10話 1人で旅はするのは無いそうです。

王が亡くなってから2週間が過ぎた。

いや、亡くなってとも言うべきか。

実際は魔人に体を完全に奪われ、受肉されたと言うべきだ。

王が姿を消した当初は国中が騒いだ。

これからこの国はどうなるのか、もう終わりかなど。


そして姿を消したのは隠蔽したい事実があったのではと在らぬ噂が後を立たなかった。

だが、そんな中1人の女性が帰還したのだ。

その帰還によって、混乱していた国を瞬く間に何時もの平和な国へと戻して見せた。

1人の女性でこの国の王、マクシミリアンの女王。


グレイス・リーブン・マクシミリアンこと、グレイス女王。

そんなグレイス女王に俺とソイレーンさん、レイラとハートが城に呼ばれて、王の居る謁見の間にいる。

膝を床に付けようと膝を曲げようとしたが、


「床に付けなくても良いですよ、タカセ様」

「え、あ、はい。分かりました」


制止され、普通に立つ。

え、そもそも付けようとしたか?それはね、


「久しいな、グレイス女王」

「ええ、シオン貴女もね」

「剣の指南所以来だな」

「そうね、フフフ」

「フフフ」


と腕を組んで堂々と話すソイレーンさんに。


「お母さん、お腹空いた」

「む?まぁ、もう少し我慢よハート」


仁王立ちしているレイラの横に立つハートである。

……あの、俺達の目の前にいる人はこの混乱の中、2週間で何時もの国へほぼ戻して、尚且つ女王のお方よ?


「おや、タカセ様?どうなさいました、何かお疲れの様にお見受けしますが?」

「あー……いえ、お気になさらず」


ハハハーと軽く笑っておこう。


「っとまぁ、おふざけもこの位にして。オッホン! 十傑の1人騎甲姫きこうきのシオン、赤竜帝様にそのご息女様、そして世界で行われた英雄召喚で残って下さったタカセ様。この度は、皆様に多大なご迷惑をお掛けした事、謝罪が遅れた事、大変申し訳ございません」


凛とし、カリスマ性に溢れる女王からのまさかの謝罪、それも頭を下げてだ。

こんなこと、普通は出来ない。それをこうも平然と……だからこそ、この国が元に戻るのが早い訳ね。

いい人だ、心からそう思う。


「皆様にお聞きしたい事と確認、更には皆様がこちらにお聞きしたい事があれば、分かる範囲でお答えしましょう」


と言うが、正直な話……俺自身は色々聞きた過ぎて何から聞こうか少し迷う。

この時間も女王がわざわざ作ってくれた物だ。

となると、時間も限られている筈。

何から聞こうか……。


「グレイス女王」

「何でしょう?」


シオンが口を開く。流石にシオンなら、ある程度話が纏まっている筈だ。

それに合わせて俺も聞きたいことを聞こう。


「新しい特産品を出さないか?流石に今までのは飽きてきた」


何言っちゃんてんのぉ!?え?え?天然なの天然なの!?

実は天然でしたーパターンか!?

てか、ほら!変なこと聞くから、女王も真剣な表情を浮かべてるじゃん!

これ怒ってるでしょ!お、俺が謝るか……。


「もうしーー」

「ーーフム、それは難しい問題ですね。検討しておきましょう」

「え?」

「ん?どうしましたか、タカセ様」

「あー……いえ、別に」


あれー?可笑しいぞー?何で怒らないんだ?


「次に赤竜帝様は何か御座いますか?」

「……そうだな」

「はい」

「……」

「……」


レイラと女王が口を閉じてからの静寂。

およそ、40秒……いや、これ相当長いぞ?

思うと、レイラが女王に顔を合わせ、


「何もないな」

「そうですか、承知致しました」


思わず顔に手を当てる。

何だろう……何故か、頭痛がしてきたな……。


「タカセ様、どうなさいましたか?もしや、体調が優れないのですか?」

「女王……申し上げにくいのですが、重要な話があるのでは?」

「そうですね、おふざけもここまでにしましょう」


フフフと笑ってから咳払いを1つ付く。


「2週間前に起きた我が国での問題、厄災王の欠片が人に適合した者、魔人の出現。そして、世界各地で起きた同時勇者召喚。これにより、世界各地でモンスターの被害、魔力の枯渇により植物などにも被害が出ています」

「グレイス女王、他の勇者は何処に?」


シオンが気になっていた他の勇者の事を聞く。

確かに他に勇者がいるなら、共闘した方が絶対に良い筈。


「……この世界にはタカセ様とコウノ様しかおりません。他の勇者は自分の意思で戻ったか、強制送還されております。我が夫は取りつかれていたが、今後の事を考えてくれたと思います」


少しだけうつむき、悲しげな表情を浮かべる女王。


「とても責任感と正義感の強い方ですから、だからこそ早い段階でタカセ様とコウノ様が始末されず、野へ放り出されずに済んだかと思います」

「なるほど」


確かにあの場面、良く王は自身の意識を保っていたと思う。

てか、あれ?今更ながら、河野君は?


