人間って本当にそんなもん?
雪の丞
第1話 【私】
父はいつも、何も考えずフラフラと大学に通う私をよく思っていなかった。
夢という夢がなくて、なんとなく大学に入ったが今思えば先延ばしにしていただけかもしれない。そんな私を見透かすように、父は
『働け。とにかく働け。職に就け。』と
酒を飲むたび口にする。私はただ頷いた。
そんな私も母と二人、車の中でだけは思ったことを口に出来た。
何故皆、夢を見つけられるのか
不安はないのか
私は得意な事なんて無いのに
不安と不安
母は一言。『考えすぎよ』
母の言葉にまた疑問_。
そしてまた何でもない日を過ごしていた時、テレビを見ながら酒を片手に父が言った
『いなくなればいいのに』
その一言が頭から離れなくなった。
頭の片隅にずっとあって、普段通りに過ごしていても、ふとした時に頭の片隅から真ん中に出てくる。
普段通りだったはずなのに、布団で一人になった瞬間に胸が苦しくなって涙が止められなかった。
「分かってるよ」
無意識に自分の口から出た言葉もまた、
分からなかった。
~~
『雪?聞いてる?』
頬杖をついていた手が外れて、一気に引き戻される。
「え、ごめん。何?」
『もういいですー。熱でもあんの?ボーッとして。大丈夫?』
「全然大丈夫。ごめん、ごめん」
ザワザワとした教室の隅
友人である 山口雛美〈やまぐち ひなみ〉は私の机に腰かけながら眉を下げる。
それに対して私も同じように眉を下げながら謝罪をし、何でもないというように口角を上げた。
「(何で今あの時の事を…)」
『ていうかよくこんな五月蝿い教室でボーッと出来るね』
確かに。
昼休みも終わりかけのこの時間帯は、それぞれが楽しそうに話をしていて、開けっ放しの窓からはきっと外まで笑い声が響いているだろう。
だが、そんな教室で笑い声とは正反対の雰囲気が流れる机があった。
「(泣いてる…?)」
雪のいる机の二列隣。前の机の数人も楽しそうに話ながらチラチラとその机を気にしているようだった。
泣いているのは中央にいる一人の女生徒。
二人の友人に囲まれ、背を撫でられている彼女は、私も挨拶程度は交わしたことのある相手だ。
『え!浮気?』
背を撫でている、友人であろう女生徒の一人だった。驚きにより出たであろう声は五月蝿い教室ながらも、彼女のいる机の周りには聞こえたであろう声量だ。
こんな時、人間は聞こえていても聞こえない振りをする。実際、私や友人の雛美、その前の机にいる数人もそうだった。
彼女達は聞こえているとは思っていないのか、そのまま話を続ける。
『浮気?本当に彼氏が浮気してたの?』
『うん…。それでそのまま別れてくれって』
『なにそれ酷い』
『まあ男なんてそんなもんだし、気にすることないって』
『元気だして』
無神経な人達と隣の雛美が小さく呟いたのが聞こえた。雛美の顔は見なかったけど、私も同じことを思ったから見なくても分かった。
というか……
「(長濱さんって、初めての彼氏と円満だって自慢してなかったっけ)」
何で、男なんてそんなもんって言うんだろう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます