第47話 オッサン少女、魔人と戦う!

「その厄介なマナ強奪ドレインさえ無ければ、貴様など俺様の敵ではない!」


 奴は、メギドスから指輪を渡されて、指にはめるとそう言った。


 おう。そこから舐めプですかイノアスくん。

 盛大に瘴気をまとって威圧してくるが。生憎、こちとら魔法少女なんでね。効きませんって。

 しかし、仲間たちはひるむかも。


 ――と、威圧感はそのままで、イノアスの姿が消えた。認識疎外の魔法だな。しかも無詠唱。

 だけど、瘴気探知で居場所はまるわかりだ。

 が、これはヤバい。


「! みんな、外に出て!」


 イノアスは俺を避けて、背後の仲間たちに忍び寄ろうとしていた。不意打ちされたら、ここでは逃げ場がない。

 俺の警告で、みんな外へと飛び出し、陣形を組んだ。


「エミル! 奴はどこに!?」


 盾を構えつつ、ブールは視線を左右にめぐらす。


「ここ!」


 瘴気探知でイノアスを探り、蹴りを放つ。


「エミル・キック!」

「くっ!」


 だが、がっちりガードされてしまった。当然だ、いちいち技の名前を叫んでちゃな。

 そこへ、奴の反撃が! 何か鋭いものが突き込まれてきた。


「きゃあ!」


 指先の鋭い爪で貫手ぬきてを放ったらしい。結界で弾かれたが、マナがごそっと持っていかれた。その分はマナ強奪ドレインできるが、あの指輪の宝珠、かなり大きそうだった。

 ブレスレットの八千ミナを超えていたら、奪いきれない。その間に仲間がやられたりしたら、ちょっと立ち直れないかも。

 よろしい、ならば物理攻撃だ。収納から魔法の杖メイスを取り出し、構える。


 何度かやり合い、相手の間合いに入って浄化を唱えるチャンスを狙うのだが……瘴気探知で気配はつかめるものの、やはり認識疎外魔法は厄介だった。

 と、イノアスが呪文を詠唱し始めた。素早く動き回りながらなので、どうしても探知した位置に遅れが出てしまい、こちらの攻撃が当たらない。


「エミル! この呪文、どうやら闇魔法のようだ! 精神汚染もありえるぞ!」


 ビシャルはそう告げると、対抗のための呪文を唱えに入った。

 だが、先にイノアスの呪文の方が先に完成してしまった。


「……隷属!」


 黒い光が周囲にまき散らされた。仲間たちは皆、悲鳴を上げて苦しみだす。


「この!」


 黒い光の中心へ向かってメイスを振るうが、どうしても当たらない。

 すると、必死に苦痛に耐えていたビシャルが、呪文を唱え終えた。


「……闇を祓え、霧散ディスペル!」


 掲げた杖の宝珠が輝き、黒い光が打ち消されていく。同時に、みんなの状態も正常に戻った。

 ――ただ一人を除いて。


「アルス君!?」


 いきなり背後からメイスで殴り掛かってきた。その両目は真っ赤に染まっている。


「どうして? なんで!」


 攻撃をよけ、こちらのメイスで弾きながら問いかけるが、返事はない。ただ、獣のようなうなり声をあげて、遮二無二打ちかかってくるばかり。


「くそっ、アルスの奴、さっきので心を折られたか!」


 テリーが吐き捨てるように叫んだ。


 ……そうか。教会の孤児院が事実上、人身売買の拠点にされていることを知ったから。


 なら、ちょっとだけ眠ってもらおう。


「百ミナ吸収!」

「ぐあぁああ!」


 倒れるアルスを抱きかかえ、ノリスに渡す。

 そして、イノアスに向き直った。ビシャルの呪文で魔法が打ち消されたため、認識疎外も効かなくなったようだ。


「もう逃がしませんよ!」


 メイスを振りかぶって突進するが、長く伸びた爪にガッチリとつかまれてしまった。


「くっ、小娘のくせにそんなものを振り回して!」

「小娘じゃないわ! 魔法少女よ!」

「なら、こんなものじゃなく、魔法で戦え!」


 良いだろう。この間合いならできるはず。


「浄化!」

「があああっ!」


 倒れて転げまわるイノアスだが、やがてヨロヨロと立ち上がった。


「まさか……浄化しきれないなんて!」

「魔人を……舐めてもらってはこまるな!」


 一体全体、どんだけけがれてるんだよ! と思ったが、瘴気は悪意に汚染されたマナだ。指輪の宝珠から補給されただけだ。

 厄介なモノだ。これだからマナ持ちは嫌いだ!


 だが、イノアスは警戒して距離を取る。身体強化もしているのだろう、こっちが突進してもスルリとかわされる。

 これでは千日手だ。あまり時間を取られると、ネズミ男に逃げられる。もちろん、瘴気探知で追跡できるが、隣国に入られると面倒だ。

 ビシャル先生によれば、砂漠に近い環境のダムセドア首長国では、竜というかトカゲというか、爬虫類に近い魔獣が使役されているらしい。コイツが、やたら長距離を高速で踏破するとか。

 そうなると、瘴気探知の範囲外に出られてしまう。それだけは避けたい。

 ヤツこそがこの領地での黒幕。何としても締め上げないと。教会の孤児院以外のポイントが、絶対にあるはず。


 コイツにも色々と聞きたいことがある。西隣の領区は豊作なのに、なぜこの領区はここまで貧しいのか。

 金銭的にはさておき、気象状況が同じなら、作物の収穫は大差がないはずだ。それが違うというなら、どこかで誰かが不正を働いているはずなのだ。


「食料を敵国に流している奴が、他にいるのでしょう!」


そう問い詰めると、イノアスは不敵にわらった。


「だったら、どうした?」

 おう。罪を自ら認めたな。


「エミル・パンチ!」


 反射的に放った一撃は、ヌルっとかわされた。

 なんで毎回、技名を勝手に叫んじゃうんだよ! 少なくとも、人語を解する魔人族相手では、問題外だぞ!

 それでも、動き回ったせいで、奴の背後は仲間とも館とも射線が外れた。


「……炎の矢!」


 俺の呪文詠唱を聞いて「は! 効くかよそんなもん」と高を括ってるイノアスに、相変わらず威力がバグってる業火の柱が直撃。


「ぎゃああああ!」


 こんがり焼きあがったイノアスが、ばったり倒れた。うん。さすがは魔人。まだ息がある。収納から縄を取り出して縛り上げ、猿轡さるぐつわも嵌めた。

 そして、例の指輪もボッシュートだ。


 さて。みんな大好き、質問拷問コーナーと行くかな。

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魔法少女エミル(すまん、中身はオッサンなんだ) 原幌平晴 @harahoro-hirahare

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