「あの河野君はどちらに?」


恐る恐る聞く。


「コウノ様は現在冒険者をやっております。今ですと、北東の中間にある国、ノクリスにいるのでは無いでしょうか?同行者は3人。その中に東の国、セライラ・デイ・サームクェイド姫が居ますね」

「申し訳ございません。その方を自分は存じていなくて……どちら様でしょうか?」

「東の国、砂漠の国サームクェイドの姫です。後、北東の聖法国ミシュランの修行子しゅぎょうしもいらっしゃいます」

「なるほど」


などと言ったが、何?聖法国?ミシュラン?修行子?

なんだなんだ?いやまぁ、聖法国は言葉とかで何となくって感じで分かる。

ミシュランって、何?料理の最高の名誉と星でも与えるのですかね?

それに修行子って何だ?


「修行子とは王位継承権争いをしている者の事です」

「なるほど」


俺の表情を見てからなのか、分からなかった修行子の事を教えてくれた女王。

いや、マジで出来る人だわこの人。

てか、なるほどな。王位継承権争いをしている人ね。


「え?」


待て……それは王子か姫と言うことだろ?

それも国を揺るがす程のイベント。

それにそういうのは、ドラマとかマンガで多少分かる。

蹴落とし合うと言うこと、それは相手がどんな状態だろうが王位継承権を無くせば良い。

人質、脅迫、殺傷……もっとエグいかもしれないが、そういう奴らと関わっていたのか河野君……。

君は本当に凄いよ……俺には絶対に真似は出来ない。


「タカセ様、え?と言うのはもしや、コウノ様のご心配を?」

「え、ええ……」

「ご安心下さい。あくまで同行していただけ、と言う話ですので。王位継承権争いに参加はしておりませんよ」

「ふぅ、それは何よりです」


安心した、参加したらまずいもんな。

まずい……のかな?まず、い……だろ、うん。


「今のところは、ですが」

「それは聞きたくない言葉でした」


フフフと笑う女王にドッと疲れがやってくる。

何か良くこの人、この国をまとめたな。

時折、ふざけてくるの何か怖いんだけど。


「さて、話が脱線しましたが。正直、この事態は世界的にとても危険な状態であります。一部の生物が激減しています」

「食物連鎖の均衡が崩れたと言うことか」

「はい、しかしこれは激増した生物を討伐し、激減した生物を保護、討伐非対称にする。ですが、それはあくまでも問題の一部、本題は……」


何処か歯切れが悪い。


「厄災王の事ですね」

「はい、タカセ様その通りです。これまでの歴史、何度も厄災王の脅威に晒されてきたか……考えるだけでぞっとします」

「あの、質問良いですか?」

「何でしょう?」

「厄災王の復活のスパンってどの程度なのですか?」


正直復活があるなら、復活のタイミングが必ずある筈。だけど、俺はそれを知らない。

それに復活したのであれば、今までの厄災王の対策や能力が分かると思う。


「100年に1度、ですが……今回は少し早く、60年で復活しました」

「確かに早いですね」

「えぇ……」


どうしてだろう、何故そんなに浮かない表情を浮かべるのか。

俺は周りを見渡すと、ソイレーンさん、レイラや他の者が同じ様な表情を浮かべていた。

何だ?何が、どうした?


「実はな、ミナト」

「ん?」

「本当は1000年に1度だった」

「は?」


ソイレーンさんの思いもよらぬ回答に、思わず口から言葉が漏れる。


「どんどんスパンが短くなっていっているんだ」

「封印自体が弱まっているとか?てか、そもそもどうやって封印?倒す?んです?」

「厄災王の欠片全てを最後の1体まで破壊して、最後の1体を封印する。これしか方法がない」

「……欠片全てを封印は出来ないのですか?」

「不可能だ」

「何故?」

「欠片が幾つあるのか分からない。それだけじゃない、欠片1つ1つが強力だ。それは先の戦いで分かっただろう」

「確かに強力だけど……ソイレーンさんやレイラは封印は出来ないのですか?」


突然、目を丸くする2人。

え、俺何か変なこと言った?

