9話 平和では無かったそうです。

「異世界からの転移者、だと……」


驚きを隠せないソイレーンさん。


「まぁ、その力そうだろうな」

「??」


納得するレイラに良く分かってないハート。


「お母さん、転移者って何?」


聞かれたレイラは膝を曲げ、ハートと同じ目線になってから微笑む。


「この世界は私達の様な人達が最初から住んでいた訳じゃないの」

「どういう事?」

「異界の住人、この世界とは異なる文化を持ち、その世界で生きてる人達。その人達が何かしらの理由でこちらの世界にいることがある」

「なるほど……じゃあ、ミナト見たいな人と私達がこの世界に住んでたって事?」

「そうよ、それで基本的にはこちらに来るときは転生か転移のどっちか」

「召喚では無いの?」

「召喚もあり得るけど、転移召喚と言う別称があるし、本人がいつの間にか条件を満たしてこちらにくる事もある。これも転移。だから、総称で転移と呼んでるの」

「んー?それなら、ミナトは転移と言ってたけど。どっちなの?」


ハートの質問に全員がこちらを見る。


「俺は召喚された側だよ」

「待ってくれ、ミナト。召喚されたと言ったな?何処で召喚されたのだ?」

「ここだよ」

「……」


顔に手を当て、落胆するソイレーンさん。

へ?どうした?何かやったか、俺。


「通りで……この辺りのモンスターが急激に活発した訳だ」


通りで……って、どういう事?


「どういう事?」


と、タイミング良くハートがソイレーンさんに聞く。

ナイスタイミングだ、ハート!


「……赤竜帝、貴女はこの事態を知っていたのか?」

「……どの時代も人間とは愚かな者と、認知しておった」


ハートが左右交差しながら見ている。

そりゃそうだ、質問に対して回答は無く、よく分からない事を話しているからな。

もちろん、俺も分かってない!

すると、ソイレーンさんが険しい表情を浮かべながらこちらを見る。


「ミナト……後できっちり説明する。だから、私の質問に素直に答えてくれ」

「え、あ、はい」


何だ?何でそんな事を改めて聞く?


「複数人でこちらに転移してきたのか?」

「ええ」

「……何人だ?」

「自分含めて6人」

「…………全員ギフト持ちなのか?」

「あー……詳しくは分からないけど、その可能性は高いと思う」

「………………他の転移者は?」

「自分と河野達也って言う子以外、全員元の世界に帰った」

「……………………どのくらい前に?」

「1ヶ月ちょい前に?」


徐々に空気が重くなっているのに気がついてはいた。

だが、質問には答えないとな!

てか、何でそんなにヤバい空気を醸し出しているんだ?

良く見るとレイラですら、目を丸くしてこちらを見ている。

頭を抱えているソイレーンさんが、こちらを見てから、


「これは……問題だぞ」

「えっと……何が問題何ですか?」

「ここの地は1ヶ月前、魔力が極度に薄かったと言うことになる」

「はい」


と答えたけど、それでどうなるの?

俺の表情を伺ってからか、ソイレーンさんが察して口を開く。


「周辺モンスターが凶暴化する。それによって起きる現象は捕食や人に対する被害だ」

「なるほど、でもそれだけなら差程問題ではないはず」


そういう事態になっても、その凶暴化したモンスターを狩るのが冒険者の役目だ。


「……本来、地域の魔力と言うのは極度に減ることはない。そういう場所は最初からなっていたりする」

「ふむふむ、冒険者でも無理なんですか?凶暴化したモンスターならそこで対処すれば良いのでは?」


俺の質問に対して、ソイレーンは首を左右に振る。


「違うんだミナト……魔力が極度に減ることはないと言ったな。そもそも、魔力があっていつも通りに暮らすのがモンスターだ。だが、魔力が減れば極度のストレス状態に陥り、凶暴化する」

