第4話 私と貴方を見守る花は
「なぁサリー。君は俺にとって、子供の頃からずっと可愛らしくて守りたい存在だった。だからこそ、気持ちを押し付けるのはよくないと思っていた。君に拒絶される事を恐れて、気恥ずかしさもあって、これまで君に積極的に自分の想いを伝えてくることはしなかった。でも、そういう態度が君を不安にさせていたなら、もうやめよう」
そう言って、彼はおもむろに自らの懐を探る。
出てきたのは、小さな箱。剣ダコのある節くれだった指で、壊れ物に障るような手つきでその箱を開け、彼はそれをこちらに向けた。
「サリー、君を愛してる。だからその……俺の『お嫁さん』になってくれないだろうか」
『お嫁さん』。幼稚なその言い方と差し出されたものの正体に、私は既視感を抱いた。
まだ彼との婚約が成って間もなかった頃。子供だった私たちは庭で遊んでいた時に、何度か『結婚ごっこ』をした事がある。
場所は綺麗な花壇の前。ベールに見立てて白いハンカチを頭からかぶり、彼と並んで誓い合った。
私が大好きな花で作った指輪をお互いの薬指に嵌めて、誓いの言葉を言い合うだけの、本当にただのおままごと。だけどその時既に彼に好意を寄せていた私にとっては、正しく将来の予行練習であり、将来の夢でもあった。
「もしかして、あの時の事を……」
「覚えてる。むしろ忘れた事がない」
愛を告げた凛々しい顔が、私の問いに柔らかく綻んだ。
彼と同じ記憶を共有できている。そう確信するには十分だった。
「約束通り、君にこの花をプレゼントする」
ごっこ遊びの最後に必ず「将来必ず、この花を君にプレゼントする」と言ってくれた彼を、鮮明に思い出した。
静かに、涙が頬を伝う。
今日ここに来る時までは、彼と別れた後で一人冷たい涙を流す未来しか想像していなかった。
しかし今は違う。
嬉しくて、幸せで、その想いが溢れた涙はとても温かい。
「見ての通りこれは君仕様だ。もし君に受け取ってもらえないなら、他に受け取り手は誰もいない」
真面目な顔でそんな事を言ってみせるのだから、彼には一生勝てないかもしれない。
差し出された指輪についた宝石を、私は指で優しく撫でた。
埋め込まれた薄桃色の宝石には、私の大好きな花がしっかりと刻印されている。
「――えぇ。貴方の『ナデシコ』、謹んでお受けします」
花の色まで鮮やかに再現されたあの日の約束を、私は泣き笑いで受け取った。
~~FIN.
―――
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