思うと、ソイレーンさんが何かに気付いた。


「ミナト、封印は簡単には出来る物じゃない。それに封印には封印術と言う特別な力が必要で、それを封印する者。封印士が今、この世界に2人しかいない」

「あ、なるほど。けど、俺の能力なら……いや、無理か」

「タカセ様は封印が出来るのですか?」

「多分、可能かと思いますが……」

「何か問題が?」


女王に聞かれるが、正直俺の能力の事を話しても良いのか少し悩む。

信頼出来るが、この情報がリグレットや別の魔人に伝わるか分からない。

だからこそ、隠しておきたい部分がある。

それに封印は可能だろうが、その代わりに他事に使えなくなる。


それらの事を踏まえて黙っていると、


「グレイス女王、出来ればこの事は内密にして貰いたい。可能な限りでいい、人払いをして貰っても宜しいか?」


ソイレーンさんが助け船を出してくれたのだ。

それから、グレイス女王と隠密兼護衛の影と呼ばれる者がその場に残った。


「自分の能力は干渉、あらゆる物に任意の影響や状態を与えたり、見ることが出来ます」

「では、その力があれば世界に散らばった欠片を一気に封印は出来ないのでしょうか?いや、出来ないから、リグレットを封印出来なかったのでしょうか?」

「そうですね、出来ないと言った方が良いです。目視と確認が出来れば問題ないのですが、問題は干渉を行うと再度同じものに干渉が出来ない、と言う問題です。それに格上相手にその干渉能力が効かない可能性がある、と言うのもあります」


そう、この前のリグレットへ干渉を行おうとしたが、一部の干渉能力が使えないというのが判明した。

多分、今の俺よりも強い相手には干渉能力を完全に使えない、と言うこと何だと俺は思う。


「それに」

「どうしましたか、タカセ様?」

「……何故、リグレットが俺を殺さなかったのか分からない」

「と、言いますと?」

「俺は転移でこの世界に来た、なら必ずしも祝福ギフト持ちなのは確定している。俺の能力を知らなくても、小さな芽は摘むと俺は思いました。けど、リグレットはそれをせずに、その場を去った……何の意味が」


何が何なんだ?どうして俺を生かした?あの場面、奴なら俺を殺せたと思う……多分。


「いや、ミナトあれは、多分体との調整が出来ていなかったと私は思う。だから、殺さなかった」

「何でそう思うのですか?」

「あそこで本来の力なら、私も赤竜帝も殺されていた筈」


だが、生きている。と伝えたいのだろう。


「それ以外に無いと思うぞ、ミナト」

「確かに……そうかもしれない」


それならある程度の辻褄が合う。

さて、これで俺の疑問が晴れた。


「女王、これからどういう対策を取るおつもりで?」

「そうですね……魔人へ対抗出来るのが、十傑とタカセ様とコウノ様のみですので、皆さんにお任せするつもりです。誠に申し訳ございません、お力になれず」

「了解致しました」


頭を下げ、話を終える。

よし、気付いてしまった事を伝えよう。


「女王と陛下の間には子供はいないのですか?以前から見た覚えがなくて」

「フフフ、それならいずれ会えるかと」

「いずれ?と言うことはこの城に?」

「いえ、この城には居ません」


はて、それなら何処に?

フフフと笑みを溢してから、


「コウノ様とご一緒しています。名はシャルティア一人娘です」


フフフと笑い直す女王。

あーなるほど……通りでさっき同行者が3人ってそういう事ね。

てか、河野君ハーレムな旅してる。

いやぁ、凄い、本当に凄い……まるで小説とか漫画に出てくる主人公だね。


「所でタカセ様は今後はどの様な計画を?」


などと考えていると、女王から質問を掛けられる。

俺は1つ咳払いをしてから、


「まずは、冒険者ギルドに行って情報収集してこの国を離れようかと」


この一言にこの場にいる内の3名が過剰に反応するとは、この時俺は思いもしなかった。


「……ミナト」

「ミ、ミナト?」


レイラとハートが何故か狼狽えている。


「ん?どうした?」


言った瞬間だろうか、レイラが袖端をギュッと掴み、ハートは思いっきり抱き締めてきた。


「え、あ、ん?ど、どうした?」

「……今回の件で分かった。今回の厄災王の欠片の戦い、厄災戦は熾烈を極めるだろう」

「そ、そうなの?」

「間違いない、私は奴にリグレットに何も出来なかった」

「……」

「頼む、ミナト……どうか、どうか私達の元から離れんで……くれ……」


涙を流すことを耐えていたのだろう。

最後には声が震えて綺麗な瞳から、透き通る涙が頬伝い流している。


「ハート、良い子にする……言うことも聞く……ミナトになんでもする」


顔を埋めていたハートが目を赤くしながら涙を流し、顔を上げて言う。


「ハート、なんでもはダーー」

「ーー初めてもあげる」

「はい、それはストップしましょうね」

「だからだから、一緒にいて……御願い……」


抱きしめている腕が震え、そして力が入っている。

……俺はどうしたら良いのだろう。

だって、世界も救わなきゃいけないし……な、何よ、り……。


「ハ……ハァ……ト」

「何?ミナト」


俺の解答に期待しているのだろう……目を…輝か、せてぇ……い、る。

て、てか……もう、げ、限…か、い……。


「し」

「し?」

「シヌ」

「え?」


ハートの最後の言葉を聞いた瞬間俺は、視界が暗転し意識を失った。


10話 終

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最強の嫁がいるので、俺の出番はほとんど無いそうです。 @h_teramisu

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