「……」

「ミナト、ここからが一番恐ろしいんだ。凶暴化したモンスターの起きる現象は捕食や人的被害と言ったな?」

「は、はい」

「モンスター同士が喰いあって、食物連鎖の均衡が崩れる位に喰い合うんだ」

「……は?」

「ここ最近、この周辺はモンスターの数が増えていたな?それでこの都市に冒険者が集まったと……その一人がギネンな訳だが」


チラりとギネンへ視線を向けてからこちらへ戻すソイレーンさん。


「……均衡が崩れているかもしれない。崩れていたら最悪だ、強者のみが生きる」

「……可能性の話では?」

「いや、ミナト。あり得る」

「な、なぜ?」

「……赤竜帝よ、貴女はここにいる場所じゃないはず。火山の近くで、山の頂上付近な筈だ。こんな、火山も近くになく山だが、とても低い。どういう事か説明はしてくれるな?」


レイラの方へ視線を向けるといつになく鋭い目をしており、いつものレイラはどこ行ったのかと思う。

チラリと俺の方を見てから、ため息を一つ。


「1ヶ月ちょい前にこちらで大量の活性化した魔物や動物が発生、子育てもあったからの……こちらに移動した訳だ」

「やはりか……赤竜帝の貴女がいると言う事は……もう」

「お察しの通りだ人間」

「生態系は……もう、か」


奥歯をギリッと噛んでいるのだろうか、口元に力が入っているのが外からでも分かる。

そしてこちらを見ている見てから、


「ミナト、王の元へ行くぞ」


険しい表情を崩さぬまま、俺はソイレーンさんへ着いていく事になる。

あ、何故かレイラとハートも共に着いてきた。

それから王の居る間へ通され、そのまま王と対面。

流石の王も中々の面子に驚きを隠せないのだろうか、ソワソワしている。


「王よ、私がここにいる理由、そして赤竜帝の同伴……もう言うまいな?」

「……」

「何故、無茶な転移召喚をした?それの代償は分かっていた筈だ」

「……今回の厄災王は強い。それを感じ、召喚を行った」

「理由は分かった。だが、何故転移者達を元の世界へ戻した?それが分からぬ」

「……そうか、達したか」


何?あれ、今何か変なこと言わなかった?


「王よ、何が達したのだ?」

「もう良い、話してやろう」

「と、言う事はこの結果を存じていた、と言うことか?」

「そうだな、十傑よ。そうだ、十傑」

「……なんだ?」

「残りの9人は何処に行っておる?」

「各地で起きている問題を確認しに行っている」

「ほう、その問題は突如、凶悪なモンスターや暴徒化した人間の問題か?」

「……」


何故か黙り込むソイレーンさんに鼻で笑う王。


「図星か」

「何故知っている?その情報は伏せられている筈だ」

「それも内容は召喚による魔力の枯渇」

「……待て」

「フム、まぁ直ぐに帰ったが少し誤算があるとしたら、何故か2人だけこの世界に残ったと言うこと。いやはや、こればっかりはその人間による性格だな」

「……まさか」

「お察しの通りだ」


……え、何か勝手に話が進んでるけど。

え?なに?どういう事?


「私達がこうなるように仕組んだのさ、次の厄災王を復活の為のな……!」


あー……なるほどね、王も厄災王の欠片にやられてたのねー。

さてさて、干渉で鑑定をッと……ってあれ?

アイツの能力が見えないんだけど……何で?

思っていると、ソイレーンさんが剣を抜いて王へ飛び掛かる。

だが、ソイレーンさんの剣は振り下ろされる事無く、空中で制止している。

良く見ると王が手のひらを向けて制止していた。


「フッ……召喚自体は何がくるか分からなかったが、まさか2人だけ残るとはな。後で始末しようとしたが……」


こちらを見てから目を細める王。

いや、王なのかあれは。


「これはこれで中々面白い」


何故か笑う王。すると、空中へ浮き始める。


「さて、これでお暇させて貰う」

「行かせると思うてか?」


レイラの背中から竜の羽が生え、王へファイアブレスを放つ。

まさかの火力、華奢な体なのに口から放たれるのは業火の炎。

それもかなり大きい、王が炎に包まれ姿すら見えない。

それが数十秒経とうとしていた。


「暑苦しいぞ、トカゲ風情が」

「カッ……ァッ!」


首を抑え、そのまま空中で、もがくレイラ。

炎の中から出てきた王は無傷で現れる。


「さて、これで去るか……ん?」


何故かその場で動かない王。

なんだ?今度は何だ?


