第2話 【最低な男】
電車から降りて、大学まで歩く緩やかな道のり。一限目から授業がある私は、同じ大学を目指しているであろう大衆に紛れて、ゆっくりと歩いていた。
前方には知った顔もあり、遅めの青春を味わっているような不思議な感覚に、マスクの中で笑みを漏らす。
そんな時、ふと目を凝らした先に、昨日涙を流していた知人の後ろ姿を見つける。両脇には見知った二人の女生徒の姿もあった。
浮気をされたと涙を流していた彼女は結局昼休みが終わっても堪えきれないように涙を流していたが、先生も他の人間と同じように知らぬ振りをして教科書の文字を追っていた。
そんな彼女が次の日の朝には笑顔で友人と登校している。強いなと感心しつつも肩透かしを食らった気分で、マスクの中でまた笑みを漏らす。その男は余程最低な男だったらしい。
そういえば…
「(最低な男といえば、雛美も珍しく愚痴を溢していた時があったな)」
先に教室にいるであろう友人を思い浮かべる。その話は、そんなに前ではないはずなのに懐かしく思ってしまうのは何故なのか。
私はその時、どんな顔をして聞いていただろうか_。
~~
ピロン
休日の昼間。ゲームをしていた雛美の携帯の上部にメールアプリの通知の知らせが入る。
相手を確認するが、特に仲が良いわけでもない男性の知人で、天秤に掛けられた面倒くささが勝った雛美は、そのままゲームを続ける事にした。
だが、次の通知の内容が表示された瞬間、雛美は僅かに片眉を上げる。
『お前って顔の下半分残念だよな(笑)』
突然メールしてきてなんなんだこの男は。
雛美はゲームを止めて、メールアプリを開いた。
「なに急に。失礼にも程があるでしょ」
『いやちょっと思っただけだって(笑)』
「普通それ本人に送る?」
『怒んなよ(笑)でもマジでお前マスクとかしたら結構いい線いってるのにさぁ。勿体なくね?』
「はぁ?」
『マジマジ!ちょっと俺が証明してやるよ』
「(くだらない…)」
雛美は途中で停止したままのゲームもやる気にならず、携帯も放り投げて横になった。
「(何であいつにそんな事言われて落ち込まなきゃなんないの)」
~~
「(……)」
いつの間にか寝ていたらしい。
時計を確認すれば、横になった時から二時間は経っていた。起きてもまだやる気は出ず、そのままの状態で視線だけを横にやると、携帯の通知を知らせる点滅に気づく。
やる気は出ずとも、睡眠を取ったお陰で嫌な気分も少しは和らいでいた。
謝罪であれば素直に許そうと、携帯の通知をタップして、送られていた文章を読む。
しかし、最後まで読む頃には、眠気に閉ざされかけていた目がしっかりと開き、それ以上に、雛美の目は驚きに染まっていた。
「(なにこれ…)」
『なぁなぁ見ろよこれw』
「(意味分かんない…)」
その文字の下には、
どこで手に入れたのかも分からないマスク姿の雛美の写真があった。
それだけではない。
その写真は何かのサイトの登録写真になっていた。
登録内容には一言、《パパ活募集中》
「(これって…出会い系のサイト?)」
人間って本当にそんなもん? 雪の丞 @Yukiwasiroika
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