僕の新しい家

 あれから…まあ色々あったが結果として僕は星川の家に住めることになった。

奈津さんに家を出ると伝えると僕に必要な分の生活費が少なくなると考えたのかしばらく発狂していたが、たまたま家に訪ねて来たらしい星川になだめてもらうと何故か急に別人のように大人しくなった。


あの後僕なりに色々考えた。私情に巻き込んだ挙句に家に上がり込むなんて図々しいにも程があるのではないか。

父になんて言えばいいかまだ整理も付かないしバイトでもして星川の家の近くに住むところを探そうかと。家にはおじいさんが居るから安心だろうし、星川がひとりになる学校の行き帰りは僕が送る毎日送ると言ったが、一緒の家で住むことに対してこちらの罪悪感が消え去るまで説得された…凄く強めに。


そして今日、僕が星川の家に住む最初の日。

僕の部屋にある必要なものだけをまとめ、申し訳ないことにしばらくお世話になるであろう目的地へと向った。


「月くんっ、待ってたよ!」


「…ごめん。しばらくお世話になります」


「ふふっ。謝らないで?僕にとっては最高級のご褒美みたいなもんだから。月くんの部屋、ちゃんと用意したから荷物置きに行こう?」


頬を紅くしてはしゃぐ星川は子どもみたいでいつもどこか大人で余裕のある雰囲気からして今の彼は結構なギャップがある。

人前ではいつも美しく微笑んでいるが今はなんだか、心から喜んでいる笑顔な感じがして嬉しかった。


しばらくの間だが、仲の良い友達と一緒に暮らせる。そう思うと僕も少しワクワクしていた事を今になって気付いた。

色々ショックな事もあったけど、星川と一緒にいればきっといつか忘れられるのだろう。


「ここが月くんの部屋ね。家具は遠慮せず好きに使っていいから」


そこは、はじめて入る星川の隣の部屋だった。


うわ、すごい…。

まず最初にインテリアが好みだ。無機質だけどシンプルに統一した大きなベットにテーブル、ソファー、棚など必要そうなものは全部揃っている。おまけに観葉植物まで…。


星川の部屋と同じで大きな窓があり、外の景色が綺麗に見える。ここからでも綺麗に夜空が見えるだろう。

前の部屋にもちろん窓はあったが見えるのは近所の家くらいで景色と言える程でもなかった。だからこれは普通にテンション上がる。


「僕は同じ部屋でも良かったんだけどさ、自分の空間がないと月くんが落ち着かないかなと思って。

でも、いつもみたいに僕の部屋で泊まってもいいからね?」


「…ありがとう」


たぶん、その通りだ。今までずっと1人で過ごす事が多かったから急に1人の時間がなくなるとそわそわしてしまうと思う。

…相手が目の前の彼だったらきっと大丈夫そうな気がするが。


「今から夜ご飯用意してくるからゆっくりしてて」


部屋から出ようとする星川を引き留めた。


「僕も手伝うよ」


「だめ。今日は月くんが僕の家に住む記念日なんだから主役の月くんはそこで大人しく待ってて?」


そう悪戯っ子のようににこりを笑う。


「でも…悪いし」


「じゃあ明日は月くんが料理作ってよ。月くんの手料理食べてみたいし」


「うん、わかった」


今日はお言葉に甘えてしまおう。

その代わり明日は美味しい料理を星川とおじいさんに食べてもらうと心に誓った。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね?」


部屋を出ていく時星川がこちらを振り返り一言、



「月くん これからたくさん、楽しもうね?」

そう言って部屋を出た。


その際、無駄に色気のある熱のこもった視線を向けて来たのかは…謎だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いじめられっ子だった僕が狂気殺人鬼の儚げ超美少年に愛されすぎて困っている。 灰色の魚。 @aoi-neko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