「こ、ここに居る……皆に伝える……こ、こやつはき、危険だ……!ワシの意識が在る内に、このまま殺してく、れぇ!」

「『フーム、まだ意識があるのか。流石は人を統べる者だな、器が違う』」

「き、貴様の様な奴ががががががががががががぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜ全部で12体もいる!」

「『フムフム!人間。ほれ、がんばれ』」

「ぅらみぃ!くくくくくるしみ!カァ……なし、み!イッ……カァり!」


目から血を流し、眼球が飛び出そうになるぐらい目を開けていて、泡を吹き始める。

流石に止めると思ったがここで使って良いのか。

それが脳裏に過る。アイツをここで倒せると今俺は思えない。


正直に言えば多分俺は死ぬけど、アイツはかなりのダメージを負うだろう。

けど、それは望まぬ結果だ。

何せアイツの能力が分からない。

自動鑑定を行っていたが、結果が分からないのだ。

無闇この能力を使う事は出来ない。

一回切りなのだから。


「なぁぁぁぁぁぁぁぁめるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


咆哮し、自分の指を折った。

顔を歪ませ、痛みを抑えてからこちらを向く。


「ハァハァ……恨み、苦しみ、悲しみ、怒り、苦悩、絶望、憎悪、殺意、嫉妬、嫌悪、恐怖、後悔だ。今居るのはコイツらだ、頼む……転移者よ、この世界の連鎖を断ち切ってくれ」


優しく微笑んだ後、王の手が勢い良く自身の胸に突き刺さる。

その後、心臓を引っ張り出す。


「『フゥム!誉めよう人間。良く私の支配下にありながらも精神を残していた。これは貴様がもう苦しむ事はない慈悲だ』」


言った瞬間、心臓を握りつぶした。

吐血する王……ではなく、厄災王の欠片。

そして、傷が瞬く間に癒えていく。


「フム!これで奴は完全に死んだ。さて、私は去ろう……む?」


何処かへ飛ぼうとしたのかな?

こちらを見てくる。


「フム、ここはお互い戦うのは止めないか?」

「けど、あんたを逃がせば世界は大変な事になる」

「フゥム?お前はこの世界の人間ではないだろう?何故庇う?何故守る?」

「生きている世界は異なるけど、それでもここで生きている人に罪は無い」

「フムフム、いやぁ……こうなるなら殺しておけば良かったな。まぁ、でも……」


手のひらを向けると、


「グッ!」

「ァッ!」


ソイレーンさんとレイラが苦しみ始める。


「この結界を解け、さもなくばこの2人……フム、この場に居るお前……は殺せないのか、ならお前以外の全員をまとめて殺す」

「クッソ」

「フーム、早くしないと取り返しの付かないことになるぞー?」


俺は結界を解き、厄災の欠片を睨む。


「あーフム、そんな怒るなって。ほれ、解除」

「カハッ!」

「ヴッ!」


ソイレーンさんとレイラがその場に横たわる。

俺は2人に駆け寄り、ヒーリング・リヴァイバルを掛ける。


「あー……フーム……どうしようか、まぁ良いか」


何かと思い、厄災王の欠片を見ていると、


「初めまして、私は魔人リグレット。後悔を担当している。フム……こんな物だろう。では、な。タカセミナト」


俺の名を言ってから姿を消すリグレット。

一体何がしたかったんだ、アイツは?

一応周囲の警戒をするため、干渉能力を最大まで発動して、敵が居ないか確認。

しかし、一切の敵という敵は居なかった。

本当に何処かへ消えたんだな、アイツ。


思っていると、辺りが騒然とし始める。


「お、王が……!」

「こ、この国はどうすれば良いのだ!」

「もう、終わりだ!」


この状況を見てから思う。

当分、忙しくなりそうで、魔人の事は二の次になりそうだ。


9話 終

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