと、戦闘が終了したことを確認し、女性たちのほうへと足を向けた。まずは倒れている女性の生死の確認を行う。

「と、止まりなさい!」

「あなたは誰!その人に何をする気なの!」

倒れている女性の生死の確認をしようと近寄ると、先ほどまで神兵に対峙していた女性2人がレンカに向かって、ナイフと小型ハンドガンの銃口を向けた。

(声が震えている。恐怖と突然の状況に頭が追い付いてないのだろう。それでも仲間を守るために、か…強い人たちだな。)

そんなことを思いながら武器を収めつつ、女性たちへ声をかける。

「私はこの付近のシェルターにある、アルマ商会所属の警備兵のようなものです。この地区を巡回中に神兵の反応を受信し、討伐に参りました。参戦が遅れて申し訳ありません。このあたりの神兵は討伐いたしましたので、しばらくの安全は確保いたしました。武器を下ろしていただけますか?」

レンカは状況を説明し、できるだけ安心させるように優しい声をかける。

「…じゃあ、私たちは助かったの?」

「はい、もう安全です。」

「…そ、そう。あ!ユイカさんは!?」

会話に応じてくれた女性は一瞬安堵の表情をすると、倒れている女性の安否を尋ねてきた。既に倒れている女性の生死を確認していたレンカは表情を曇らせると遠慮気味に口を開いた。

「…残念ですが、既に…。」

「っ……、そう…。」

倒れている女性についてやり取りをしていると、女性の集団の中から10代半ばの少女が飛び出してきて、倒れている女性へと縋りつく。

「お母さん…?ねぇ、起きてよぉ…。」

「……」

「ねぇ…。お母さん死んじゃったの?もう、一緒にご飯食べたり…買い物に行ったりできなの?」

「…ええ、既にお亡くなりになっています。」

「っ…どうしてっ!どうしてもっと早く来てくれなかったの!もっと早く来てくれればお母さんが死んじゃうこともなかったのにっ!」

「ミヤビ!やめなさい!その人は私たちを助けてくれた恩人よ!」

「助けられてないじゃない!お母さんはもう…、うっ…うっ…。」

「…すまない。」

レンカは泣いているミヤビと呼ばれた少女へ頭を下げると、先ほど会話をしていた女性へと向き直る。

「改めまして私はアルマ商会所属のレンカと申します。あなたたちの代表の方から経緯をお聞きしたいのですが。」

「…私たちの代表はその…ユイカさん…ミヤビの母親だったのだけれど…。私が説明します。申し遅れました、私はメルティと言います。」

年のころは20歳前後といったところだろうか。緑の髪をした、先ほどからレンカと会話に応じてくれていた女性が名乗った。

「了解しました、メルティさん。敬語は不要ですので、簡単に説明していただけますか?必要ならば今後も私の所属する商会でお手伝いできるかもしれません。」

「わかりま…わかったわ。それで…。」

メルティから経緯をまとめると、メルティたちはこの付近にある30人くらいの小型シェルターで生活していた。だが、神兵の行動範囲にシェルターがある地上部が侵食され、今まで取れていた食料などの生活物資の極端に少なくなっていたそうだ。このままではいずれ全滅になると思い、そのシェルター住民全員が他のシェルターに移民することを決意した。移民するシェルターは、過去にそのシェルターからたどり着いたことがある男性から聞いたことがあるところだと言った。そのシェルターはコロニー型だというものなので、この付近にある大型のコロニー型シェルターはアルマ商会があるシェルターしかないので、ほぼ確実にアルマ商会のあるシェルターだろう。その移動に際して、小型シェルターにいる男性たちがそこまでの安全確保のために、1月前に出ていったが、誰も帰ってこなかった。このままでは数年待たずに全滅すると思った女性たちは、覚悟を決めて移民することにした、ということだった。

レンカはメルティから経緯を聞くと、アルマ商会と連絡をとった。

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