第40話 エピローグ
罪悪感に押しつぶされそうになりつつ、かなりの覚悟で言った俺の言葉に龍宮寺さんは、拍子抜けするほどあっさりと頷いた。
俺の話が何なのかも言っていないし、龍宮寺さんが俺の話を聞く義理はないというのに。彼女は何の迷いもなく頷いてくれたのだ。
ここで解散でもよかったのだが、あんなことがあった後だし、彼女のこと家まで送ることにした。
俺が龍宮寺さんに、能力の事を打ち明けたいというのは、ただのわがままだ。
だというのに、何の話かも分からない俺の話を聞いてくれるという、彼女の気持ちが嬉しかったから、というのもある。
懐が広いというか、龍宮寺さんが人から好かれる理由はああいうところにあるのかもしれない。なんだか頼ってしまいそうになる安心感をひしひしと感じてしまう。
前世も合わされば俺の方がかなり年上だというのに、龍宮寺さんの方がよっぽど大人みたいだ。
世の中、いつまでも子供から大人になれない人間がいるというが、正しく俺のことだろう。無駄に歳だけ重ねてしまっている自覚がある。
案外、高校生ぐらいが俺の精神年齢にピッタリなのかもしれない。流石にそれはないと願いたいが。
俺は大人へのなり方を知らない。
どうすれば、人は大人になれるんだろうか。
考えても意味のないことだが、考えずにいられない。
前世、成人を迎えた俺は、それでも大人にはなれなかった。
俺は今世こそ大人になれるんだろうか。
「家まで送ってもらってよかったのか?」
「もちろんですよ、話したいこともあったので。」
それに、龍宮寺さんを一人で帰らせるのは忍びないので。
「そ、そうか。今日は一緒に帰れて、嬉しかったぞ」
「そ、そうですか」
なんだろう、俺の顔が猛烈に赤くなってる気がする。
おい、落ち着け俺。
自分の精神年齢を思い出せ。
そして、俺が面食らっている間に、龍宮寺さんの家に着いたが、そこで更に俺に追い討ちをかけるのは、彼女の家の大きさだ。
「ああ、また明日学校でな」
「はい、また明日」
いや、でかくね?
彼女と別れの言葉を交わすのは、玄関の前なんかではない。日本家屋の立派な門の前だ。
驚きが表情に出ないのは、今だけこの分厚い前髪に感謝したい。
あれだな、ドラマや映画の中で見る、極道の親分が住んでそうな家だ。
門のある家なんて中々ないぞ。
想像以上に立派な龍宮寺さんの家の前で別れの言葉を交わしてから、家に帰る。
彼女の家は公園から歩いて数分のところにあった。
あんなに大きな家、近所に住んでて何度か前を通ったりしたこともあったが、知り合いが住んでるなんて思わない。
今日は本当に色々と迷惑かけたな。
学校で月森さんから助けに来てもらったり、怪物の元へ向かうために眠らせてしまったり。眠らせてしまったのは、一歩間違えばかなり危険なことだったと反省している。
本当に、いつか絶対にお返しをしなくては。
家まで送る間、日曜日のランニングのことや、色々と話は弾んだ。
待ち合わせ場所はあの公園になった。彼女のランニングコースらしいし、丁度いいだろうということだ。
一人で家まで歩く。
本当なら今日も実験をするつもりだったが、怪物との戦闘もあったのと、魔法少女さんたちへの治癒魔法で思いの外、魔力を消費してしまったからだ。
同じ【妖精魔法】でも効果によって消費する魔力量は全く違う。
特に治癒魔法は消費が浮遊やら透明化とは比にならない。
【妖精魔法】は込める魔力によって効果が増すが、治癒魔法はそのものの消費が多い。
その所為で魔法の実験をする魔力がもう無いのだ。
純粋に今日は疲れたともいう。
まあ、魔力があったとしてもだ。呑気に実験できるほど俺も図太くはないから、そのまま帰ってた気がするけどな。
自分への良い言い訳が出来たと思おう。
「ただいま」
「あら、おかえり~」
リビングで母さんがドラマを見ていた。
絵里香はまだ帰ってきてないようだ。気絶してすやすや寝てたから無理もないか。
★
しばらくして、絵里香は帰ってきた。
今は、晩御飯も食べ終わって母さんと一緒にテレビを見ていた。
あんなことがあったというのに、家に帰ってきた絵里香は、いつもと全く変わらなかった。
絵里香が魔法少女の存在を知って、あの夜のことが夢じゃないと分かれば、俺に聞いてくると思っていた。
けど、今の絵里香は俺に対しても普段通りだった。
知った上で何も言わないのかもしれないし、幼馴染ちゃんが適当に誤魔化したのかもしれない。いや、それはないか。
ベッドの上に寝転がりながら考える。
今日、あと少し俺が助けるのが遅ければ、絵里香は大怪我じゃ済まなかったかもしれない。
絵里香を失っていたかもしれない。
俺も、覚悟を決めないといけない。
前世の俺は、進むことから逃げて立ち止まって、そのまま進むことが出来なかった。
俺が立ち止まっていても、時間は決して待ってくれない。俺を置いて、時間は進み続ける。けど、立ち止まった俺を待ってくれている人は必ずいる。
俺はそれを知っている。
もう、俺を待ってくれている人を無視する生き方は嫌だ。
今世こそは、自分を見てくれる人と向き合って生きていく。そう決めたんだ。
目の前の問題と向き合うんだ。
俺がいつも絵里香と一緒にいて守れるわけじゃないし、魔族は何人かいると思った方がいい。いつ現れるかわからないんだ。
絵里香が魔法少女になっていたら、襲われても戦うことができた。
けど、俺のせいで絵里香は今、魔法少女じゃない。
いつの間にか、俺の選択が絵里香を危険に晒してしまっていた。
危険から遠ざけることと、危険から守ることはイコールじゃない。俺はそれに気が付かなかった。
絵里香を巻き込まないために彼女が魔法少女になることを止めた。
だが、それは間違いだったのかもしれない。
戦う力を持っているから、争いになるんじゃない。
力を持っていないと、争いにすらならないんだ。
今日のようにあんな怪物がいる以上、身を守る力は必要不可欠。
ずっと俺が絵里香を守ればいいなんて、無責任なことは言えない。
今日もあと少し遅れていたら手遅れになっていた。
絵里香に身を守る力を与え、その上で、俺が守ればいい。一緒に戦えばいい。
今でも、絵里香が戦うことになって傷つくことになるなんて考えるだけで嫌だ。
だとしても、絵里香を失うよりも何倍もマシだ。
俺は覚悟を決めないといけない。
俺の手に入れた力の一つ、【契約】。
これを使う。
絵里香と契約して、魔法少女になってもらう。
魔法少女のいる世界に転生したイケメンは顔を隠す バナナきむち @kamota0408
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